進化する安全対策を見る
- 東電・柏崎刈羽原発の今 -
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)を9月に取材した。ここは7つの原子炉がある世界最大級の原子力発電所だ。その中の7号機について再稼働を目指した安全対策の工事が完了した。この取り組みとその努力を紹介し、再稼働を考える材料にしたい。
多重化された安全の仕組み
柏崎刈羽原発の再稼働を考えるために、東京電力福島第一原発事故で何が起きたかを、簡単に振り返ろう。2011年の東日本大震災では地震直後に稼働中の同原発の1号機、2号機、3号機の3つの炉は緊急停止した。地震により外部電源を喪失したが、地下に設置してあった非常用電源が稼働し停止状態を保ったが、その直後に襲った津波で非常用電源が喪失した。そして核燃料が崩壊熱により溶融した。1〜3号機では原子炉が破損し、放射性物質が炉外に漏れてしまった。また発生した水素を除去する装置も停電で止まり、1号機、3号機では水素爆発が起きた。停止していた4号機でも水素が3号機から配管を通って充満したと思われ、爆発が起きた。
柏崎刈羽原発では、6号機と7号機が2017年12月に原子力規制委員会による新規制基準の安全審査に合格した。東電はこの福島事故の反省を元に柏崎刈羽原子力発電所の7号機の安全対策で、さまざまな工夫をしている。新規制基準を超える対策もある。地震・津波などの災害に備えて原子炉を「止める」。次に「冷やす」。そして放射性物質を「閉じ込める」という3段階の取り組みを強化。方法を多重にし、対応する設備の場所を分散している。
まず「止める」対策での追加対策を示してみよう。「写真1」は同発電所7号機の外観だ。水密性を高め、津波が来ても、台風、竜巻があっても、建物内への水の侵入、それによる重要な安全機器の破損の可能性はまずなくなった。
「写真2」は防潮堤だ。柏崎刈羽原発の同発電所の想定される津波の高さは、7~8メートルだが、それよりも高い海抜15メートルの高さにして、安全性を高めた。敷地内へ海水が入らないように、堤より内側にも壁などを置き、重要エリアも水密扉を設置している。
原子炉内では手動で原子炉の安全に関わる重要な弁を開閉できるように設備が、設置されていた(写真3)。福島原発事故を描いた映画「Fukushima 50」(フクシマフィフティ)では、東電の運転員たちが暗闇の中で、命の危険に直面しながら、停電で動かなくなったバルブを手動で開けようと悪戦苦闘をする場面がある。そうした危険の可能性はこの設備でなくなった。
柏崎刈羽原子力発電所では、こうした止める仕組みが多重に設置されている。福島事故のように全電源が喪失する可能性は大きく減った。
「冷やす」「閉じ込める」の多様な工夫
次に「冷やす」ための取り組みがある。津波の影響を受けない高台に幾つも分散して、特殊車両を集めた場所があった。その一つ35メートルの高台にある車両置き場に行った。特殊車両が並んでいた。大容量の放水車。電力を供給できる発電車などが配備されている。そして冷却用の水は貯水地に蓄えられている。全電源が喪失しても、さまざまな手段で、原子炉の冷却が開始できるようになっている。
さらに「閉じ込める」ための、取り組みが行われていた。それでも原子炉が加熱し、中の圧力が高まってしまった場合に炉を破損させないため、その圧力を逃がす目的で蒸気を放出するベントという方法がある。そこまで至ってしまった時に、外に逃す状況から99.9%以上の放射性物質を取り除ける「フィルタベント」という装置を新たに取り付けた。炉心が損傷しても、格納容器の放射性物質の閉じ込め機能を維持するさまざまな設備も取り付けた。
人間の対応力向上にも工夫
設備だけではない。人間への配慮もある。新たな設備が構内やそして7号機の中に数多く取り付けられ、発電所の構造が複雑になったことは見学者の私でも感じた。それでも緊急時の操作に混乱しないため、そして対応力を高めるために、災害を想定したさまざまな訓練が繰り返し行われていた。
またコミュニケーションをよくする工夫も行なった。構内で働く人は約6000人、東電社員は約1200人いる。さまざまな企業が集まり、工事、警備などを行なっている。22年秋に赴任した稲垣武之所長は昨年4月から毎日、出張以外では必ず早朝から正門に立ち、入構するすべての人に「おはようございます」と挨拶しする。毎日、発電所の問題などを取り上げたブログを書く。また発電所に役立つことをした人に、所長自筆のメッセージカードを届けている。その数は5000通を超える。
構内を見学するとみんながあいさつを交わし、それによって訪問者である筆者も「明るさ」を感じられた。
稲垣所長は福島第一原発事故を現場で体験した。「事故経験者の私が納得できない問題が一つでもあれば、再稼働はさせない」と述べ、課題を一つ一つ解決してきた。筆者を案内した林勝彦副所長は、プラントの隅から隅まで知悉していた。「設備があるから、対策はこれで終わりではありません。そこからさらに安全性を高め、進化するためにどうすればいいか、発電所全体で考え努力をしています」という。
同原発では、運転員が20年9月、他人のIDカードを使って原発の中枢である中央制御室に不正入室した事件が原子力規制庁の査察で発覚した。東電はその反省から、顔や指紋認証など一段と厳重な管理システムを導入し、従業員の意識改革を続けている。
事故を経験した東電に任せる是非
7号機の原子炉の発電能力は135.6万kW(キロワット)と国内最大級だ。その稼働によって、全国の電力需給への改善効果はあり、そして電力料金の引き下げの効果もあるだろう。
東電側の7号機再稼動の準備はほぼ終わった。新潟県知事、県議会、そしてその背景にある新潟県民、そして日本の人々の同意が、再稼動で必要になる。福島事故の記憶から、東電が原子力発電所を再び運用することについて、警戒する声があるのは当然だ。
しかし、ここまでの対策を見て、事故の可能性は極少まで減ったと思う。そして東電の社員たちは努力によってさらに安全性を向上させようとしている。そして人間の誤りを極限まで減らそうという東京電力の態度は短い取材ではあったが、確かにうかがえた。さらなる安全の向上を求めながら、もう一度、東電に原子力の運用の機会を国民が与えてもいいのではないか。私個人は、この取材でそんな意見を持ったが、国民の皆さん、そして新潟県民の皆さんはどのように思うだろうか。