太陽光パネル、リサイクルシステム構築の難しさ


東海大学副学長・政治経済学部教授

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1. はじめに -太陽光パネルの2030年問題

 今、太陽光パネル(PV)の2030年問題が大きな話題になっている。固定価格買取制度(FIT)が導入され大量のPVが設置されてから20年余、2030年代には大量の使用済PVが排出されるというのが大方の予想だ。こうした状況のなか、国もようやく重い腰を上げ、使用済PVの適正処理・リサイクル・リユースに向けて法制化の議論を始めた。
 しかし、使用済PVの適正処理・リサイクルないし適正リユースのためのシステム構築は容易ではない。これまで個別リサイクル法が対象とした製品とは異なった問題を抱えているからだ。この問題を一つひとつ解決しない限り、適正処理・リサイクルあるいは適正リユースは困難だと筆者は考える。

2. PVリサイクルが抱える問題

(1)使用済PVの発生予測の不確実性
 単純な計算から言えば、FITの恩恵を受け2010年以降大量に設置されたPVが20年の適用を終え、2030年代には大量排出されると見られている。2034~2036年の間に約17~28万トン/年にのぼる使用済PVが排出されるという推計もあるくらいだ。しかし確実にこれだけの量の使用済PVが排出されるかどうかというと、その保証はない。状況によってはFIT終了後も事業を継続する事業者もいるかもしれないし、事業を終了したからといって直ちに廃棄処分するとも限らない。加えて、全国津々浦々設置されたPVがどこでどのタイミングで排出されるのか、確実な情報などないのだ。
 だとすると、誰がどう収集運搬するのか、どこに持ち込んで誰が処理・リサイクルするのかということも決められない。処理・リサイクルには設備が必要だが、不確実な情報のもとでリサイクル業者は設備投資をしなければならないことになる。もちろん、このような状況では市場経済原理の下で採算がとれないのは明白だが、法制度を作ったからと言って直ちに解決する問題でもない。

(2)回収、収集運搬システムの構築
 以上の不確実性という問題を抱えたときに問題になるのが、使用済PVをいかに効率的に回収、収集運搬するかということである。いつどこで排出されるかわからないということは、使用済PVが疎に発生するということである。全国各地で疎に発生する使用済PVパネルをどう効率的に回収、収集運搬するかは、システム構築の大問題である。
 というのも、静脈取引では、全体の費用に占める回収・収集運搬の費用の割合が大きく、効率的な回収・収集運搬を構築することが処理・リサイクルシステム構築のカギとなるからだ。また効率的な回収・収集運搬があればこそ、一定量の使用済PVが処理・リサイクル施設に集荷でき、処理費用も安くなる。

(3)トレーサビリティの確保
 使用済PVのトレーサビリティを確実にし、PVの静脈フローを制御するシステムはどのようなものであるべきか、極めて慎重な検討と議論が必要である。国の報告書(「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会中間取りまとめ」)を読んでもその辺は曖昧である。排出事業者⇒回収・収集運搬業者⇒適正リユース・リサイクル事業者⇒リユース品利用事業者・再生資源の適正販売事業者というフローが、説明責任の果たせるような連鎖になっていなければならない。
 とりわけ重要なのが、この連鎖上ではフォーマル(適格)な事業者のみが取引に携わり、インフォーマル事業者が排除されなければならないということだ。正直者が馬鹿を見るような取引システムであってはならない。では、取引参加者の適格性をどのように担保するのか。

(4)生産者責任・排出者責任・処理事業者責任の円滑な接合
 取引参加者の適格性と言うことは、取引参加者がそれぞれの責任を遂行し、透明性・追跡可能性を担保すると同時に説明責任を果たす能力を持つということである。生産者は生産者で環境配慮設計を追求し、自らの生産した製品について一定の責任を持たねばならない(拡大生産者責任)。排出者は適正に排出し、適格な処理・リサイクル業者あるいはリユース業者に引き渡し、さらに処理・リサイクル・リユースの状況について把握する必要がある。排出したらそれで終了というわけにはいかないのだ。処理・リサイクル業者そしてリユース業者は適正な処理・リサイクルあるいは再使用を実行する責任を有する。
 そして、これら主体の責任が静脈連鎖上で円滑に接合されることが不可欠である。実は、透明性・追跡可能性・説明責任という要件は、各主体の責任が円滑に接合され初めて十分なものになる。そのためには、各主体の適切な情報発信と情報共有が必要である。
 またPV処理・リサイクル、リユースの仕組み作りでは、いかに拡大生産者責任を適用するかが大きな問題となる。PV生産者による製品の作りっぱなしという状況があるとしたら、それは深刻な問題である。だが使用済PVの場合、生産者の責任範囲・内容を特定するのは容易なことではないかもしれない。加えて、国内販売シェアの多くが海外生産者であることを考慮すると、この問題の深刻さがわかる。

(5)費用支払・負担問題
 さて、各主体の責任問題と連動しているのが費用支払・負担問題である。もちろん、市場リサイクルでうまくゆくのであれば、当然のことながら、費用支払・負担についての問題は生じない。だが、市場リサイクルでは機能しないからこそ法制度のもとでの処理・リサイクル、リユースが問題となっているのであり、誰がどのような形で費用を支払いあるいは負担するのかが喫緊の問題となるのだ。
 現状においては、再エネ特措法に基づく廃棄等費用積立制度があって、この制度のもとで10kW 以上のFIT/FIP対象事業には廃棄等費用の外部積立が義務付けられている。しかし、この制度が新しい使用済PVリサイクルの法制度のもとでの費用支払・負担の考え方にそぐうかどうか疑問だ。従来の制度はあくまでも廃棄等費用の積立であり、適正処理・リサイクル費用になるかどうか不明である。それに、その費用が、適正処理・リサイクルに向けられることをどのように担保するのか、新しい仕組みを用意しなければならない。

(6)生産者責任機構
 法制度のもとでの処理・リサイクルあるいはリユースシステムを構築し運営するためには静脈フローの制御や金銭授受を管理運営するための組織が必要である。とりわけ静脈取引で必要になる費用を徴収し、管理運営するには説明責任を果たせる組織が不可欠である。関係各主体あるいは関連業界にその責任を負わせることも理論的には可能だろうが、難しい場合も往々にしてある。そのような場合には、関係各主体の責任を代行する機構、生産者責任機構を作る必要があるかもしれない。
 だが、こうした組織を構築し運営するにも費用がかかることに留意が必要だ。一体誰が費用を負担し、誰の責任で組織を運営するのかが大きな問題になる。費用効率的な組織の構築・運営には新たな智恵と知識を絞り出さねばならない。

3. 新しい葡萄酒は新しい革袋に

 これまでの個別リサイクル法では、多かれ少なかれ、以上の問題をクリアする工夫がなされていた。だからこそ、システムのフォーマル化が実現し、逆選択(競争の結果フォーマルな事業者が排除されインフォーマルな事業者が残る現象)が起きず、適正処理・リサイクルが可能になったのである。透明性・追跡可能性・説明責任という要件は概ね満足されているし、費用支払・負担の問題もほぼ解決している。
 その意味で、当然従来の個別リサイクル法は参考にすべきだが、使用済PVの場合、以上のどの項目を取ってみても従来通りの考え方ではうまくいきそうもないのが懸念材料だ。ここで参考になるのが福岡県の取組みだ。福岡県と(公財)福岡県リサイクル総合研究事業化センターがコーディネーター役となって使用済PVの回収、リサイクルシステムを立ち上げた。
 このリサイクルシステムのウェブサイトを見ると、「排出者(メンテナンス業者)、収集運搬業者、リサイクル業者等が、廃棄パネルに関する情報(保管量、保管場所、種類)をクラウド上の支援ソフトで共有し、点在する廃棄パネルを効率的(スマート)に回収、リサイクルします。」とあるように、情報の受発信・共有が確保されており、以上挙げたいくつかの問題が解消される可能性があることがわかる。県外の主体も参加することが可能で、開かれたシステムである。
 開かれたとはいうものの、システムのフォーマル化を担保するために、このシステムに参加する主体は「太陽光発電(PV)保守・リサイクル推進協議会」に登録することが義務づけられている。県(自治体)がコーディネーター役となって事業主体のフォーマリティを担保するという考え方で、斬新である。
 費用支払・負担問題がどのように解決されるのかはまだ不明なところがあるが、今後、システムが進化発展する可能性も大いにあり、この新しい考え方が国全体の使用済PV処理・リサイクル、リユースの先駆けとなることが期待されている。

4. おわりに

 使用済PVの適正処理・リサイクル、適正リユースの仕組み作りは、これまでの個別リサイクル法の下での仕組み作りにはない難しさがある。慎重な検討と深い議論が必要になるだろう。だが、確かにいくつかの難しい課題はあるものの、現在国を挙げての検討が始まっており、極めて優れた専門家集団が智恵を絞っているので、筆者はさほど悲観的には考えていない。使用済太陽光パネルについて、これまでにない斬新な処理・リサイクル、リユースのシステムが作り上げられることを確信している。