市民のヒートポンプ熱を冷ましたドイツ政府


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2024年5月21日号)

 エネルギー危機が変えたものの一つに、欧州でのヒートポンプ導入の急拡大がある。ドイツでは50%強の家庭が暖房に天然ガスを利用している。22年のロシアの侵攻前から天然ガス価格が上がり始め、22年後半に史上最高値まで上昇する中で、空気熱等を利用するヒートポンプが注目された。温暖化対策にも大きく寄与する。

 ドイツでは天然ガス価格との比較で電気料金が2.5倍以下であれば、ヒートポンプが天然ガスより有利とされている。22年に電気料金は上昇したが、ガス料金はさらに上昇しヒートポンプの導入が進んだ。ドイツの20年の導入台数12万台は21年15万4000台に伸びていたが、22年には23万6000台と伸び率は53%になった。

 23年の台数は、35万6000台とさらに成長した。ヒートポンプを温暖化対策の切り札とするドイツ政府は、24年から毎年50万台の導入目標を設定したが、24年第1四半期の新規導入暖房装置約22万台の内、ヒートポンプは前年比52%減の4万6000台に落ち込んだ。導入がもっとも多かったのはガス利用で13万5000台だ。業界団体は今年のヒートポンプの台数は20万台に届かないとみている。

 ヒートポンプ熱を冷ませた大きな理由は天然ガス価格の下落だ。今年4月の都市ガス料金は1kWh当たり11セント。電気料金も下がったものの35セントなので、ガスが有利とされた。政府の補助金があるものの初期費用が、高いことも導入のネックになっている。

 もう一つの理由は、連邦政府の政策だ。緑の党主導で24年から化石燃料使用の暖房装置の新規導入が禁止される予定だったが、連立政権内で対立があり、地域熱供給システムの検討を待つことになり最長4年間延期されることになった。ガス暖房を水素利用で脱炭素させる方法もあるので、ガス暖房で良いと考える人もでてきた。

 政策がはっきりしないことも、ヒートポンプ導入のスピードを遅らせている。エネルギー政策の具体策を明確にすることは、極めて重要だが、日本はドイツよりもできているのだろうか。