目的を明確化、経験に学び整理

書評:木村 将之、グレゴール・ギミー 著『スタートアップ協業を成功させるBMW発の新手法 ベンチャークライアント』


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「電気新聞」より転載:2024年6月7日付)

 エネルギーのトランジションを進めるにあたり、スタートアップとの連携の重要性がうたわれて久しい。2010年代後半以降、大手エネ企業とスタートアップの提携や大手エネ企業によるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)設立が相次いだ。しかし、こうした動きが順調に拡大しているかといえばそうとも言い難い。

 サービスや品質の「精度」に対する意識や意思決定にかかるプロセスや時間の相違など、大手企業とスタートアップの間には大きなギャップがある。私が本紙の「テクノロジー&トレンド」に、「大企業とベンチャーの幸せな協業 無くて七癖」と題したコラムを寄せ、大手企業とスタートアップの協業における「7つのべからず」を指摘したのは、20年6月のことだ。スタートアップとの協業によりUtility3.0の実現を目指して設立したU3イノベーションズ合同会社でのさまざまな事例調査で、大手企業の何気ない行動がスタートアップを疲弊させてしまうケースを見たり、海外では「視察ばかりの日本の大手企業の相手はもうしていられない」という手厳しい声を聞いたことが、執筆の動機だった。残念ながらこのコラムで指摘した内容は今も大きくは変わっていない。

 岸田政権は、スタートアップ支援を主要政策として掲げているが、この政策を生かすには、改めて大手企業とスタートアップの協業の成功パターンについて考える必要があると思っていたところで、本書と出会った。大手企業がすべきことは、目的を明確にして、スタートアップのクライアントになることだというのが、本書のメッセージだ。もちろん、クライアントになることで課題が解決するわけではない。戦略の策定やプロセスの整備、社内組織との連動など、要所で行うべきことがわかりやすく整理されている。ドイツの自動車メーカーBMWが採ったオープンイノベーションの手法の解析をベースとして、日系企業のキーパーソンへのインタビューも盛り込まれている。各社の意思決定権限者の経験を聞くことで、どのようなタイミングでのどのような意思決定と仕組みづくりが、どのような効果をもたらしたのか理解することができる。

 オープンイノベーションに定石などあろうはずがない。しかし、これまでの経験に学ぶことで、成功の確率を上げることはできる。本書がその一助になることは間違いないだろう。


※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

『スタートアップ協業を成功させるBMW発の新手法 ベンチャークライアント』
木村 将之、グレゴール・ギミー 著(出版社::日経BP
ISBN-10:4296204912