再エネ、推進と抑制が同時進行する異様

― 地元目線の政策作り直しを ―


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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太陽光発電の反対を訴える開発予定地の掲示板(2016年、山梨県北杜市、筆者撮影)

 「脱炭素社会の実現」「GX(グリーントランスフォーメーション)による成長」。岸田文雄首相の演説には、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大を目指すエネルギー政策の目標が示される。ところが、再エネ設備の建設に規制をかける条例が増え、拡大を抑制する政策が同時進行している。この推進と抑制が同時に行われる異様な状況を一度立ち止まって修正した方がよい。これまで欠落した地域との共生の視点が、新しい前進を促す鍵になると思う。

自治体主導で規制条例の制定が続く

 「災害の発生が危惧され、誇りである景観が損なわれるような産地への大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まないことをここに宣言します」。今年8月に、福島市の木幡浩市長は、「ノーモアメガソーラー宣言」を行なった。

福島市の木幡市長の会見(8月、同市HPより)

 福島市には建設中を含めると20を超えるメガソーラー事業がある。「生活の安全安心を守り、ふるさとの景観を地域の宝として次世代へ守り継いでいかなければならない」と、木幡市長は会見で語った。そして山の斜面や森林でのパネル設置などを行政として取りやめさせるという。しかし規制条例は作らずに「地域共生型の再エネは推進する」としている(福島市の宣言ページ)。

 地方自治研究機構の今年10月19日付の調査「太陽光発電設備の規制に関する条例」(リポート)によると、太陽光規制を入れた地方自治体は258になる。県では8例だ。中でも山梨県の場合は、私有地でも、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する厳しい内容になっている。

自治体による再エネ課税も始まる−締め付け強化

 再エネへの課税の動きも出ている。宮城県議会では今年7月、森林開発を伴う再エネ発電設備の所有者に課税する全国初の条例が成立した。青森県の宮下宗一郎知事も9月に、再エネ事業者に対する新税の検討に言及した。宮下知事は「都会の電力のために青森県の自然が搾取されている」としている。

 これは立地地域で再エネへの不信が広がっている現れだ。不適切な再エネビジネスを、住民とその意向を反映した自治体が拒絶している。太陽光発電設備について、国レベルでの環境配慮ための法律は作られていない。その視点から、自治体が民意を反映して規制に動くのも当然といえよう。

国政でも、さらなる再エネにはためらい?

 政府は脱炭素を推進するため、再エネの主力電源化を目指している。2021年に決まった第6次エネルギー基本計画では、現在は20%程度の再エネの発電の比率を、2030年度に36~38%へ増やす目標を掲げる。

 ただし、その目標を達成するのはこのままでは難しそうだ。国が再エネをもう一段増やす策を打ち出さないからだ。一連の自治体の規制への動きは、国への圧力になる。それに加えて、再エネにマイナスの方向への状況変化がある。

 秋本真利衆議院議員が10月に逮捕・起訴された。彼は、離党はしたが自民党で再エネ議連(再生可能エネルギー普及拡大議員連盟:国会議員約100名)の事務局長だった。起訴の内容は洋上風力発電で特定の事業者に有利になるように国会質問をして、その対価として献金や融資を受けたという贈収賄の疑いだ。この事件の後で、自民党の動きは止まっている。裁判と捜査の行末を見守るということだろう。そして再エネ推進はそれほど国政やメディアで話題にならなくなった。反原発などエネルギー問題が、以前ほど盛り上がらないためだ。

 さらに金銭面からの制約を国は設けようとしている。再エネの買取額(FITとFIP)は2023年度の予想で4兆7477億円になる。その巨額な利用者の負担を抑制しようと、経産省・エネ庁は政策づくりに動く。

 しかし日本政府は再エネの発電量を増やす政策目標は変更していない。促進策の多くはそのままだ。つまり政策の上でアクセルとブレーキをかけている状態だ。こうした態度は事業者に戸惑いを生む。

 再エネビジネスをやっている元商社マンに話を聞いた。この会社は、メガソーラーを持っていたが、それを売ってしまい、今は再エネの建設コンサルティングにシフトした。「日本は政策がコロコロ変わるので、設備を持つのは危険だ。2015年ごろ再エネ設備建設に対して市民の反発が起きる事業が出始めた。加えて、原子力再稼働で電力が余剰になって再エネの発電が接続されない、いわゆる『出力調整問題』がやがて起き、収益が不安定になると思った。そのために売り逃げた。予想通りのことが起きている」という。

 そして「日本の政策は、どこに進んでいるのか、方向がわからない。落ち着いて投資もできないし、リスクも取れない。まずい形で日本の再エネは動いている」と問題を指摘した。

足りなかった視点「地域共生」

 ではどうすればよいのか。私は、再エネはある程度エネルギーシステムの中で活用するべきだが、政府目標のように電力供給の4割近くにしたら弊害が多くなり、これ以上増やすべきではないと考えている。しかし増やすことが国策ならば仕方がない。もし増やすならば、これまで乏しかった「地域貢献」の視点を取り入れることが、新たな健全な発展の鍵になると思う。

 再エネの地方自治体による抑制政策は、乱開発、景観の破壊など立地地域での不満が背景にある。再エネが増えるのは、地方経済が疲弊していることが一因だ。少子高齢化で耕作放棄地が増え、森林の荒廃が進み、そこに太陽光、風車などの再エネ施設が作られた。

 再エネが、地域社会に役立つようにすれば、批判は少し和らぐと思う。これまでの再エネをめぐる日本の諸制度に、地域貢献の仕組みが乏しかった。私はIEEIへの寄稿『眠る宝「地熱」を活かし、地域を元気に−ふるさと熱電』で地域との共生を掲げる地熱発電事業者を紹介した。この事業者が目立つのは、残念ながら多くの事業者が地元との共生を配慮しなかったためだ。

立ち止まり、関係者全体で進む道を考える時

 かつて政治家の田中康夫氏に、長野県知事選の落選直後の2007年に再エネについて聞いたことがある。まだ福島事故や再エネ振興策のFIT導入の前だ。

 「都会の大資本が地方で事業をやってお金だけを持っていく構図は、その地域に住む人は誰もが当然不快だし、おかしい話だ。再エネでは量を闇雲に増やそうとすると、そうなってしまうだろう。規模は小さくても良いから地域の人が主導し、エネルギービジネスをきっかけに地産地消でお金が回り、その好循環がしっかりとゆっくりと大きくなる仕組みができないかと思っていたけれど、作る前に知事を追い出されてしまった」との趣旨の発言をしていた。

 彼には批判も多いが、さすが見識のある政治家と思った。今の状況を言い当てている。前述の福島市長の会見にも出てきたが、こうした「地域との共生」の視点が、これまでの再エネ政策で欠けていた。安定して建設ができるようになれば、事業者も持続的な投資がしやすくなるだろう。

 「急がば回れ」という、ことわざがある。迂遠に思うかもしれないが、再エネをめぐっては国政、行政、自治体、事業者、立地地域の人々など関係者すべて一度立ち止まり、どのようにみんなが豊かになるか、特に立地地域に利益になる方法を考えられないだろうか。これまで乏しかった、お金、景観、町おこしなどの地域共生の視点を加えるのだ。それが再エネの次なる健全な発展につながると、私は期待している。