再エネめぐり国会議員へ検察が捜査

利権のない政策を


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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風力発電の風車(iStock)

秋本議員への東京地検特捜部の捜査

 自民党の再エネ議連事務局長だった秋本真利衆議院議員が、収賄の疑いで、東京地検特捜部の捜査を受けている。彼は在職中の外務政務官を8月4日に辞任し、自民党も離党した。

 報道によると、つまりこの情報は同特捜部のリークだが、政治資金に記載されない6000万円を日本風力開発が秋本議員に提供し、それを秋本議員は競走馬の売買などに使ったようだ。競走馬の売買は政治資金のマネーロンダリングと思われるが詳細は現時点で不明だ。

 秋本議員は再エネ推進と、大手電力会社や原子力発電への攻撃で知られていた。その彼が実は、再エネ事業者から金をもらい、政治家としての影響力を行使したとしたら、恥ずべき行為である。これをきっかけに、再エネ業界と政治の癒着を排除し、本当に国民のためになるエネルギーシステムを作ってほしい。


秋本真利衆議院議員(衆議院HPより)

入札実施後に政治介入でルールが変わる?

 再エネの買取額(FITとFIP)は2023年度の予想で4兆7477億円になる。その巨額さを見れば、再エネビジネスそのものではなく、政治工作でその買取額から利益を得ようとする人も出てくるだろう。秋本議員の疑惑は洋上風力発電の入札ルール変更に不当に干渉したというものだ。

 再エネの中で洋上風力発電はコスト面で競争力がある。経産省はその拡大を期待している。陸上の適地に風力を作る余力が乏しくなったことから、洋上風力に注目が向いた。海面の利用、漁業権などで、さまざまな権利関係者、また省庁間の調整が必要であった。経産省はそれを行ない、2020年から発電出力で合計4500万kW分の海面が開放され、入札で事業者を集めることになった。

 2021年12月に最初の3件、秋田沖2つ、千葉沖1つの公募入札の結果が発表された。それが予想外の結果になった。事前の予想では早くから参入を表明していたレノバや日本風力開発などが落札するとみられていた。

 ところが、結果は三菱商事グループが11.99円~16.49円/kWhと他社に5円以上の差をつけ、3件すべてを落札した。外国製の安い機材の使用などの工夫をした。同社は欧州で風力事業を行っている。

 業界関係者によれば、三菱商事グループの発電単価で行えば、この3地域で、年300億円程度の売り上げが見込めるという。これはFIP制度でほぼ買い上げになる。それより単価が5円以上高いと、年数十億円分、電力の購入費用が余分にかかる。

秋本議員の奇妙な介入

 ここに介入したのが自民党再エネ議連だ。経産省の担当者や業者を読んで入札について聞き取りを行った。関係者によると、その中心になったのが秋本議員だった。

 経産省は22年5月に入札ルールをいきなり変更した。同年6月に行われる予定だった第2回の入札は2023年6月に延期され、審査方法も変更された。新しい審査方法では、評点で価格の評価方法を変え、事業建設の迅速性などの評価を新たに設置した。総取りもできなくした。これは多くの事業者を選択する手法だ。第2回の入札の結果はまだ公表されていない。ここまでが制度変更の経緯だ。

 そこで秋本議員がこの制度変更にどのように関わったかが問題になる。秋本議員は第4次安倍政権(2017年11月から2018年10月まで)で国交省政務官だった。この地位は洋上風力に関わる。

 そして政府の役職についていなかった21年12月から、自民党再エネ議連の制度見直しの議論を仕切ったことに加え、22年初頭に国会で複数回、洋上風力をめぐる質疑を経産省に行った。

 立憲民主党は秋本議員の政治資金を調査し、今年2月に源馬健太郎衆議院議員が、国会で外務政務官だった秋本氏に質問をしている。秋本氏はこの入札に参加した会社の株を売買している。その時期と売買の数量、利益を出したかどうかは明確にしていない。

 またこの質疑で、秋本議員は風力発電事業者5社から、21年までの3年間で1800万円の政治献金を受け取っていたことを認めた。

 それに加えて前述の、風力発電会社からの6000万円の資金提供がある。彼の再エネをめぐる行動には、こうした業者からの金があったと評価されても仕方がないだろう。

再エネ政策の立て直しを

 秋本議員は以前から、再エネ問題での行動が異様で態度もおかしかった。以下は秋本議員のSNSツイッター(現X)での2018年12月の発言だ。

 日立は…原発なんてクソみたいな物よりも世界で日立しか作っていないダウンウィンドの風車を世界に売る努力をすべきだ。日立のダウンウィンドは陸上よりも「洋上で特に優位性がある」というコンストラクターもいる。シュリンク市場よりも次世代に貢献する市場で汗をかけ。

 当時、日立は英国での原発売り込みを行い、日本政府も支援していた。結果として失敗した。そうした中で、下品な言葉を使って、再エネや風力発電を推奨する彼の姿は異様だった。

 2011年の東京電力福島第一原発事故から、再エネの関心が高まった。原発の代わりと思い込んだ人が多いのだ。その世論を背景に、世論、政治とも、異様な支援を行った。ところが巨額の補助金が使われ、利権構造も生まれている。

 電力料金が上昇しているが、その一因は再エネの買取額だ。今年度は、化石燃料価格の上昇があり再エネ賦課金額は減少したが、昨年度は標準世帯あたり月1000円近く支払い、電力料金の1割以上になっていた。過剰な再エネ優遇を自民党が続ける理由に「利権」があるとしたら、国民感情的にも、倫理的にも許されない。

 元外交官で作家になった佐藤優氏に『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』という本がある。佐藤氏は東京地検特捜部に、大物政治家の鈴木宗男氏の疑惑に関連して捕まる。そこで、取り調べた検察官が、「国策捜査」という言葉を使う。検察は時代の転換を促すように事件を作るが、そのターゲットは検察ではなく世論が決めるという。そのことを言う。この言葉に役人が威張る危険さと、傲慢さを感じるが、世論が悪いことをする象徴的な人間を懲らしめたがる動きは確かにあるだろう。


『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)

 そして今は多くの人が、再エネについてその環境破壊や利権に疑問を抱き始めてきた。そこで秋本議員へのこの捜査だ。これは世論を背景にしており、「国策捜査」として、再エネをめぐる政策の転換をもたらすかもしれない。

 再エネ事業者は、自制、そして自省をしてほしい。さらに秋本議員のような、再エネを金で汚し、おかしな制度づくり進めた人を、これを契機に排除したい。その上で、健全な再エネ発展のための議論を始め、政治ではなく国民と事業者主導でエネルギー制度を再構築するべきだ。国民の再エネへの不信は高まっている。