住宅のエネルギー消費
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
かなり前に現在住んでいる戸建て住宅を建てて貰ったが、その時に窓ガラスを複層ガラスにし、屋根裏と床下に断熱材を入れてほしいと依頼した。その前にエネルギーの効率化を研究する米ロッキーマウンテン研究所を訪問したとき、Amory Lovins所長から、エネルギー消費の削減と快適性向上のために、窓ガラスを含めた建物の断熱がいかに重要かを教えられていたからだ。しかし、建築業者から日本では複層ガラスはまだ簡単に手に入りませんと言われ、仕方なくアメリカから輸入した物を一つの部屋だけに取り付けて貰ったのだった。体感ではあるが、他の部屋に比べて季節による温度差が小さいのははっきりしていた。
その後日本でも複層ガラスの生産が始まり、既築の住宅の窓も複層化できるようになったのを機に、よく使う部屋だけ複層ガラスに取り換えて貰った。その部屋の快適性は上がり、空調機の電力消費も下がったようだった。ようだった、というのは、電気料金は建物全体の電力消費を示すだけで、一つの部屋の空調機の消費量を知る術がなかったからだ。快適性の向上も自己満足に過ぎないと言われるかもしれないが。
日本では現在、住宅の断熱性能の区分が7等級あり、この区分の最初である2級が出来たのが1980年。等級7は2022年10月1日に施行されているが、暖冷房にかかる一次エネルギー消費量をおおむね40%削減可能なレベルの性能だとされている。
英国には、Energy Company Obligation (ECO)-(エネルギー事業者責任法)- があり、電力・ガスなどの大手エネルギー供給事業者に、屋根裏・壁・窓断熱など、エネルギー消費を抑制する設備を普及させる義務を負わせている。規制当局であるOfgemは、その大手事業者に年間エネルギー消費量削減目標を示し、その90%を達成できなかった事業者にはペナルティーを課している。その指標にも利用されているが、住宅のエネルギー効率がどの程度の高さかを示す区分がAからGまであり、戸建て住宅にそれが振り付けられ、建物にはその表示もされている。この格付けが始まったのは2013年だからかなりの歴史があるが、現在240万戸(全体の約9%)に適用され、350万の計測機器が設置されている。最新の実施施策はECO-4で、低所得者の住む住宅45万戸を対象に実施されている。
エネルギー価格の高騰が続く現状から、英国政府はこのECO4をさらに充実したものにしようとしている。省エネ・キャンペーンでは、ボイラーの温度設定の引き下げや、誰もいない部屋のラジエーターのスイッチを切ることを推奨し、これにより、光熱費を年間160ポンド(約28,600円)節約できるとしている。また、窓やドアの隙間を防ぐ方法も紹介している。
英国政府は、標準的な世帯で光熱費の上限を年間2,500ポンドに定め、実際の料金がこれを上回った場合、その差額を政府が負担している。23年4月からは上限を3,000ポンドに引き上げた上で、12カ月継続する予定だ。トラス前首相は、個人の自由を優先する考えから省エネ・キャンペーンの実施を拒否していたが、政府の支出削減に取り組むスナク首相は、この方針を覆してキャンペーンを再開し、光熱費の補助額を減らそうとしている。英国の総エネルギー需要を2030年には2021年レベルから15%減らそうとする構想の中核となるものだ。
エネルギー価格が高騰している今、エネルギーの大半を輸入する日本も、何らかの形でエネルギー供給事業者にエネルギー消費削減策の実行を義務づける必要があるのかもしれない。当然のことながら、これは脱炭素に向けた行動そのものとなる。