バイオ燃料の最近動向と将来:乗用車から航空機へ


中部交通研究所 主席研究員

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 乗用車市場で電気自動車の販売が急増し、自動車部門のCO2削減対策の比重が、バイオ燃料から電動化へと移りつつある。一方で、航空部門での低炭素化として、廃食油などから製造されるSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)が注目を集めている。このような新しい動きも含めてバイオ燃料の現状を分析し、将来、バイオ燃料がどのように低炭素化で役割を果たす可能性があるかを探った。
 バイオ燃料は、運輸部門で電動化による低炭素化が困難な部門(トラック、航空、船舶)では、重要な役割を果たすであろうし、途上国では、乗用車部門でも重要な役割を果たすと思われる。政府レベルの利用拡大の支援がまだまだ必要である。

1.はじめに

 バイオ燃料の歴史を振り返ると、1970年代の石油ショックにより石油代替としてエタノールの利用が始まり、1997年のCOP3(京都)での京都議定書合意後に温暖化対策としてバイオ燃料が注目され、2000年以降、急激にエタノールを中心にその消費量が伸びてきている。研究開発としては、食料との競合や森林破壊への懸念などから、セルロースからのエタノール生産、藻類によるバイオ燃料製造などが、ある時期、注目されたが、現時点でも大規模な商業生産にはつながっていない。
 最近の動きとしては、欧州を中心により環境に優しいバイオ燃料として、廃食油等を利用して水素化することでdrop-in燃料(エンジン等を改修することなく、従来燃料の代替として利用できる燃料)として利用可能なHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化植物油)やSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料、 HEFA: Hydroprocessed Esters and Fatty Acidsと呼ばれることもある)が注目されている。ここでは、最近のバイオ燃料の動向を特に新たな動きを中心に分析した後、今後、温暖化対策として運輸部門で、どのようにバイオ燃料を利用して行こうと考えているかを、いくつかのシナリオを例に紹介した。

2.バイオ燃料の現状

[概要]
 現在使用されているバイオ燃料は、エタノールとバイオディーゼルであるが、バイオディーゼルには、植物油等をエステル化したFAME(脂肪酸メチルエステル)と水素化処理で“drop-in”化したHVO(水素化植物油、米国では、Renewable-Dieselと呼ばれる)がある。
 図1に示すように、2000年頃まではエタノールが生産のほとんどで、その60-80%程度はブラジル、残りの20-40%程度が米国と、ほぼ2カ国で生産、消費がなされていた。ブラジルでは、1975年に国家アルコール計画が策定され、エタノール燃料の生産が本格化した。米国では、1977年の大気浄化法や1978年のエネルギー税法が、エタノール燃料利用の追い風となり、その後、2005年のエネルギー政策法で、再生可能燃料基準により、エタノール導入が義務化され、急速に生産、消費が伸びた。その結果、2006年には、米国がブラジルを抜いて世界トップのエタノール生産国になっている。2000→2010年の世界全体でのエタノール生産の伸び率は5倍、2000→2022年、2010→2022年の伸びは、各々6.5、1.3倍になっている。
 バイオディーゼル(FAME)は90年代初めに、欧州で生産が本格的に始まり、米国では、10年ほど遅れて始まった。2000→2010年の伸びは2000年での生産量が少ないので、23倍とエタノールに比べ、非常に高くなっている。2000→2022、2010→2022年の伸びは、各々、59、2.6倍になっている。HVOは2000年代に入って本格生産が始まり、現在米国、欧州でSAFも含めて生産が行われている。バイオディーゼルは、今後は、CO2削減能や持続可能性の視点から、FAMEからHVOにしだいに移行していくと思われる。米国では、すでに2022年、HVOの消費がFAMEの消費を初めて越え、その兆候が認められる。

図1.世界でのバイオ燃料の生産推移[1、2]
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[国(地域)別の生産/消費量]
 2022年での国(地域)別の生産/消費量比率を図2に示した。エタノール生産は、米国が53%と、2位のブラジル28%を大きく引き離しており、両者を合せて80%を越え、非常に地理的に偏っている。一方、バイオディーゼルのFAMEは、EUが30%、インドネシア23%、ブラジル14%、米国13%と比較的生産が分散している。インドネシアは、かっては、欧州へ多くのパーム油を輸出していたが、熱帯雨林伐採によるパーム農園拡大という持続可能性の視点での懸念で、欧州が一時関税を引き上げ、輸出が激減した。その対策として、政府は国内需要拡大のため、自国内のディーゼルへの混合を義務化した。2018年にB10(10%混合)からB20にそして2020年にB30、今年2月よりB35に混合率を引き上げている。その結果、この5年間で、生産量、消費量共に4倍に増加している。
 バイオディーゼルのHVOは、量的にまだ少なく、新規参入や既存設備の増強などで、変化が大きい。2021年にはEUがトップであったが、2022年には米国が44%とトップになり、EUは34%と2位になった。米国では、HVOはRenewable-Dieselと呼ばれ、ここ数年、その生産規模が急速に拡大しており、2021/2022年の伸びは1.6倍で、今後もまだほぼ直線的に増加していくと予測されている。この背景には、政府、州レベルでの支援や世界的なSAFへの関心の高まりがある。
 消費量の比率は、生産量と似通っているが、輸出/輸入分の多少の変動がある。例えば、エタノールでは、米国が、カナダや欧州へ輸出しているので、比率が下がり、またバイオディーゼル(FAME+HVO)では、EUは、域内の不足分をアルゼンチンや東南アジアから輸入しており、比率が5%程度高くなっている。

図2.バイオ燃料の主要な国(地域)別の生産と消費[2]
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[バイオ燃料の原料]
 バイオ燃料の原料は、国、地域ごとにかなり異なっており、各地の気候や農業事情を反映したものになっている。エタノールの原料は、世界的に見るとサトウキビ61%、トウモロコシ31%と主要生産国の影響が大きい(図3)。ただ、図2に示したように、エタノール生産量では、米国の方がはるかに多いが、重量当たりのエタノール収率がサトウキビよりトウモロコシの方が高いので、原料(重量)比では、サトウキビがより高い比率になっている。EUでは、エタノールの原料は砂糖大根43%、トウモロコシ35%、小麦16%と他の地域と異なった原料を利用しているが、EU内部でも国ごとに状況が異なっている。
 バイオディーゼルの原料は、世界全体では、パーム油31%、大豆油24%、廃食油(UCO)18%、ナタネ油14%とエタノールよりは原料が分散している。生産の最も多いEUでは、ナタネ油42%、廃食油26%、パーム油13%で、廃食油の比率が高まってきている。米国では、大豆油47%、廃食油22%、コーン油13%、動物油脂12%と、廃食油の比率がEU同様高くなってきており、HVOの生産が増加傾向にあることがわかる。
 ここ数年の変化としては、エタノールでは、ブラジルと米国の生産量のトップ争いの影響でサトウキビの比率低下、トウモロコシの比率上昇、そしてEUでは小麦の比率低下が認められる。バイオディーゼルでは、廃食油の比率上昇、大豆油の比率低下があり、EUではパーム油の比率低下、米国では、大豆油の比率低下が認められる。今後、HVO、およびSAFの需要上昇が予測され、廃食油等の原料の比率上昇が生じると思われる。

図3.バイオ燃料の製造原料の割合:2022年[3,4]
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[原料のバイオ燃料用途の割合:食料との競合の懸念]
 バイオ燃料と食料との競合を危惧する声があり、原料のどの程度の割合がバイオ燃料として利用されているかを分析した。図4に示すように、穀物の多くの割合は直接飼料として利用され、エタノール製造時の副産物/併産物も飼料として利用されるので、全体としては飼料48%、食料35%で エタノール発酵には8%が利用されているにすぎない。トウモロコシのエタノール用割合は、米国では24%と、世界全体の16%よりは高いが、飼料(63%)に比べれば、はるかに低いレベルである。小麦は、世界的には小麦粉として食用に利用されるのが多く(68%)、エタノール用の割合は1.2%に過ぎない。エタノール用に多くが利用されるEUでも、食料としては47%、エタノール発酵に投入される小麦の60%は残渣となり、飼料として利用されるので、エタノール用としての割合は正味わずか3.3%になっている。サトウキビは、ブラジルでは砂糖用とエタノール用に投入される量は、50%前後で多少、販売価格で左右される。搾りかすのバガスは、熱源として利用されているし、将来的にはセルロースエタノールの原料としても期待されている。エタノール用の割合は、バガスの熱源利用を考慮すると結局ブラジルでは世界の16%よりは高いが39%である。
 植物油は種々の油糧種子やパームから絞られた油で、製造時の副産物/併産物もパーム以外では飼料として利用される。植物油に投入される油糧種子の60%は大豆で、ナタネ、ヒマワリ10%、綿実7%と、大きな差がある。油糧種子として用途割合を見ると、74%が飼料(搾りかす)で、17%が食料、バイオディーゼルには3.3%が、そして植物油の用途は、65%が食料で、バイオディーゼルには16%が利用されている。大豆は5%が直接食料に、90%が植物油に利用され、投入量の80%が搾りかすで飼料として利用されるため、正味での割合は、飼料76%、食料20%、バイオディーゼル2%である。バイオディーゼル用として多く利用される米国でも、バイオディーゼルの割合は9%に過ぎない。バイオディーゼルの生産が最も多いEUでは、植物油全体の42%がバイオディーゼルに利用されており、食料の45%と同程度になっている。
 以上、バイオ燃料の原料となる穀物や油糧種子などの用途別利用割合を見た。一部かなり比率の高いものもあるが、概してバイオ燃料に利用している割合は低く、食料との競合を懸念する状況にはないと言える。また、バイオ燃料製造時に生成する副産物/併産物は、飼料として利用されており、バイオ燃料製造をやめれば、他のルートの飼料を増やす必要があり、単純にバイオ燃料をやめれば、食料用の割合が増加するというものではない。

図4.各種原料の用途別消費割合:2022年[4,5]
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 世界の耕地面積は、陸地の約10%で、そのうちわずか8%(2021、2018年:7%)がバイオ燃料用の原料に用いられているにすぎない[4]。国ごとに見れば、比率がかなり高い国もあり、また、将来的にバイオ燃料の消費が後で述べるようなシナリオ通りに増加すれば、食料との競合の視点からの原料の見直しも必要であろうが、むしろ途上国の経済成長に伴う食肉文化への移行による飼料需要増加が重要な課題になるであろう。

3.バイオ燃料の将来展望:シナリオ分析

[シナリオ予測の変遷]
 将来予測は、現状の市場や社会の状況により時間と共に変化することが多く、バイオ燃料の将来予測も周辺状況の変化によりここ数年で変わってきている。その例としてIEA(国際エネルギー機関)の主要な刊行物であるWEO(World Energy Outlook)とETP(Energy Technology Perspectives)の運輸部門における燃料Mixのデータを図5に示した。バイオ燃料と電気の消費比率に対する2050年予測の、2014-2020年の間での発行年による変化を示している。シナリオとしては2℃シナリオ相当の2DS、SDS、APSと1.5℃シナリオ相当のB2DSとNZEシナリオに分けて示した。どちらのグループでも、バイオ燃料予測は最近減少傾向にあり、電気予測は増加傾向にある。これは、ここ数年乗用車市場において電気自動車の販売が急速に増加しており、将来の低炭素化の対策としてバイオ燃料から電気に重点が変わってきたことを反映している。また、図5ではわからないが、以下で述べるように、運輸部門内でのバイオ燃料の配分に関しても、最近のネットゼロや航空業界でのSAFへの関心の高まりから、乗用車で電動化によって余剰になった分をより低炭素化が困難な部門へ配分するように変化している。

図5.IEAシナリオにみる将来予測の変遷[6、7]
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[バイオ燃料の将来予測の比較]
 将来、運輸部門で、どの程度バイオ燃料を導入するかは、シナリオの気温上昇目標によって変化するが、図5でみたようにシナリオの作成時期によっても変化し、かつ各機関での様々な想定条件によって変化すると考えられる。ここでは、多くのシナリオを総合的に分析したIPCCの第6次報告書(AR6)のデータとIEAのWEO2022とETP2020のシナリオを使用して、その予測値を比較した(図6)。IEAのシナリオはWEO2022のSPS(2100年気温上昇:2.5℃-3DS)、APS(1.7℃-2DS)、NZE(1.4℃-<1.5DS)、ETP2020のSDS(1.65℃-2DS/1.5DS)で、IPCC-AR6のシナリオはC1+2(1.4℃-1.5DS)、C3+4(1.7℃-2DS)、C5+6(2.3℃-3DS)である。IEA-ETP2020-SDSは図5で示した、電動化へ比重を移す過渡期のもので、バイオ燃料への依存度が未だ高く、2050年には、運輸部門の24%の消費エネルギーがバイオ燃料になっている。電動化に比重を移した後のWEO2022の同等なシナリオAPSでは、2050年のバイオ燃料比率は15%になっている。IPCCとIEAのシナリオを同じレベルの気温上昇目標値で比較すると、IEAの方がバイオ燃料比率は高く、図には示していないが、電気でも同様な傾向が認められ、IEAの方がより意欲的、楽観的な技術進展予測をしていると言える。ただ、IPCCでは、100-300の多くのシナリオの中央値で評価しており、図の右に示した25-75%、5-95%レンジで見るとIEAのシナリオもその分布範囲に入っていることがわかる。
 上で見たように、IEAのシナリオとIPCC-AR6のシナリオによるバイオ燃料予測は多少の差はあるが、運輸部門の燃料Mixは、2050年での1.5DS、2DS、3DSで見ると、バイオ+電気/石油系の割合は各々、IEA(IPCC)42/42(38/43)、40/48(25/67)、16/79(14/83)%となっている。気温上昇目標が低くなるほど、石油系燃料を減らして、電気やバイオ燃料により低炭素化する必要があり、1.5DSでは、50%以上を低炭素燃料に置き換えることになっている。ただ、2050年では、石油系燃料も40%程度残っており、運輸部門としてはネットゼロが達成されていない。運輸部門の中でも、低炭素化が容易な部門とそうでない部門があり、各々の燃料Mixにおけるバイオ燃料等の低炭素燃料の割合も異なっている。

図6.運輸部門におけるバイオ燃料消費比率のシナリオ予測[7-9]
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[バイオ燃料の配分]
 上では、運輸部門全体でのバイオ燃料の導入予測を見たが、ここでは、運輸部門内の各部門でどのように配分され、またどのように低炭素化が進展すると予測されているかをIEAのシナリオを中心に見てみた。
 図7にETP2020-SDS(2070年ネットゼロ、2100年気温上昇:1.65℃、1.5DSと2DSの中間的なシナリオ)でのバイオ燃料の部門別の消費割合を示した。乗用車では電動化が進行するので、バイオ燃料の割合は減少傾向にある(絶対値では、増加傾向:図8参照)。一方、航空や船舶では、乗用車ほどの量ではないが、増加傾向にあり、現状はほぼゼロであるのが、2050年には、各々バイオ燃料全体の26%、8%を消費する予測になっている。

図7.運輸部門におけるバイオ燃料の配分[8]
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 各部門での低炭素化の状況をみるため、燃料Mixを図8に示した。バイオ燃料は、すべての部門で増加傾向にあることがわかる。バイオ燃料の各部門内での比率(2050年)は、乗用車、トラック、船舶、航空各々で、28、9、22、33%となっており、船舶、航空部門では、重要な低炭素燃料になっていることがわかる。
 乗用車部門では、2050年に2020年比で、電気の消費は12.5倍に、バイオ燃料は4.5倍と電動化が低炭素化の主役である。2050年での部門内のシェアは、電気38%、バイオ28%、水素9%、ガソリン+軽油27%となっている。
 低炭素化が困難なトラック、船舶、航空部門では、石油系燃料シェアが2050年でもかなり高い比率で残っている。トラック部門では、軽油シェアが2050年でも61%の比率になっている。低炭素化としては、2050年での消費シェアが電気12%、水素11%、バイオ9%と、燃料電池も含めた電動化が主役となっている。
 船舶では、2050年での部門内シェアが、重油47%、バイオ22%、アンモニア22%と、低炭素化ではバイオと水素系燃料のアンモニアが重要な位置づけになっている。航空部門では、2050年での部門内シェアが、従来ジェット52%、バイオ33%、水素ベースの合成燃料15%と、船舶と同様にバイオと水素系燃料が低炭素化の主役になっている。
 このように、乗用車部門では、電動化によりバイオ燃料の消費予測が減少し、その分、より低炭素化が困難なトラック、船舶、航空部門へまわされている。特に、2050年での運輸部門のバイオ燃料消費の約1/4を占める航空部門でのSAFの消費は、現在、非常に注目を集めており、急激な消費増加が予測されている。次に、このSAFの現状をもう少し詳しく見てみたい。

図8.運輸部門の部門毎の燃料Mix:ETP2020-SDS[8]
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4.航空部門におけるバイオ燃料(SAF)の現状

 現在、航空部門でのジェット燃料消費は、世界全体の石油消費の約6%で、コロナ以前の8%程度よりは未だ少し低いレベルにある。エネルギー起源のCO2排出量では、航空部門は全体の約2%、運輸部門全体の9%程度の寄与である。将来的には、途上国の経済成長で、航空需要は2050年には現在の2倍以上に増加すると予測されており、このままではCO2排出量も比例して増加するため、航空業界は2050年に向けて、様々なCO2削減対策を提案している。その中心がSAFであり、現在、101カ所の空港でSAFが供給されており、そのうち65カ所は、従来のジェット燃料と同じ装置で給油可能になっている。これまでに50航空会社でSAFが49万以上の商業フライトで使用され、一部ではあるが、定期便で通常利用されている。SAF生産は、図9に示すように、その生産量(消費量)は急増しているが、航空部門で消費される全ジェット燃料の0.1%程度(2022年)である。ジェット燃料の消費の多い米国のデータも示したが、全世界のデータと非常に似た傾向を示しており、2022年での消費割合は0.1%と世界全体と同じレベルである。

図9.SAFの生産量(2022年は推定値)[6、7]
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 航空部門で、最近、特に各国の航空会社が特定のSAFメーカーと長期の購入契約をしたというニュースが急増している(105件、総契約量:42BL)。その背景には、国連の専門機関ICAO(国際民間航空機関)や航空会社の国際業界団体である国際航空運送協会(IATA)が、航空部門でも2050年ネットゼロ達成という高い目標を掲げたことがある。また、欧米を中心に政府からのバイオ燃料や航空部門でのCO2削減への支援策が実施されていることも追い風となっている。このような動きを受けて、SAFの製造会社も将来へ向けての増産を計画しており、各社からの増産計画案発表も増加してきている。ICAO[10]が将来へ向けての製造設備建設のデータベースを作成しており、その分析結果を図10に示す。すべてで206件、総設備容量は71.4BLで、現状の生産量300-450MLの160-240倍と大きな伸びが期待できる。ただ、すべてが、実際に建設されるかは定かではないし、設備容量はすべての生産物に対するもので、HVO(水素化植物油)やHEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)の製法では、連産品として、炭素数の異なる生産物が生成されるので、すべてが、SAFとして利用できるものではない(最大でも50%程度)。もし、この勢いで今後も伸びたとすると、図に示すように2030年には100BL、2050年には300BLとなり、図8で示したIEAのシナリオレベルの供給(194BL)は可能となるであろうが、ICAOやIATAが目指している2050年ネットゼロシナリオでは2050年に450BL程度のSAFが必要であり、もっと増産を加速させる必要がある。

図10.SAF生産の増産計画から見た将来予測[10]
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さいごに

 運輸部門でのバイオ燃料消費は、全消費エネルギーの4%で、大きな伸びではないが、増加傾向にある。しかし、最近の電気自動車の販売急増(市場の10%を占めるまでに成長)で、将来の運輸部門の低炭素化としては、バイオ燃料から電気に注目の比重が移りつつある。これを受けて、将来シナリオも変化しており、バイオ燃料に関しては、従来の乗用車への優先配分から、他の低炭素化が困難な部門(トラック、航空、船舶)へ配分するシナリオに変化してきている。
 最近の注目度から見ると、特に航空部門でのSAF(Sustainable Aviation Fuel)としての使用があり、航空各社の長期購入契約締結のニュースも頻繁に見られるようになった。今後、バイオ燃料の使用は、乗用車から航空機へと動いていくことが考えられるが、現在、製造パスとしての主流の動植物油の水素化処理によるHVO/HEFA製造では、連産品としてディーゼル成分とジェット成分が主に生成され、どちらか一方のみの製造には向いていない。また、原料として注目されている廃食油は、飼料、熱源、産業用途などで利用されており、量的、用途間での競合という視点で、将来的に安定した原料として供給される保証がない。さらに、最近、米国で、HVO(Renewable-Diesel)の消費が急増しており(加州では、軽油相当燃料消費の31%をFAME+HVOが占め、HVOはFAMEの消費量をはるかに越え軽油相当燃料消費の25%程度を供給)、それに伴って、製造設備も急速に増設されている。運輸部門の中でも、HVOの配分に関しては、各部門での需要、他の製造パスの技術進展などによって、変化することが予想され、シナリオのように航空用がメインの用途になるかは非常に不確実である。ただ、バイオ燃料が運輸部門の特に低炭素化が困難な部門で重要な役割を果たし、また、乗用車部門でも途上国では、まだまだバイオ燃料による低炭素化が重要になることは間違いないと思われる。ネットゼロを目指す社会になれば、これまで以上にバイオ燃料は運輸部門において重要な役割を果たすと考えられ、従来以上に政府レベルでのR&D段階も含めて普及への支援が必要である。

参考文献

[1]
REN21(2021):Renewables 2021 -Global Status Report.
[2]
IEA(2022):Renewables 2022.
[3]
USDA:Foreign Agricultural Service-Biofuels Annual.
[4]
UFOP(2022):Global Market Supply 2021/2022.
[5]
OECD-FAO(2022): Agricultural Outlook 2022.
[6]
IEA: Energy Technology Perspectives 2014-2017.
[7]
IEA: World Energy Outlook 2021-2022.
[8]
IEA(2020): Energy Technology Perspectives 2020(ETP2020).
[9]
IPCC(2022):6th Assessment Report-WG3.
[10]
ICAO:ICAO SAF facilities dashboard.