電気自動車の蓄電池活用
藤森 俊治
自動車ジャーナリスト
我が家では10年前に太陽光パネルを設置し先月固定価格買取制度(FIT)の適用が終了した。FIT終了の2年ほど前に、政府のカーボンニュートラル(CN)対策によるEVへの補助金が増強された上に、国と東京都の補助制度の併用が可能になり、V2H(Vehicle to Home)への補助金も開始されたため、日産リーフ(当時62kWh)とV2Hを購入した。その後EVを2年間使った感想としては、充電インフラは結構多いため電欠の心配は無く、航続距離の問題も高速道路を長距離走っても電欠になる前に運転する人間が先に疲れて休憩するため、そこで充電は賄えることが分かった。
電欠の心配が無いと次はコストに関心が向く。自宅ではFITが終了した太陽光があるので、売電先の事業者を探していたところ、JPEX(日本卸電力取引所)の価格(30分単位)の80%で買い取る事業者を見つけ契約した。
前日に30分単位で単価が示される。季節によるが東京でも0.01円/kWhが発生しているので、このような安価な時間帯に充電し、単価の高い時間帯は太陽光を売電、夜間自家消費すれば、経産省の審議会などの会議資料に書かれている上げ下げ両方のデマンドレスポンス(DR)が可能になる。限定的ではあるもののダイナミックプライシングと言えるのではないか。
しかし、現状では既製品の組み合わせなので、自動的に制御してくれず手動になる。現実的には手間ばかりで運用は難しく自動化が期待される。買い指値、売り指値、数量は電池最低残存レベルで示すことで、株式取引のシステムを応用すれば自動化も実現出来そうに思われる。既に自動車メーカーはコネクテッド機能を使いスマホによる遠隔操作も可能なサービスを提供している。V2X(Vehicle toX)機能が無い普通充電でも、自動車側で通信し制御することで充電時間を管理しDRは出来そうである。
また、現在は未だ運用されていないが、電力逼迫時には高額で買い取って頂ければ喜んで放電し提供したく、バーチャルパワープラント(VPP)の実現もEVユーザーとしては関心がある。我が家では太陽光売電が出来るためダイナミックプライシングが可能となるが、太陽光が無くてもEVと充放電器があればDRやVPPが実現できるルール改正や事業提供を期待したい。
EVでDRが出来れば、例えば平日5日間自宅駐車場で充電器接続するだけで1か月1万円程度の収入が実現するかもしれない。そうなると、むしろEVを保有する方がお得になることになる。年間走行距離の短い自動車保有者は、維持コストなどから車両を手放してシェアリングサービスに流れそうであるが、近い将来EVの新たな付加価値が提示できれば、購買意欲向上が見いだせるのではないだろうか。
EVユーザーは上げ下げDRが実現すれば、電池の有効活用として経済的にメリットが見いだせるが、一方で電力事業者の収入が減ることを意味する。電力事業者には出力変動する再エネの調整機能である揚水や火力発電建設が抑制され、送配電網負荷低減に繋がりインフラ投資が節約可能なメリットもあるだろう。EVユーザー側は自動車の走行以外の目的で電池を使えば電池劣化の長期的な損料保証が必要になるので、損料および系統接続の手間に見合うコストがEVユーザーに還元されるべきと考えられる。
そこで疑問になるのが、EVは需給調整に貢献する一方、自動車として走行することが最優先であるため、自動車として利用時には需給調整に貢献出来ないことだ。ある意味、無責任で良いところ取りであるが、今後のEV普及を考えれば駐車場で寝ている電池にお仕事をして頂くことは、製品として稼働率が良く社会全体にも良い。このようなEVなので、電力系統全体での最終的な電力需給安定の機能は従来の電力事業者に委ねるしかない。しかし、電力の自由化や再エネの出現で火力発電設備の利用率は低下し、石油火力発電を中心に一部の発電所は逼迫時の限定した時間にしか運転できない、非効率な運転を課せられる。これでは系統の安定は誰が好んで行うのだろうかと疑問が出てくる。DRも可能なEVが系統の安定化にも貢献できるのではないだろうか。