完成目指す青森県・六ヶ所の核燃料再処理施設、現状を取材


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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 日本原燃の核燃料サイクル施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。同社は2024年上期のできるだけ早くの竣工を目指す。それによって核燃料サイクル政策が動き出す。3月末にここを取材した。現状を報告する。


写真1:日本原燃六ヶ所工場(同社提供)

原子力発電を支える重要施設

 「バックエンド施設が一箇所に集まっているのは、世界にここ六ヶ所だけです。発電と再処理は原子力における「車の両輪」。一日も早く稼働させ、地元、そして原子力関係者の期待に応えたい」。施設を案内した幹部は抱負を述べた。


写真2:原子力発電のウラン燃料はこのようなペレット状に加工され、金属の容器に入れられる。
写真のペレットは模型(筆者撮影)

 「バックエンド」とは、原子力発電では燃料製造や使用済み燃料処理など、発電以降の下流部分をいう。この六ヶ所村の日本原燃には、核燃料再処理、建設中のMOX燃料製造、低レベル放射性廃棄物の処分、高レベル放射性廃棄物の一時保管、そしてウラン濃縮の5つのカテゴリーの施設が立ち並ぶ。

 核燃料サイクルで行われるプルトニウムの分離や、ウラン濃縮などは、核兵器の製造に結びつきかねない。世界で核燃料サイクルができる国は非核兵器保有国では日本だけだ。世界で核燃料サイクルができる国は自由陣営では日本以外には英仏だけだ。技術力、国力、そして他国にそれを認めさせる外交努力が必要になる。日本は関係者の努力によって、稀な地位を獲得した。

 現地を訪れると、日本原燃の敷地の広さ、それぞれの建物の巨大さが印象に残る。その面積は、青森県下北半島の六ヶ所村に約730万平方メートル、再処理施設(専用道路などを含む)だけで約390万平方メートルあり、そこに巨大な建造物が並んでいる。再処理の新規制基準対策工事のピーク時には、約3200人の同社社員に加え、約8000人の協力会社の人が働いていた。MOX燃料工場(モックス:ウラン・プルトニウム混合酸化物)も建設中だった。

 詳細は自粛し明かせないが、警備は大変厳しかった。ここにはIAEA(国際原子力機関)の査察官と、原子力規制庁の職員が常駐し、監視を続けている。この場所で扱うプルトニウム、ウラン235が核兵器の材料になりかねないためで、国際的に注目される施設だ。

ウラン濃縮、低レベル、高レベル廃棄物の貯蔵施設を見る

 建設中のMOX燃料工場以外の4つの施設を順に見た。ウラン濃縮工場は、1992年から稼働している。天然ウランに0.7%程度しか含まれていない「ウラン235」の割合を3〜5%に濃縮して高め、発電に使えるようにして燃料に加工する。濃縮度を70%以上にすると、ウラン型核爆弾の材料になりかねないために、厳しい監視を国と国際機関が行なっている。中は原則非公開だ(写真3)。


写真3:ウラン濃縮工場の遠心分離装置(原燃提供)

 低レベル放射性廃棄物埋設センターは1992年から操業している。作業員の服など原発の作業で出た廃棄物をセメントなどで固型化して埋設する。放射線量は搬入の時点からほぼない。60万立方メートル分、ドラム缶300万本分の埋設が計画されている。現在、24.5万本程度が運び込まれた。22年度は約1万本が搬入された。まだ当面、埋設の余裕はある。


写真4:低レベル放射性廃棄物の埋設場。数十万本ずつ入る埋設地は巨大だ(原燃提供)

 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターは1995年から操業している。海外で再処理し、返還された廃棄物を溶かし込んだガラス固化体を保管している。その期間は30−50年を予定する。まだ熱を持つために空気冷却されている。いずれ埋設処分される予定だが、その施設は日本で建設地が未定だ。貯蔵容量は2880本、現在は1830本が保管されている。容器は何重にも遮蔽されているため、法令等に定められた線量限度を十分下回るよう設計されている(写真5)。


写真5:高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター。
この円形の蓋の下に廃棄物が保管されている。厳重な遮蔽で、法令等に定められた線量限度を十分下回るよう設計されている(原燃提供)

 「トイレのないマンション」などと、原子力反対派は50年前から変わらないスローガンを掲げている。しかし実際には着々と廃棄物処理の対応が進んでいる。20年以上前、高レベル放射性廃棄物のこの施設への搬入の際に、反対派が全国から押し寄せた。しかし安全な運営を続け事故もなかったために、今ではそのような運動は周囲で見られなくなったという。

再処理工場の稼働で原子力の諸問題が前進

 そしてこの施設の中核は、核燃料の再処理工場だ。原子力発電で行われる核分裂反応で、ウラン燃料の全てが物質転換するわけではない。大半の成分はそのままで、プルトニウムや核分裂の生成物ができる。その使用済み核燃料を化学反応させて物質を分離させ、使えるウランとプルトニウムを取り出す。

 使用済み核燃料6体(約3トン)から、ウラン燃料1体、MOX燃料は1体、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体(約500キロ)3本が作られる。燃料は再利用ができ、処分しなければならない廃棄物の体積が4分の1に減り、プルトニウムもMOX燃料で消費できる。年約800トンの使用済み燃料を処理できる。

 プルトニウムは核兵器に利用しやすい。日本は原子力の平和利用を進める観点から、余剰プルトニウムを持たず、核燃料サイクル政策でそれを消費すると世界に説明してきた。六ヶ所の再処理工場は、民間企業の一工場である一方で、日本の対外公約を実現する重要な施設になっている。

 仮に使用済み核燃料を直接処分した場合、放射線量が天然ウラン並みに低下するのは10万年必要だ。これに対し、燃料を再処理することによって同じ程度に低下する期間は8000年程度で済む。

 つまり再処理をすることで、燃料再利用、放射性廃棄物の減容、有害度低減というメリットがある。そして余剰プルトニウムを持たない国策の実現という意味がある。日本は無資源国だ。この核燃料サイクルによって、エネルギーの海外依存度を減らそうと1950年代から構想されてきた。それが今、実現しようとしている。

 再処理工場の建設費は当初計画の4倍の3兆1000億円になり、建設開始から2040年ごろまでの総事業費のめどは14兆4000億円になる。確かに巨額であり、その予定外の出費の是非は検証されなければならない。しかし現在の電力市場の規模は2022年で15兆1000億円と巨大なもので、核燃料サイクル事業費はそれよりはるかに小さい。核燃料サイクルの多くのメリットを考えれば、コストは決して高いものではなくなる。

なぜ審査は遅れたのか

 ただし再処理工場の竣工は遅れている。1992年に建設を始めたが、昨年22年9月に26回目の工事完成の延期を発表した。日本原燃は「2024年度のできるだけ早く」と期限を設定した。

 26回の延期は、原燃のマネジメント体制の問題もある。しかし2011年以降の原子力の新しい規制体制にも問題があるように思える。

 東日本大震災の後に、これまでの許認可を棚上げし、原子力規制で建設の認可が全ての原子力施設やり直しになった。これは無駄なことだし、法律上の根拠はなかった。

 日本原燃は2014年1月に事業変更許可申請を出し、それが2020年7月にようやく認められた。現在、設計と工事計画の認可を求め、並行して認可前でも施工可能な場所は安全対策工事を行なっている。ところが、今年3月末の原子力規制庁との審査会合では原燃が提出した申請書6万ページのうち約3000ページに、誤記や記載漏れがあったことが明らかになった。

 規制庁の上部機関である原子力規制委員会の山中伸介委員長は、「何らかの方策を考えなければならない時期に来ている」と、原燃を批判する発言を行った。確かに原燃の準備の足りなさは問題であるが、責任は原燃だけにあるのかと、私は思う。

 再処理施設は国内でここしかない。そこには他の原子炉の6倍程度の多くの設備がある。国内で審査の先行事例がないため、規制庁も、原燃も審査に試行錯誤を繰り返している。この事情を考えた対応を規制庁もするべきだった。

過剰規制が工事を遅らせた

 また素人の筆者の判断であるが、装備を過剰につける形で安全対策の規制が行われ、それが合理的であるか疑わしかった。

 新規制基準では、航空機衝突、天災による冷却機能の喪失などの重大事故への対応が行われている。しかし再処理施設は高熱を管理する必要のある原子力発電所ではなく、化学プラントだ。アクシデントが起きても、その事故の進行度が全く違う原発と同じような規制を課している。

 例えば、ここでは主要設備に竜巻対策が取られていた。他の原子力発電所と同じように、国内の気象観測で最大級の風速毎秒100メートル以上の竜巻対策を規制庁は求めた。そのために施設の冷却に必要な冷却塔、排気・換気ダクト、重要な配管に、竜巻での飛来物から設備を守る、鋼鉄製の防護網や板が設置されていた。また火災対策として、これまであった消火設備の地下化などが行われていた。ここでは過去、大規模な竜巻は観測されていない。ここまでの対策は必要なのか。


写真6:冷却塔に加わった防護ネット(原燃提供)


写真7:再処理工場の遠景(原燃提供)

 原子力施設が安全になることは良いことだ。しかし対応で高まる安全性と、経費や建設の手間に釣り合いは取れているのか。日本原燃の経費は電力の利用者が最終的に負担し、遅れも利用者に負担を強いる。また稼働をしながら工事をするのが、欧米の原子力規制の一般的なやり方だ。日本の原子力は工事完成まで、プラントの稼働を止めてしまう。

 こうした一連の過剰規制が適切か。私は疑問に思った。ただし原燃は、粛々と工事と安全対策の訓練を重ねている。


写真8、9:厳冬期に隣接する沼から取水し、加熱したと想定される施設に放水訓練を行う職員(原燃提供)

竣工を目指し、努力は続く

 再処理工場の竣工の遅れに対し、電力業界も支援を続けている。審査対応などで日本原燃に電力各社から多数の社員を派遣している。日本原燃の増田尚宏社長は2024年度上期のできるだけ早くに竣工させるという目標は変えていない。そしてMOX燃料工場も2024年度上期に竣工の予定だ。

 2019年に社長に就任した増田氏は、エネルギー業界では「英雄」として知られる。東日本大震災の時に、津波に襲われた東京電力福島第二原発の所長として、対応を行い、プラントを安全に冷温停止させた。その実績が高く評価されている。その熱意は社長に転じた日本原燃にも活力を注ぎ込んでいるとされる。

 同社は、2021年12月から体育館に関連企業、社員を集め、コロナ対策をしながらそこで400人ほどが机を並べて働いている。審査対応を、一緒に練る場所を作り、連携を強めるためだ。竣工を目指し、関係者が一丸になって取り組んでいる。

 遅れは原子力のこの事業を受け入れ、それによる経済の発展を期待してきた青森県の人々を失望させることにもなる。1日も早く完成させ、核燃料サイクルを形にしてほしい。

 再処理施設の完成は核燃料サイクル政策を動かし、それが原子力をめぐる諸問題を、解決に向けて前進させる。