温室効果を再考する

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はWilliam Kininmonth, Rethinking the Greenhouse EffectをGWPFの許可を得て邦訳したものである。

はじめに

 人類が気候の危機を引き起こしているという考え方は広く知られている。その理由は、温室効果ガスが地球からの熱を吸収し、宇宙空間への放射を防ぐことで地球を温めているという説にある1。つまり、温室効果ガス、特に産業による排出ガスである二酸化炭素をより多く放出すれば、当然、温暖化が進むということになる。この理論は、フランスの数学者ジョセフ・フーリエが1820年代に提唱した理論の延長線上にあり、後にスウェーデンの化学者アレニウスが 1896 年に発表した氷河期の原因に関する仮説に用いられた。

 The Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル:IPCC)は、将来の気候に及ぼす二酸化炭素の影響について各国政府に助言するために国連によって設立された機関である。IPCCは、人為的な地球温暖化について、次のように説明している。工業化以前の地球は、放射収支の均衡が保たれていた。つまり、大気圏上層部では、入射する太陽放射2が、それと同程度の宇宙への長波放射で相殺されていたため、地球の温度は安定していたのである。

 化石燃料の燃焼により、大気中の二酸化炭素濃度が上昇したことは間違いない。IPCCの説明では、濃度が上昇するにつれて、宇宙へ放出される放射の強度が減少してきたとされている。このいわゆる「放射強制力」が大気を温めるのである。

 しかし、温室効果の実態は、温室効果ガス3による地球放射の吸収や大気圏上層部の放射収支のバランスだけでなく、もっと複雑なものである。温室効果ガスは、放射を吸収する量よりも、宇宙へ放射する量、地球へ放射する量が多いことは、60年以上も前からわかっていた。大気は、地表からの熱と潜熱(水蒸気の蒸発)によってのみ、冷却を防いでいる。これらの膨大なエネルギーの流れを考えずに、何が起こっているのかを正しく理解することはできない。

 IPCCの立論は、地球が球体であり、緯度によって何が起こっているかが大きく異なるという事実も見落としている。太陽放射の吸収は熱帯で最も多く行われ、高緯度では宇宙への長波放射の放出が過剰になっているのだ4。局所的な放射のバランスはどこにもない。海流や、大気の風は、気候の力学が地球全体の放射バランスを達成しようとする過程で、常に熱帯から高緯度へ過剰な熱を輸送している。しかし、海洋と大気による輸送速度の違いや、太陽熱の季節的な変化により、バランスはあくまで一過性のものに過ぎない。

 地球上の放射収支の不在は、地球の平均気温が一定ではなく、1年間に2.5℃以上の幅があることに象徴される。このことは、地球から宇宙への長波放射が、1年を通じて変化していることを示している。つまり、全球的にも局所的にも、宇宙への放射熱量は地球の気温の変化によるものであり、宇宙への放射が地球の気温を規定することはありえないのだ。

 地球の温度がなぜ変化しているのかを説明するには、熱帯での吸収、大気・海流による極域へのエネルギー輸送、高緯度での宇宙への放出など、エネルギーの流れに沿って気候システムを追跡する必要がある。すると、次のことが見えてくる。

地表のエネルギー収支がどのように地球の温室効果を定義しているか。
熱帯海洋上で吸収された太陽放射が表層貯熱層を形成し、それが大気への熱交換を制御していること。
風が熱帯から熱を運ぶとき、北半球の高緯度の気温がどのように反応するか。

 導き出される結論は、大気中の二酸化炭素の変化は、地球の気温や気候にほとんど影響を与えないということである。実際、最近40年間に観測された気温の変化は、海流による極方向への熱の輸送が遅くなったことと一致している。

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