エネルギー教育と電力館


環太平洋大学客員教授、元中日・東京新聞記者、経済広報センター常務理事・国内広報部長(産業教育で文部科学大臣賞を受賞)

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 出張やセミナーで地方に出かけた時の私の楽しみのひとつが企業ミュージアムに立ち寄ることである。歩いて複数の施設に行くことができると何か得をした気分になる。その点、産業観光を売りにする名古屋はお得感がいっぱいだ。名古屋駅周辺にはトヨタ産業技術記念館やノリタケの森がある。繁華街の栄に行くと、三菱UFJ銀行の貨幣浮世絵ミュージアムと中部電力のでんきの科学館がある。

 電力会社の電気館には思い出がある。かつては福岡に九州電力の九州エネルギー館があり、東京には東京電力の電力館があった。しかし、九電の場合は建物の老朽化、東電の場合は東日本大震災後のPR活動自粛で閉館してしまった。そういう意味では、残された中部電力のでんきの科学館よ、頑張れ、とエールを送りたい。

 もっとも電力会社の場合、本店所在地の大きな博物館以外にも、各地の発電所に隣接しPR施設が数多く存在している。しかし、各発電所の現場説明と、各電力会社の中核都市にある、子どもが楽しみながらエネルギーを学ぶ総合的な博物館では意味が全く異なる。

 私も20年近く前、教員向けのエネルギーテキストを作成するに当たり、東電と九電の施設を見学し、そのコンテンツを大いに参考にさせていただいた。

 「家の中で電気が使われているものを探してみよう」、「家から飛び出し、町の中で電気が使われているものを探してみよう」、さらに「電線をさかのぼって電気はどこから来ているのかをたどってみよう」「途中に何があるかな。変電所とかいうものがあるけど、これはなぜあるのかな。その役割について考えてみよう」、そして「電線の行き着く先に何があるかな。これを発電所というけれどどんな種類があるのか」「さらにその先には、いろいろな発電所があるけれど、電気を起こす仕組みは同じ。タービンを回して電気をつくっているんだね」といった内容だった。

 このテキストのイラストをカラーで印刷しようと思ったら、「テキストは白黒でないと、子供たちが家の中の電気に色鉛筆でマルをつけたり、電線を色鉛筆でたどったりできない」と、教育のプロ、カリスマ教師である向山洋一先生に指摘された。

 そのテキストが出来てから、もう20年近くたつ。修正を繰り返しながら長い間、教室で使っていただいた。何年かごとの改訂版では、「停電はなぜ起こるの」「日本は停電が少ない国」「再生エネルギーのメリット、デメリット」等が加わっていった。

 そして、いま。時代の変化で、紙のテキストは、GIGAスクール対応型タブレット教材として生まれ変わろうとしている。内容も「1930年ころの暮らしと2020年ころの暮らし」「電気の使用量と家電製品の関係」「再生可能エネルギーのこれからを考えよう」「発電方法の工夫を知ろう」等、最新のものとなる。2023年4月以降に実際に使っていただくことを目指している。

 エネルギー教育だけではないが、タブレットを使い、子どもたちが手を動かし体験型・参加型でワイワイガヤガヤ楽しく学べる教材開発を続けていきたい。