蓄電新技術


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 不規則に変動する再生可能エネルギーである太陽光や風力で発電された電力は、電力需要とは無関係に発電量が上下するために、送電系統の安定性を維持するために一時的に貯蔵されることもある(揚水発電を除く蓄電装置が広く普及していないため、出力制御が行われることが多い)。それには蓄電池が広く使われるが、他に、フライホイールや錘の上下によるもの(2019/07/08に本コラムで紹介)、空気の高圧化、揚水発電、などのように化学反応とは無関係なものもある。また、最近話題になっているのは、再エネ電力による水の電気分解で水素を作って貯蔵し、必要に応じて燃料電池や水素タービンで発電するという方法もある。

 この蓄電に向けた新しい技術が開発され、実用化されようとしている。

 米国カリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリアにあるスタートアップであるAntora社が開発したのは、炭素系鉱物の塊を再エネ電力で超高温にして貯蔵する方式だ。この構想は2018年に始まったものだが、ビル・ゲイツが関与する投資グループなど幾つかの技術開発支援団体から資金が提供されている。この開発技術は、米国の温暖化ガス排出量の30%を占める工業部門で消費されるエネルギーを主たる対象とするオンサイト型のシステムだ。

 太陽のエネルギーを熱にして発電する方式はかなり前から実用化されている。太陽光を沢山の鏡で反射させて一点に集光し、発生する600℃ほどの熱で蒸気発電をし、残った熱を溶融塩に貯蔵して夜間に発電させるというものだ。だが、Antora社の新システムは、安価な太陽光発電や風力発電からの電力をグラファイトに投入し、2,000℃にまで温度を上げて貯蔵する。グラファイトは炭素からなる鉱物質のもので、電気をよく通し、高温での利用ができる。Antora社はこれを海上輸送用コンテナータイプの容器に収納している。

 同社は現時点で電力500kWhの貯蔵ができるプロトタイプを持っているが、次いで、カリフォルニア州のフレスノにある得意先の工場内に、5MWhの貯蔵ができるものを、支援金を使って設置しようとしている。2,000℃のグラファイトは強く発光するが、コンテナーの壁面にあるシャッターを開け、光を絞り込んで1,500℃で照射するようになっている。この方式によって、設置先の高温処理をする工程に必要な温度の熱を、熱媒体を使わずに直接供給することができ、化石燃料の使用に代替させることができる。また、その光を特殊な設計をした太陽光発電パネルに照射することにより、設置先で必要なだけグリーン電力を供給できる。

 一連のシステムがコンテナー型の容器に収納されているため、トラックで簡単に移動でき、輸送コストは低い。設置についても、開発者の表現によれば、レゴのブロックを積み上げるのと同じだから、グローバルな市場にも容易に対応することができる。また、素材であるグラファイトは、従来の蓄電池に使われているような稀少金属ではなく、世界のどこでも入手できるし、容器もアルミニュームと鉄だから、量的な制約もない。

 気候変動対応のエネルギー源として普及する可能性は大きいかも知れない。