エネルギー危機が増やした英国電力再国有化支持率


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2022年6月1日付)

 ロシアからの天然ガス供給抑制に端を発した欧州エネルギー危機は、ロシアのウクライナ侵攻によりさらに深まり、欧州諸国の脱ロシア化石燃料を引き起こした。化石燃料価格は高止まりしている。欧州で一段と高騰しているエネルギー価格は、欧州諸国では既に高いインフレを招いている。

 通貨ユーロ利用の19カ国の3月の消費者物価上昇率は7.5%。英国では1992年以来の7%の上昇率を記録した。英国では消費者保護の観点から、ガス・電気料金には規制当局により上限額が設定され年2回見直しが行われているが、4月1日に、標準家庭の上限価格は693ポンド上昇し、年間1971ポンド(31万円)になった。最近の小売り料金は上限価格に張り付いて推移しているので、多くの家庭はこの金額を支払うことになる。

 10月に見直される上限価格は、最低でも2500ポンドから2600ポンドになるとの予測が出されている。英中央銀行は、今年末のインフレ率は10%になるとの予測も発表した。値上がりを続けるエネルギー価格は、世論にも影響を与えている。ドイツでは脱原発の中断を支持する意見が4月に過半を超え、53%になった。反対は38%(独公共放送連盟)。英国でも政府による原発新設支援を支持する意見が増えている。再エネ支持は依然高いものの、英政府は再エネに力を入れ過ぎているとの批判も増えた。

 そんな中で、エネルギー企業の在り方に関する意見も変化している。英国では電力会社・ガス会社を再度公的運営にすべきとの意見が元々多かったが、エネルギー危機を受けさらに支持が広がっている。2020年2月の世論調査(YouGov)では、「再度公的企業にすべき」を「強く支持」20%、「どちらかと言えば支持」29%に対し、「強く反対」6%、「どちらかと言えば反対」15%だったが、2021年12月調査では、それぞれ27%、32%、3%、10%となり、支持と反対との差は大きく開いた。エネルギー危機が問いかけることは脱ロシアに加え多くある。