寿命が来た太陽光発電パネルの再利用
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
今年の3月18日、アメリカのエネルギー省(DOE)が「Action Plan For Photovoltaic Systems End-Of-Life Management」(寿命がきた太陽光発電システムの処理に対するアクションプラン)というタイトルの計画書を出している。その趣旨は、これから5年をかけて、寿命がきた太陽光発電(PV)パネルのリサイクルコストを半分に引き下げ、廃棄処理に回る量を減らすことによって、環境への影響を引き下げる方策を検討する、というものだ。
PVパネルの素材には各種あるが、一般的に寿命は30~35年とされている。それからすると、現時点ではこの寿命期間を経過したパネルは、世界的に見てもほとんどないが、強風による倒壊などの理由で取り壊されたパネルのほとんどが、その素材の95%はリサイクル、リユースされることなく、ゴミとして廃棄されている。その主要因が、リサイクル・リユースにかかるコストが廃棄処分のそれを大きく上回ることだということから、リサイクルコストを2030年迄に現在の半分以下と大幅に引き下げることにより、廃棄処分量を引き下げる技術開発をするというのがアクションプランの趣旨のようだ。これが実現できれば、廃棄処分で起こる環境問題への対応ともなる。
さらには、エネルギー安全保障の側面もある。PVパネルの主流であるシリコン系のものについて世界的に見ると、シリコンウエファーの97%が中国で生産され、その75%を東南アジアにある中国系の企業がパネル素材に組み上げており、米国でパネルを組み上げているのも殆ど中国系の企業だ。だが、今回のアクションプランが順調に進展して、リサイクル・リユースのコストが半減すれば、米国内にPVパネルを製造する米国企業が増える可能性もある。その波及効果は大きいかも知れない。
昨年DOEとNREL(国立再生可能エネルギー研究所)が予測した数字では、PVからの電力が2035年には総電力量の40%、2050年には45%を占めるとされているが、それを賄うだけのPVパネルが設置されていることになり、このアクションプランによってパネルのリサイクル、リユース率が向上すれば、いわば国産の資源でPV発電設備を製造できることになる。現時点でなされている太陽光発電規模の想定では、2025年に225GWとされているものが、アメリカがネットゼロカーボンを実現させようとする2050年には1,600GWにまで拡大するとされており、このプロジェクトが順調に進めば、リサイクル・リユースで賄われるPVパネルの量が着実な伸びを示すことになるだろう。そして、アメリカ国内でもPV関連の事業が拡大し、雇用を拡大することにもなる。
日本でこのような動きがあるか調べてみると、環境省から2018年に「使用済太陽光パネルのリユース、リサイクルについて」という指針が出されている。しかし、これは産業廃棄物として扱われるPVパネルに含まれる有害物質への対応と、廃棄物全体の最終処分容量を圧迫しないようにという見地からのもので、PVパネルのリサイクル・リユースの技術開発を推進するものではない。日本でのPV設置規模は、2030年時点の予測でアメリカの10分の一ほどだが、国土の広さとの対比で見れば、リサイクル・リユースの必然性は同じだろう。アメリカのアクションプランの成果が出れば、技術導入することも一つの選択肢かも知れない。