核融合炉は手の届くところにある

-発電コストと必要な研究開発投資は-


元慶應義塾大教授、1990年代から国の核融合関連委員会にも関与

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 たゆまぬ技術開発により、核融合は今や夢物語などではなく、手の届く技術になった。設計、材料、制御などの主要な課題はすでに解決の見通しが立っている。後は、まず実験炉を造って動作を確かめたのち、いよいよ実用炉へと開発を進めてゆけばよい(動画による平易な解説はこちら)。本稿では気になる発電コストの見通しと、今後必要な実験炉への投資について述べよう。

 核融合エネルギーは二酸化炭素を出さずに安定してエネルギーを供給可能な未来技術として注目されてきた。だがその最近の進展は意外に知られていないかもしれない。いま日・米・露・中・韓・印の6か国+1地域(EU)の国際協力で、核融合実験炉ITER(イーターと発音する)の建設がフランスで進んでいる。完成は2020年代後半で、2035年にはフルパワーの50万キロワットの熱出力を計画している。これは20-25万キロワットの電気出力がある火力発電所の熱出力と同じくらいの規模である。つまり普通に見る火力発電所並みの大きさの核融合炉がいよいよ誕生する。
 ITERの建設コストは、2.5兆円前後とされている(例えば、NHKメールマガジン)。こんなに高くて実用になるのか、という心配はごもっともである。ただし、ITERが高いのには理由が3つある。

第1に、人類初の核融合炉であり、機器の製造はかならず技術開発から始まるから、そのコストが嵩む。
第2に、幾つもの方法を試し性能を確認する「実験」をするため、必要最小限の設備だけに抑えるのではなく、あれこれの設備が設置されている。
第3に、国際協力で進めているためである。参加各国はそれぞれが核融合炉の建設・製造経験を積みたいので、同じ機器(例えば超伝導コイル)でも、仕様だけが決められていて、それを各国がそれぞれの技術で製造して物納する、という仕組みになっている。世界で協力して建設しているおかげで、各国の負担額は、一国でITERを建設するよりははるかに安くはなるものの、総額では高くなるのは、この国際協力の仕組みとしてはやむをえないところもある。

 では実用段階では、幾らの建設費がかかり、発電コストはいくらになるのであろうか。
 ITER建設が始まる前の2000年に公開された内閣府原子力委員会核融合会議 開発戦略検討分科会報告書の1章3節に、21世紀中ごろに実現予定の実用炉を詳しく検討した結果が記載されている。
 そのうちの1つCRESTという核融合炉の設計例の場合は、116万キロワットの電気出力で総建設費は4900億円となった。
 発電コストについては、当時の前提として炉の寿命20年、割引率7%などを仮定して、13円/kWh(=1キロワット・時当たり13円)とされた。なお割引率とは将来の価値を現在の価値に戻す利率のことであり、金利を反映するのが普通である。ただし今では寿命は30年以上で計算するのが普通であるし、経済全般で金利が下がっているので、割引率はもっと低い数値が妥当である。そこで、寿命30年、割引率2%で発電コストを計算し直すと、7.6円/kWhとなる。これならば、今知られているあらゆる発電方式と比較して遜色のないコストになる。
 ちなみに同報告書ではもう一つの設計例であるA-SSTRという核融合炉についても試算されている。これは170万キロワットの電気出力で5100億円とされている。これならば発電コストはさらに安くなって、5.4円/kWhとなる。なお以上の建設コストの試算は、実用炉10基程度を製造し、その習熟によるコストダウンも含めたものになっている。
 もちろん、以上はすべて、年間維持費などについて、いくつかの仮定をした上での数字ではある。だが肝心なのは、「核融合は高くつく」というのは、あくまで実験段階だけの話だ、ということだ。そこさえ乗り切れば、実用段階では核融合炉は安くできる。既に述べた様に、実験炉であるITERには2.5兆円かかる。さらに、実用炉を設計する前に、もう1度2兆円程度をかけて発電を実証するための原型炉を建設する必要がある。だがその後の実用段階になれば、十分に安価でCO2を出さない発電技術を人類は手にすることになる。
 これは何としても日本の手でやり遂げたい。地球温暖化対策には今後何十兆円もかかるだろう。ならば、核融合技術開発を重点化、加速化する価値があるのではなかろうか。