海洋プラスチック対策において目的と手段の不一致が生まれた背景


素材メーカー(環境・CSR担当)

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 前回注1) 、海洋プラスチック対策としてプラスチック「使用量」の削減が行われるのは目的と手段の不一致でありグリーンウォッシュだ、と論じました。ではなぜこのような不一致が起きてしまったのか、その背景について考察します。
 2015年6月のG7エルマウ・サミットで海洋ごみ・プラスチックごみが世界的課題であると提起されて以降、毎年G7やG20等の首脳会議で話題となり世界の潮流になってきました。2018年6月のG7シャルルボワ・サミットで「海洋プラスチック憲章」注2) が採択され(日本と米国は署名せず)、日本でも2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」注3) が策定されました。その後2020年7月のレジ袋有料化につながります。
 海洋プラスチック憲章は日本の実情に合わない目標だったため署名を拒否したのはよかったのですが、EU発の海洋プラスチック憲章を参照して似たような内容の資源循環戦略をつくってしまいました。当時から現在に至るまで、海洋プラスチック憲章への署名拒否、ならびにEUよりも見劣りするプラスチック資源循環戦略の数値目標について批判が続いています。ただ、筆者は別の視点からプラスチック資源循環戦略の課題について指摘します。

サーマルリサイクルは悪、マテリアルリサイクルが善?

 「日本はサーマルリサイクル比率が高いのでエコじゃない。欧米のようにマテリアルリサイクルをめざすべき」と巷間言われていますが、根拠が判然としません。筆者の勉強不足で知らないだけかもしれませんが、どなたに質問しても「欧米ではサーマルリサイクルはエネルギーリカバリーとしてリサイクルの定義に含めていない」という欧米出羽守ばかりで、論理立った説明を聞いたことがないのです。たとえば、インターネット記事やSNS等で拡散されているものに2013年度のOECD加盟国のリサイクル比率のグラフがあります注4)

 日本のマテリアルリサイクル率が約2割、サーマルリサイクル率が約7割であり、対してドイツやスイスなどはマテリアルリサイクルが5~7割もある一方サーマルリサイクルは2~5割ほどのため、日本はサーマルリサイクルが突出して高く、世界と比べて廃棄物対策が遅れている、という意見をよく目にします。ただし、出所のOECDレポートを見ると、「一般廃棄物は廃棄物全体の10%に過ぎない(Municipal waste is only part of total waste generated (about 10%),)」「廃棄物の定義や種類、集計方法は国や時期によって異なる(The definition of municipal waste, the types of waste covered and the surveying methods used to collect information vary from country to country and over time.)」等の断りがあるため、とても横並びで比較できるものではなく、あくまで参考程度にとどめた方がよいと思います。比較可能性はともかく日本のマテリアルリサイクル率約2割は低い、と言うのであれば主張としてはあってもよいでしょう。
 一方で、前回の海岸漂着ごみ調査でも示した通り、このグラフは比率であるため絶対量での比較もあった方がよいと思います。都合のよいことに、このOECDレポートの冒頭には、国別の一人当たり一般廃棄物量が示されています。

 同レポートにはこの2つの棒グラフの生データが掲載されており、日本、ドイツ、スイスを抜き出すとこうなります。

 上述の通り定義が曖昧なのであくまでも参考ですが、この二つのグラフを単純に掛け合わせると、マテリアルリサイクル量は日本67kg、ドイツ399kg、スイス363kg、サーマルリサイクル量は日本251kg、ドイツ135kg、スイス349kgとなります。

 比率のグラフではサーマルリサイクルに関して日本がドイツの3.2倍(71%÷22%)、スイスの1.5倍(71%÷49%)でしたが、量のグラフでは日本がドイツの1.9倍(251kg÷135kg)、スイスにいたっては0.7倍(251kg÷349kg)と逆転してしまいます。全く違った印象にならないでしょうか。一人当たりではなく各国の総量で比較するのであればさらに人口を掛けることもできますが、実データではなく仮定×仮定のデータなので、試算はここまでにしておきます。
 さらに、このOECDレポートを元に議論するのであれば付け加えたい点があります。廃棄物の埋め立ての是非についてです。図1.31より廃棄物の埋め立て率が5%未満なのはドイツ(0%)、スイス(0%)、ベルギー(1%)、日本(1%)、オランダ(1%)、スウェーデン(1%)、デンマーク(2%)、ノルウェー(2%)、オーストリア(4%)の9か国のみです(カッコ内は各国の廃棄物埋め立て率)。同レポートには「EUはすべての加盟国にリサイクル目標を導入し、廃棄物の埋め立てはいくつかの国で禁止されたものの、多くの国で主要な処分方法のまま。(The European Union has introduced recycling targets for all its member countries. Landfilling of municipal waste has been banned in a few countries. Landfill nonetheless remains the major disposal method in many OECD countries.)」との記述もあります。エネルギーリカバリーをリサイクルに含めるかどうか、などという議論よりも、廃棄物対策としては埋め立て処分を減らすことこそが本質ではないでしょうか。インターネット記事やSNS等でOECD加盟国のリサイクル率のグラフは拡散しても、この点にはほとんど触れられていないようです。いずれにしても、同レポートは廃棄物全体の10%程度をカバーするもので、しかも廃棄物の定義や集計方法も国や時期によって統一ができていないものであることを重ねて指摘しておきます。
 他方、2019年5月14日に日本化学工業協会、日本プラスチック工業連盟、プラスチック循環利用協会、石油化学工業協会、塩ビ工業・環境協会の化学系5団体で構成する「海洋プラスチック問題対応協議会」が公表した「プラスチック製容器包装再商品化手法およびエネルギーリカバリーの環境負荷評価(LCA)」注5) では、

一定程度の効率を持ったエネルギーリカバリーは、マテリアルリサイクルおよびケミカルリサイクルと、環境負荷削減効果において、劣るものではないことがわかった。

と結論付けられています。もちろんこれはある一定の条件下で行われた試算ですが、インターネット記事やSNS等でもっと広く取り上げられてもよい科学的な検証のひとつではないかと思います。
 もうひとつ、日本の高い燃焼技術の一例が一般社団法人プラスチック循環利用協会が発行している「プラスチックリサイクルの基礎知識2021」注6) で簡潔に示されています。我が国の廃棄物処理施設ではばいじんや水銀、窒素酸化物などを削減するために高度な排ガス対策を備えており、ダイオキシン類に至っては1997年比で1/176まで低下させているそうです。
 そもそも、国土の中で廃棄物を埋め立てる場所が少ない日本では減容化(埋め立てする体積を小さくすること)のためにサーマルリサイクルが優先された結果燃焼技術が向上し、他方焼却技術が劣る欧米先進国ではマテリアルリサイクルが進んでいます。従って、EU発の海洋プラスチック憲章もマテリアルリサイクル重視という自分たちの特徴を反映した内容であり、マテリアルリサイクルの川上対策としてリデュース(排出量の削減)、さらには使用量の削減に重きを置いていると考えることもできます。地理的な前提条件があるため、国によって対策も異なって当然ではないでしょうか。
 日本の高度な廃棄物燃焼技術を、欧米先進国を含む世界各国に輸出し支援することができれば、サーマルリサイクルの是非についての議論が進展することも期待できるでしょう。当然ながら、世界の埋め立て廃棄物量や海洋投棄量の削減に貢献できる余地も大いにあります。

プラスチック資源循環戦略の再活用を

 日本の実情とは合わない海洋プラスチック憲章に署名しなかったのは賢明な判断でしたが、世界的な潮流を受けて日本政府としても早くプラスチック資源循環戦略を策定せざるを得なかったことは理解します。しかしながら、海洋プラスチック憲章と似たような網羅的な項目を並べながら数値目標が見劣りしたのは悪手でした。一部で批判の声が上がっているのはこの点です。
 ただ、プラスチック資源循環戦略を詳細に見るとよい記述もたくさんあります。「重点戦略」(1)②には以下の記述があります。

・分別・選別されるプラスチック資源の品質・性状等に応じて、循環型社会形成推進基本法の基本原則を踏まえて、材料リサイクル、ケミカルリサイクル、そして熱回収を最適に組み合わせることで、資源有効利用率の最大化を図ります。

 一部からの批判に屈せず、熱回収、すなわちサーマルリサイクルをちゃんとリサイクルの一環として位置付けているのです。続いて「重点戦略」の(2)「海洋プラスチック対策」の記述も抜粋します。

海洋プラスチック汚染の実態の正しい理解を促し国民的機運を醸成し、①犯罪行為であるポイ捨て・不法投棄の撲滅を徹底した上で、清掃活動を含めた陸域での廃棄物適正処理、②マイクロプラスチック流出抑制対策、③海洋ごみの回収処理、④代替イノベーションの推進、⑤海洋ごみの実態把握について、以下のとおり取り組みます。

 まず①に「犯罪行為であるポイ捨て・不法投棄の撲滅を徹底」とあり、②~⑤に使用量削減は書かれていません。さらに「重点戦略」の(3)に「国際展開」が来ており、引用は省きますが内容としては「世界各国へ我が国の廃棄物処理システムを展開」することになっています。
 以上より、少なくともこのプラスチック資源循環戦略をまとめた各省庁の行政官たちは海洋プラスチック対策の本質を理解しているはずです。願わくば、本稿で繰り返し述べている通り国際交渉による海洋投棄の撲滅も加えてほしかったところです。

 ただし、せっかくプラスチック資源循環戦略はよくまとまっているのに、この2年間の目玉施策がレジ袋有料化のみというのは何ともお粗末な展開です。政治の不作為と言えます。環境大臣、そして日本政府は本気で海洋プラスチック削減をめざすのであれば、やりやすい小手先の国内対策ばかりでなく、このプラスチック資源循環戦略に従ってポイ捨て・不法投棄の撲滅と各国の技術支援に本腰を入れていただきたいところです。また技術支援と並行して、海洋投棄している国があればやめるよう交渉も行うべきです。

プラスチックごみ輸出制限の影響

 これもSNS等で散見しますが「日本は中国など海外にプラスチックごみを輸出している。間接的に海洋投棄しているじゃないか」という批判があります。これはその通りです。2018年から中国がプラスチックごみの輸入を制限したために日本からの輸出量が激減しています。
 筆者は以前から廃棄物を輸出することに反対でした。2014年頃だったと思いますが、ある会合で政府の担当者に直接聞いたことがあります。

筆 者:
「中国や海外へ輸出するのはバーゼル条約違反ではないのか」「仮にOKでも国内で処理すべきではないか」「海に捨てられているという噂は本当か?」
担当者:
「有価物として中国と契約しているのでバーゼルはOK」「日本からは150万トン/年だが、EUからは300万トン/年輸出されているので・・・(日本よりEUの方が多い)」「海に捨てているという噂はあるが、契約は有価物なので・・・(日本が意図的に捨てているのではない)」

 このような会話だったと記憶しています。その数年後、中国の輸入規制の話が出てきた際には、「あーあ、輸出なんかやめて国内処理の準備をしておけば」と思ったものです。今回の輸入制限を奇禍として、今後は100%国内で処理できるようにすべきですが、2020年度の廃プラスチック輸出量はまだ82万トン注7) もあるようです。2014年度の167万トンからは半減しているものの、ごみの輸出は早急にやめるべきではないでしょうか。日本政府が看過せずに対応するよう期待します。一方で、全国の廃棄物処理業者の皆さんは今まさに四苦八苦されていると仄聞しています。中国の輸入規制後に訪問したある廃棄物処理業者で話を伺った際には、「もちろん不法投棄などせず、きついけど敷地内に溜め込んでおいて、処理できるよう技術開発しますよ!」と意気込んでおられました。これぞ日本企業の姿だなと頼もしく感じると同時に、先の政府担当者のお気楽ぶりに腹が立ちました。せめて輸出先から受け入れを止められる前に、もっと余裕のあるうちに、国内の処理業者の皆さんへ準備する時間を与えていれば――。結局、振り回されるのはいつも現場です。

日本国内での川や海岸のごみ拾いはとても重要

 前回の論考を読んだ方から「川のごみ拾いは意味がないのか」との質問を受けましたので筆者の考えを補足します。河川や海岸の清掃・ごみ拾いはとても重要です。筆者もたびたび参加しており、川岸に落ちているごみや川底に沈んでいるプラスチックの多さに驚くばかりです。ごみ拾いの本来の目的は、その河川や海岸などその場所・その地域の景観ならびに生態系の保全であり、さらには地域住民のモラルアップにもつながる尊い活動です。しかしながら、昨今は「海洋プラスチックの削減」を目的にうたっているごみ拾い活動を目にすることが増えました。よくウミガメやクジラを助けようというイメージが利用されています。ただ、大変申し上げにくいのですが、日本の河川や海岸のごみ拾いがウミガメやクジラを助けることにはほとんどつながらないことを、一般の参加者には理解した上で今後も参加していただきたいと考えています。
 街中や河川、海岸等のごみは心ないポイ捨てや不法投棄、ならびに非意図的な廃棄(気づかずにお菓子の包装を落とした、強風でレジ袋が飛んだ、等)が原因であって、プラスチックごみ全体のおそらくコンマ数%、プラスチックも含む廃棄物全体から見ればほぼゼロと言える割合のはずです。ポイ捨てや不法投棄量を推計するのは難しいのですが、参考までに環境省が把握しているデータを紹介します。「産業廃棄物の不法投棄等の状況(平成30年度)について(令和元年12月24日付環境省報道発表)」注8) より2018年度の新規不法投棄量は15.7万トン(内プラスチック量は315トン)、「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(令和3年6月8日付環境省報道発表)」注9) より同年度の全産業廃棄物量は379百万トン、「産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度実績)について(令和3年3月26日付環境省報道発表)」注10) より同年度の廃プラスチック量は706.4万トンです。従って、2018年度の全産業廃棄物量に対する新規不法投棄量の比率は0.04%となります。また、新規不法投棄されたプラスチック量は同年度の新規不法投棄量全体に対して0.2%、同じく産業廃棄物における廃プラスチック量に対して0.004%です。本試算の分母には一般廃棄物を含んでいないため、不法投棄の比率はさらに低くなります。
 繰り返しになりますが、河川や海岸の清掃・ごみ拾いはとても尊い活動であり、すべての実施者に敬意を表します。ただし、目的と手段を混同してはならないと思います。海洋プラスチック削減に効果的な対策は国際交渉や海外への廃棄物処理技術支援であって、日本国内にはほとんど見当たらないのが現状です。最も効果のある対策から一刻も早く取り組まなければ、海は汚染される一方だと思います。

注1)
https://ieei.or.jp/2021/06/expl210629/
注2)
http://www.jean.jp/OceanPlasticsCharter_JEANver.ProvisionalFull-textTranslation.pdf
注3)
http://www.env.go.jp/press/files/jp/111747.pdf
注4)
https://read.oecd-ilibrary.org/environment/environment-at-a-glance-2015/municipal-waste_9789264235199-14-en#page1
注5)
https://www.nikkakyo.org/system/files/Summary_JaIME%20LCA%20report.pdf
注6)
http://pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf
注7)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/02/2020e6e1a4099e98.html
注8)
https://www.env.go.jp/press/107565.html
注9)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/pdf.html
注10)
https://www.env.go.jp/press/109265/%E3%80%90827KB%E3%80%91.pdf