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レジ袋有料化はグリーンウォッシュ


TANAKAホールディングス株式会社CSR推進部マネージャー


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 2020年7月1日にレジ袋が有料化されて間もなく一年が経とうとしています。昨今、レジ袋をはじめプラスチックストロー、ペットボトルなどプラスチック製品の削減が叫ばれていますが、その主たる目的は「海洋プラスチック問題」とされています。たとえば、プラスチック資源循環戦略(令和元年5月)の「1.はじめに―背景・ねらい―」には以下の記述があります。

本戦略の展開を通じて、国内でプラスチックを巡る資源・環境両面の課題を解決するとともに、日本モデルとして我が国の技術・イノベーション、環境インフラを世界全体に広げ、地球規模の資源・廃棄物制約と海洋プラスチック問題解決に貢献し、資源循環関連産業の発展を通じた経済成長・雇用創出など、新たな成長の源泉としていきます。

 また、プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン(令和元年12月)の「1.プラスチック製買物袋有料化制度の背景・概要」にはこう書かれています。

プラスチックは短期間で経済社会に浸透し、我々の生活に利便性と恩恵をもたらしてきた。一方で、資源・廃棄物制約や海洋ごみ問題、地球温暖化といった、生活環境や国民経済を脅かす地球規模の課題が一層深刻さを増しており、これらに対応しながらプラスチック資源をより有効に活用する必要が高まっている。

 一般向けのレジ袋有料化パンフレットでは以下の通りです。

Q.1 なぜ、プラスチック製買い物袋を有料化するのか?
A  海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの解決に向けた第一歩として~(中略)~消費者のライフスタイルの変革を促すことが目的です。

 いずれの文書にも、プラスチック削減の目的の一つが海洋プラスチックや海洋ごみ問題の解決であると明記されていますが、これは目的と手段が一致していません。

 筆者のような一般市民でも少し想像力を働かせれば分かりますが、もしもレジ袋やプラスチックストロー、ペットボトル等の「使用量」削減が海洋プラスチックの削減に寄与するのであれば、自治体のごみ回収から廃棄物処理ルートのどこかでプラスチックごみを海洋投棄していることが前提となります。もちろんそんな自治体は全国どこにもありません。極めて簡単な話で、海洋プラスチック削減のために必要な対策はプラスチックの「使用量」削減ではなく「海洋への排出量」の削減です。

 日本国内で海洋プラスチックの原因になるのはポイ捨てや不法投棄です。これらは計測できませんが、全廃棄物量のおそらくコンマ数%であり注1)、ほとんどの場合は国内の河川や海岸でとどまるため、そこから広い広い海洋を漂ってマイクロプラスチックになって魚が食べたり亀に刺さるプラスチックごみはほぼゼロと言えます。

 海洋プラスチック対策として最も有効なのはごみを大量に海洋投棄している国や組織が止めることです。日本国内で買い物客がエコバッグを持ったり飲食店が紙ストローに代えても海洋プラスチック削減には全く寄与しません。解決策は日本人のライフスタイル変革ではなく、海洋投棄を止めさせるための国際交渉と廃棄物処理システムなどの技術支援です。

 海を汚している上位国はこちら。

 環境省が毎年行っている海岸での漂着ごみの調査はこちら。

 漂着ごみの内訳では漁網・ロープ、ブイ、漁具などで過半を占め、ポリ袋(レジ袋)はごくわずかです。

 漂着ペットボトル(上記の種類別割合では飲料用ボトル+その他プラボトル類に相当)の製造国別割合はこちら。

 以上は、「環境省 中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環戦略小委員会(第3回)参考資料 1 プラスチックを取り巻く国内外の状況(2018年10月19日)」より抜粋しました。
 なお、ペットボトルの製造国別割合については、割合だけでなく絶対量も重要だと思います。バブルチャートのように円グラフの大きさを変えるだけでもより理解が進むと思うので、環境省の今後の工夫に期待したいところです。参考までに、筆者が手元で集計した表と棒グラフを掲載します。

 上の日本地図上の円グラフと比べてだいぶ印象が変わります。日本の海岸なので日本語のペットボトルが多いのは当然なのですが、西日本に行くほど中国語、韓国語のペットボトルが増えています。

 また、以下は青山繁晴参議院議員のブログ(2021年2月5日付)での指摘です。

▽海洋資源調査の経験から、海がプラスチックゴミで水も海底も魚もみな、深刻な被害を受けていることを実感してきました。
(中略)
▽しかし実際の海の現場では、ハングルや中国語の記載されたプラスチックゴミの破片を非常に多く目撃します。
 また日本海の島で、海岸線に打ちあげられるプラスチックをはじめとするゴミを拾う住民運動に参加してみると、その多くがやはりハングルや中国語のあるゴミです。
(中略)
 この現実をそのままにして、この法律で日本だけ努力しても、海は甦らない。
 国内法とはいえ、国際社会との連携なども盛り込む予定なのだから、中韓が日本海、東シナ海を傷つけている実態にも対峙する規定が必要です。

 続いて、同議員のyoutubeチャンネルでの発言です。
【ぼくらの国会・第107回】ニュースの尻尾「中国・韓国のプラスチックごみ海洋投棄問題」(2021年2月13日)

プラスチックごみによる海の汚染は本当に深刻。ただし日本の近海や対馬の海岸で見るのはハングルや中国語のプラスチックごみばかり。日本語のプラスチックごみはほとんど見ない。(5分00秒~6分30秒)
中国・韓国の漁船は海にごみを捨てている。日本の漁船は全くやらない。(7分50秒~8分15秒)

 さらに、2019年10月1日付AFP通信「海洋プラごみは中国の商船が発生源か 南大西洋の英領島 研究」によれば、

今回の研究では、このごみベルトの形成要因が、水路や陸上に廃棄された使い捨てプラスチック製品よりも、商船団が船外に投棄したトン単位のごみであることを示す証拠が得られた。
大西洋では、アジアの漁船の数は1990年代から大きく変化していないが、アジア、特に中国の貨物船の数は非常に増加しているため、ペットボトルは港で商船から廃棄されたものではなく、船外に投棄されたものだと研究チームは結論付けた。

と指摘されています。
 いずれも、環境省が実施した海岸漂着ごみ調査の結果を裏付けるような内容です。

 逆に、他国の海岸で日本製のペットボトル等が発見された事例を筆者は寡聞にして存じません。日本の海岸で見つかる日本製のペットボトルは国内の河川または海岸(つまり陸域)におけるポイ捨て等が原因ですので、海洋に出ていくプラスチックごみはほとんどないものと思われます。また日本の商船や漁船が大量のごみを遠洋に運んで投棄している事実も確認されていないことから、日本のプラスチックごみが他国に流れ着く可能性は限りなくゼロだと言えます。従って、いくら日本国内でレジ袋やペットボトルの使用量を削減しても海洋プラスチック削減への効果はほとんど期待できないのが実情です。
 なお、近年で最も日本のごみが海に流出したのは東日本大震災による津波です。「東日本大震災により流出した災害廃棄物の総量推計結果の公表について(お知らせ)(平成24年3月9日付環境省報道発表)」によれば、岩手県、宮城県、福島県から流出した廃棄物の総量は約500万トンと推計されています。8割が倒壊した家屋等であり、その他は自動車、海岸防災林から生じた流木、漁船を含む船舶等となっています。また、全体の7割程度が日本沿岸付近の海底に堆積し、残りの3割程度が漂流ごみになったと推計されています。
 6年後の2017年9月29日付BBCニュース「米海岸に日本から大量の生物漂着 東日本大震災の津波で流され」では、地震の翌年から生物が付着した津波漂着物がハワイや米西岸各地で発見されており、要因として木材などよりも耐久性のあるプラスチックやガラス繊維の存在を指摘しています。従って、日本国内におけるプラスチック製品の使用量削減は、日常的な海洋プラスチック対策にはならないものの、大津波による海洋流出への備えとしては効果があると言えるのかもしれません。ただし、そのためにプラスチックの利便性を手放すことができるかは別の議論が必要です。

 さて、企業のCSR部門や広報・広告部門の担当者、大学の環境学部の学生などは「実効性が伴わない環境広報やイメージ戦略はグリーンウォッシュになるので行ってはならない」と教育されています。本稿の冒頭で示した通り、環境省はじめ国が発行している各種の資料で「プラスチック削減の目的は海洋プラスチックごみ対策」となっていますが、これまで述べてきた通りレジ袋をはじめプラスチックの使用量削減は海洋プラスチック対策にはなりません。小泉進次郎環境大臣がたびたび発言されていますが、「レジ袋の有料義務化の目的はプラスチックゴミの減量ではなく、プラスチックへの問題意識を持ってもらうことが狙い(参議院 第203回国会 経済産業委員会 レジ袋有料化及び無料配布禁止を義務付ける省令の中止又は一時中止を求めることに関する請願)」などという施策は企業人の感覚で言えば古典的なグリーンウォッシュと筆者は考えます。企業の環境・CSR教育のテキストに事例として載せたいくらいです。

 プラスチックだけをやり玉にあげるのではなく、紙や缶や食品など廃棄物全体のリデュースを訴えるのであれば筆者も大賛成です。その場合の目的は海洋プラスチック削減ではなく、廃棄物処理全体の効率化と最終処分場逼迫の解消であり、ひいては循環型社会の実現につながります。海洋プラスチック問題の解決策は日本人のライフスタイル変革ではなく、国際交渉と技術支援です。

 こうしている間にも、海の汚染は進んでいます。

注1)
ポイ捨てや不法投棄量を推計するのは難しいが、環境省が把握しているデータはある。「産業廃棄物の不法投棄等の状況(平成30年度)について(令和元年12月24日付環境省報道発表)」より2018年度の新規不法投棄量は15.7万トン(内プラスチック量は315トン)、「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(令和3年6月8日付環境省報道発表)」より同年度の全産業廃棄物量は379百万トン、「産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度実績)について(令和3年3月26日付環境省報道発表)」より同年度の廃プラスチック量は706.4万トンである。従って、2018年度の全産業廃棄物量に対する新規不法投棄量の比率は0.04%となる。また、新規不法投棄されたプラスチック量は同年度の新規不法投棄量全体に対して0.2%、同じく産業廃棄物における廃プラスチック量に対して0.004%である。本試算の分母には一般廃棄物を含んでいないため、不法投棄の比率はさらに低くなる。