独脱原発を助けるノルウェーの損失は?


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2021年6月10日付)

 

 2011年の原発事故後ドイツ政府が決定した脱原発政策に基づき、現在ドイツで稼働している6基、設備能力計810万kWの原発は来年末までに全て停止する。

 加えて、ドイツは脱石炭も決めている。ただ、他の欧州主要国と異なるのは、ドイツは国内の褐炭炭鉱が地域経済と雇用に与える影響に配慮し運転停止期限を2038年にしている点だ。炭鉱労働者の退職時期に合わせ石炭・褐炭火力発電設備の閉鎖を徐々に進めていき、来年末までには4350万kWの内1390万kWが運転を停止する。

 昨年ドイツの再エネ設備からの発電量シェアは50%を超えたが、安定的に発電可能な電源が減少し、不安定な再エネ電源のシェアが増すため近隣諸国との電力輸出入に依存する頻度が、さらに増えそうだ。そんな状況を改善するためドイツが頼ったのが、水力発電主体のノルウェーだ。水力発電は負荷追従が容易なので、変動再エネ電源との相性も良い。

 5月末最大能力140万kW、634kmの海底送電線が完成した。

 ノルウェーからの輸出だけでなくドイツからの輸出も増えそうだが、両市場が近づくと低廉で知られるノルウェーの電気料金が上昇する可能性も指摘されている。昨年後半のドイツの家庭用電気料金は欧州一高く1kWhあたり30.06ユーロセントになったが、ノルウェーの家庭用電気料金は半額以下のユーロ換算13.22セントだ。

 さて、ノルウェーの電気料金が上昇することになれば、何が起こるのだろうか。ノルウェーは世界一の電気自動車、EV大国だ。今年3月のプラグインハイブリッド車を含むEVの販売シェアは80%を超えている。背景にはEV車に対する手厚い優遇措置があるが、電気料金が低廉であることも影響している。ノルウェーはガソリン価格が世界で最も高い国の一つなので、走行時の燃料費を比較すると、EVの電気代は内燃機関自動車の数分の1程度だ。ドイツと電気料金が近づけば、EVのメリットの一つが失われることになる。ノルウェー国民は、この可能性に気が付いているのだろうか。