菅直人元首相が思い出すべきこと
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」からの転載:2021年3月11日付)
2月22日の衆議院予算委員会で質問に立った立憲民主党の菅直人元首相は、中国が昨年原発120基分の再エネ設備を導入した例に触れ、原発に頼らず再生可能エネルギーで日本の全電力供給が可能だとして、農林水産省が推進している営農型太陽光発電を持ち出した。元首相は日本の農地400万ヘクタールに太陽光パネルを設置し、その下で農業を行えば農家は農業と売電の両方の収入を得ることができると主張。全発電量は年間2兆kW時になり半分で日本の全必要発電量を賄えるとして、農水大臣の意向を質した。大臣はさまざまな課題があると簡単に答えただけだった。
中国で昨年導入された設備量は太陽光4800万kW、風力7200万kWとされている。発電量を考えれば原発120基分には遠く及ばないし、現在16基の原発が建設中だ。それには触れないで、日本では再エネで全て電力需要を賄えると主張するのは、かなり無理がある。
太陽光発電で日本の電力需要全てを賄うには送電網の整備に加え、日照が得られない時に備え大量の蓄電池を用意する必要があり、そのコスト負担を考えれば、電気料金は今の何倍にもなることは確実だ。さらに太陽光からの電力の買取価格、あるいは農水省などからの設備補助に対する国民負担はいくら必要になるだろうか。
営農型太陽光発電は、固定価格買い取りあるいは補助制度が前提にあり成り立つ事業だ。農水省が推進しているのも、農家を支援することが目的だからだろう。この制度で日本の全電力を賄う元首相の発想はどこから出てくるのだろうか。エネルギー・電力政策には、環境問題だけではなく、安定供給と価格も重要という現実を全く考えていないのだろうか。
菅元首相は、首相就任直後の2010年に発表した成長戦略の中でグリーン・イノベーションによる成長をうたい、再エネなどで20年に50兆円の経済効果と140万人の雇用を生みだすとしていた。その目標がなぜ全く実現しなかったのか省みるべきだろう。