環境大臣はエネルギー貧困を知っているのだろうか


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2021年5月21日付)

 

 静岡市にある私の勤務する大学では、昨年度はゼミと少人数の授業を除き全てオンラインだったが、今年度からは密対策を施した上での対面授業になった。4月下旬、大学の授業を終え市内の食品スーパーの前を通りかかったところ、入り口に椅子がぽつんと置かれ、歩くことも覚束ないお年のお婆さんが腰かけ、隣に店員さんが立っていた。パトカーが到着し、数人の警察官がお婆さんを取り囲み尋問を始めた。どうも何かの犯罪に関係しているようだった。

 食品スーパーの前で裕福とは思えないお婆さんを見ていると、欧州で言われるエネルギー貧困を思い出さざるを得なかった。冬場、食料か、暖房かの選択を迫られる家庭がイングランド地域では318万世帯ある。全世帯の13.4%に相当する。世帯収入に加え、家屋のエネルギー効率とエネルギー価格が、影響を与える要素だ。

 お婆さんの支払っている電気料金には再エネ賦課金が含まれている。今年度の金額は1kWh当たり3.36円になった。平均的な家庭では年間1万円を超える。お婆さんはあまり電気を使っていないだろうが、年間電気料金のうち数千円は賦課金だろう。食品購入に充てることが可能な金額になる。

 日本政府は2030年の温室効果ガスの排出目標を13年比46%減に引き上げた。テレビ番組に出演した小泉環境大臣は、「くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。シルエットが浮かんできたんです46という数字が」と答え、高層ビルの屋根に太陽光発電設備を軒並み設置すれば良いと発言したが、目標数字は浮かんできても、電気料金の支払いに困窮する国民の姿は浮かんで来なかったようだ。

 再エネ導入にどれだけの国民負担が必要になるのか。必要な負担額は、賦課金額だけではなく、送電線整備、バックアップ電源など多くある。平均給与が1997年のピークを越えることなく下がっている、2000万人の貧困層を抱える国で、さらにエネルギー価格を上げる政策が可能なのだろうか。