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ガソリン自動車等の販売規制の行方と日本の課題(第1回)


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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 昨年(2020年)、米カリフォルニア州や英国等で、ガソリンエンジンなど内燃機関(ICE)を用いた乗用車を2035年までに販売禁止にするとの発表が相次いだ。また昨年10月に菅新総理が所信表明演説で行った「2050年温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ」宣言を実現するための日本政府の取り組みがマスコミを賑わせている。
 本稿ではガソリン車などのICE車の削減に向けた世界の動きと、その実効性を検証し、日本の自動車産業に与える影響について考える。

要旨

 2020年に英国政府はICE車の販売規制を2035年に前倒しする方針を発表した。米国カリフォルニア州などでも同様の動きがあり、日本政府も2050年に電動車(xEV)100%の目標を2030年代半ばに前倒しする方針を昨年末に示している。しかし、これらの目標達成と規制方針実施に際しては課題も多い。温暖化対策の実効性を担保する電源の低炭素化、車両価格の引き下げや利便性の向上など電動車両の技術的課題解決、特に車両価格の大きな要素である電池のコストと材料の資源問題への対応、さらに消費者のxEV選択意識を高めるための、充電や水素充填ステーションの拡充などの普及支援、補助金、税制度などの需要喚起策の検討などがある。目標達成と規制の実行にはこれらの対策が必要である。
 一方で日本の自動車産業の国際競争力は未だ非常に高く、またxEVの開発生産においても世界のトップランナーであり、市場が整えば競争力のある製品の供給は可能である。ただしICE車の販売規制は、パワートレイン分野のサプライチェーンなどに影響が大きいことから、計画的な対応が必要である。また日本の自動車産業は経済や雇用面でも大きな位置を占めており、電動化が進む中で国際競争力を維持し、産業と雇用を守るための産業政策と企業戦略は重要である。
 日本のxEV100%目標の前倒しを実現するには、企業の製品開発はもとより、市場を誘導するための様々な政策的支援が不可欠である。また同時に日本の電源と水素製造の低炭素化は温暖化対策の実効性を高める上で必須である。

1.主要各国のICE車規制の動向

 世界のGHG排出量の約2割を占める自動車からの排出を削減するために、ガソリン車やディーゼル車など化石燃料を用いるICE車から、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないバッテリー電気自動車(BEV)や燃料電池自動車(FCEV)等のゼロエミッション車(ZEV)に転換する目標が、これまでも各国で議論されてきた(表1)。
 欧州の一部では中長期的にICE車両の販売を段階的に停止し、ZEVを100%にするという長期ビジョンがあった。BEVの普及率が高いノルウェーやスウェーデンなどいくつかの北欧の国では2025年から2030年頃に全ての新車をZEVにする目標を発表している。


(表1)主要国の電動車両の導入目標
※ZEVにプラグインハイブリッド車(PHEV)を電動走行距離等の条件付きで含む
出典:IEA Global EV Outlook 2020 を元にアップデートし筆者作成

 2017年には英仏が相次いで大気汚染と温暖化対策として、2040年からICE車の販売を規制または禁止する方針を発表した。
 フランスでは2040年までに化石燃料を燃やす車の販売を段階的に無くしていくことを目的とした法案が2019年末に下院(Assemblée Nationale)を通過している。
 英国は2018年のRoad to Zero Strategyの中では、走行時のCO2排出量が75g/km以下の超低排出車両は2040年以降も販売可能とされていたが、2020年2月に行われたCOP26の関連イベントで、ジョンソン首相が規制内容を変更し、販売禁止にハイブリッド車(HEV)も含め、2035年に5年あるいは可能な限り早期に前倒しすることを検討すると発表した。さらに11月にはICE車の販売禁止を2030年に前倒しするとした。2035年まで実質的にCO2を排出しない長距離走行可能なハイブリッド(PHEVを指すと思われる)の販売は許可されるが、それ以降ZEVのみが認められることとなった。今後、政府方針に対する意見公募が行われることになる。
 一方、自動車産業大国のドイツでは、2016年に連邦議会が2030年までにICE車の新車販売禁止を欧州指令とするよう欧州委員会に対し要求するよう決議したが、連邦運輸大臣により否決されている。政府の気候変動計画では2050年までに大部分のICE車の使用は無くなるとされているが、時期を含め禁止の方針は示されていない。その理由は、国内に多くのICE関係部品メーカーを抱えているためと言われている。
 また米国カリフォルニア州では、ZEV規制による段階的な移行を進めているが、2020年9月に州知事が行政命令として、2035年にカリフォルニア州で販売される全ての新しい乗用車と乗用トラックが、ZEVであることを要求するよう州政府の関連局に指示したと発表した。
 この州知事令では、カリフォルニア州大気資源局(CARB)は、2035年までに新しい乗用車と乗用トラックの販売がZEV100%となることを義務づける規制を策定する。また中型、大型車のすべての運用が可能な場合は、2045年に100%ZEVを義務付ける規制を策定するとなっている。現在、カリフォルニア州のZEV規制は他の11州が採択しており、今後、2035年ZEV100%の規制案がどのように広がるか注視されている。これまで米国では自動車の燃費(CO2)規制の権限を巡って、連邦政府とカリフォルニア州政府の方針の違いが際立っていたが、2021年のバイデン政権の誕生で連邦政府は規制強化の方向に変化するものと思われる。
 またカナダ政府は、2040年までに新車販売市場を100%ZEVに限定する目標を掲げているが、すでにZEV法を施行しているケベック州は2020年11月にガソリン車の新車販売を2035年に禁止する計画を発表している。他にブリティッシュコロンビア州も2019年にZEV法を成立させ2040年までにZEV100%の目標を設定している。
 中国は、CAFE(乗用車企業平均燃費)規制とNEV(新エネルギー車)規制による、CAFE・NEVクレジット同時管理実施法がNEV推進の枠組みである。NEVはBEV、PHEV、FCEVを指し、自動車製造あるいは輸入事業者は2019年のICE車の生産または輸入台数に対しNEVクレジット10%、2020年には12%を達成することが求められている。NEVクレジットはNEVの種類と性能に基づき計算され、仮に車重が1650kg、一充電走行距離450km、電力量消費率16.5kWh/100kmのBEVではクレジットは5となり、12%を達成する必要がある場合NEVクレジット5の車だけであれば、ICE車生産量の2.4%分のNEV生産を行えば達成になる。NEVのクレジットがマイナスの企業は他社からのクレジット購入によるマイナス分のクレジット補填が必要となる。尚、CAFEクレジットの場合は他社からの購入に加えて、自社の繰り越しとNEVクレジットによる補填も可能となっている。
 2020年、中国政府はNEV車の普及を加速するために、2021年のNEVクレジット14%から2023年まで毎年2%ずつ増やすとともに、NEVのベースクレジットを最大5から3.4に引き下げた。また同時にCAFE規制をクリアした低燃費車(HEVを含む)のNEVクレジット算出を優遇するなどの規制改正を行っている。2020年10月に中国汽車工程学会(日本の自動車技術会に相当)が示した、2035年に低燃費車とNEVがそれぞれ50%ずつを占めることが望ましい、とのロードマップの提案を受けて、政府は2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車(低燃費車とNEV)にする方向で検討すると発表している。
 日本は、2010年にまとめられた「次世代自動車戦略2010」で、乗用車の新車販売の次世代自動車(HEV、PHEV、BEVなどを含む)比率を2030年に50~70%、うちBEVとPHEVを20~30%とする政府目標を掲げていた。その後2018年の「自動車新時代戦略会議中間整理」では、2℃シナリオを前提とした環境性能水準を目指すとして 、2050 年までに乗用車のxEV比率は100%に達するとしている。
 しかし、2020年10月の菅新総理の所信表明演説で、新型コロナウィルス対策と経済の両立などとともに、今後の成長戦略の柱として経済と環境の好循環を掲げ、2050年までにGHGの排出を全体としてゼロにする脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した。その実現のための検討が各方面で始まっているが、政府は12月25日に乗用車のxEV普及目標を従来の2050年から前倒しして、2030年代半ばに100%とする方針を明らかにしている。

※「ガソリン自動車等の販売規制の行方と日本の課題(第2回)」につづく。