世界規模で揚水発電拡充の動き
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
これから世界で急増を続けることが確かな風力・太陽光発電の設置量だが、その発電量が天候に左右され、不規則な変動をすることが送電系統の制御に悪影響を与えるのを阻止するために、大規模な蓄電池を系統に設置するプロジェクトが相次いでいる。さらに、以前にこのコラムでも紹介したような、重量のある錘を上下させることで、発電、放電をする位置エネルギーを利用するシステムや、地下の空洞にポンプで高圧の空気を押し込んで電力を消費させ、放出するときに発電する方法も利用されようとしている。
だが最近、伝統的な需要変動抑制方法である揚水発電を拡充しようとする動きが出ている。国際水力発電協会(IHA: International Hydropower Association)が、米国のエネルギー省とタイアップして、11ヶ国の政府と60を越える団体を糾合して、クリーンで信頼性の高い蓄電システムである揚水発電を推進しようとしている。揚水発電に関する国際フォーラムを開催し、サスティナブルな揚水発電の拡充に向けて、技術革新と市場の変革への障壁を乗り越えるのに必要な政策提言と知識の交流を推進する“世界規模での水蓄電池”プロジェクトが構想された。
11月3日に立ち上げられたこのプロジェクトには、米国の他に、オーストリア、ブラジル、エストニア、ギリシャ、インド、インドネシア、イスラエル、モロッコ、ノルウエー、スイスが参画し、世界銀行などの国際金融機関、NPO、多くの電力事業者も加わっている。IHAのトップであるEddie Rich氏が述べているが、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の推計では、地球温暖化防止に向けた目標を達成するためには、2050年迄に揚水発電の規模をほぼ倍増しなければならない。具体的には、現在の160GWを30年かけて325GWに、となる。この倍増が可能かどうかについては、60万カ所に設置可能な拠点があり、それに既存のものの改修増強分を加えれば、それほど難しい事ではないとしている。
現時点で見て、揚水発電規模は世界の蓄電能力の94%に相当し、IHAの推計では、世界全体で少なくとも9,000 GWhの蓄電規模となる。IEA(国際エネルギー機関)が指摘しているように、揚水発電の柔軟性は見過ごされることが多かったが、変動性再エネの急増が送電系統に与える影響を抑制するためには、耐用年数が長く、長期的に見たコストが低い揚水発電への投資を今後増強する必要がある。IHAは、揚水発電を倍増するについての一番の課題は、それを推進する政策の欠如だとし、これから政府や関係機関を糾合した推進策を具体化する方針を具体化しようとしている。
これに触発されて日本の揚水発電について調べて見た注1)。日本の揚水発電は、2019年時点で約40 か所あり、合計26GWの設備容量だから、世界全体の約16.25%となる。1 回当たり5 時間発電するとして130GWh/回の蓄電容量、年間約40TWh/y の蓄電量(設備利用率17%)があるが、実績としての設備利用率は3%と低い(海外では10%程度)。さらには、大規模なものが多く、太陽・風力といった地域分散の発電には対応しにくいとされる。今後は、全国に約2,700 か所ある多目的ダムを利用した、中小揚水発電所の建設が今後の蓄電システムとして有効だと考えられるとのことだ。
また、設備コスト、発電コストを同じ条件で比較すると、双方とも揚水発電は蓄電池に対し約1.5 倍となる。運用面で、1日の揚水回数を増やし設備利用率を増すことや、上池の貯水量を増やすことなどでさらにコストダウンが可能だとしているが、上池の新設には地形の制約もあるから、貯水量を増やすのは簡単ではないだろう。これから検討される長期エネルギー基本計画の中で、揚水発電の利用・新設をどのように位置づけるかが一つの課題になるかもしれない。
- 注1)
- 日本における蓄電池システムとしての揚水発電のポテンシャルとコスト
(国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター)