気候変動抑制に向けたFuelCell Energy社の動向
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
米国コネチカット州ダンベリーにあるFuelCell Energy社は、1970年頃に600℃レベルの高温で作動する溶融炭酸塩電解質型燃料電池(MCFC)技術を開発・商品化し、現在数MW規模の発電設備を、米国だけでなく、ヨーロッパや韓国で稼働させている。燃料電池開発促進に力を入れてきた韓国については、製鉄事業を中核とするPoscoグループと提携し、技術移転も行っている。さらにMCFCでの経験を生かして、固体酸化物電解質形燃料電池(SOFC)も商品化し、コミュニティー向けの中規模発電設備として両タイプの燃料電池を供給している。日本ではムーンライト計画の一環として燃料電池の技術開発が進められたが、SOFCはkW規模のものとして商品化できたものの、MCFCについては実用化に至らなかった経緯がある。
MCFCは電解質に炭酸塩を使用していることから、燃料電池が水素で発電する過程で必要な酸素を供給する空気中に含まれる炭酸ガス(CO2)を電解質が吸収し、水蒸気と一緒に排出するプロセスになる。その結果、排出される水蒸気中のCO2濃度が非常に高くなるが、この濃縮されたCO2を何らかの方式で吸収固定すれば、いわゆるカーボン・キャプチャーを達成できる。これが出来れば、MCFCによる発電設備から出る排ガス中のCO2は大幅に減少するため、周辺の大気中のCO2濃度は落ちる方向に向かう。
このカーボン・キャプチャーができることに目を付けたのが、石油メジャーの一つであるExxonMobil(エクソン・モービル)社。2016年にFuelCell Energy社と協定書を締結していたのを2019年に2年間延長し、カーボン・キャプチャー技術の確立に向けた共同開発を続けている。天然ガス火力発電の排ガス中からCO2を抽出するところまで来ているようだ。
もう一つのタイプの燃料電池SOFCについても、9月17日、FuelCell Energy社が興味あるプレス発表をしている。どのタイプの燃料電池も、水素と空気中の酸素が電解質を介して結合して発電し、水ができる。この発表によれば、自社開発のSOFCで、発電だけでなく、同じユニットを逆方向(リバース)に作動させ、水を電気分解して水素を発生できるようにする技術を開発したが、その商品化に向けた開発にDOE(米国エネルギー省)が300万ドルの補助金を出すことが決まったというものだ。このリバーシブルなSOFCが商品化できれば、燃料電池発電設備とそれと一体化した水素貯蔵設備があれば、再エネからの電力で水を電気分解して水素を製造・貯蔵し、系統の電力が不足するときにはその水素を使って発電するということが可能になる。燃料電池による蓄電が可能になるということだ。
いま福島県浪江町では、2万キロワットという大規模な太陽光発電の電力で水を電気分解し、大量の水素を製造する実証試験がNEDOプロジェクトとして進行している。同様のプロジェクトが世界で進行中だが、その全てについて、水を電気分解する設備が欠かせない。もしFuelCell EnergyのリバーシブルSOFCが実用化されれば、水を電気分解する設備が不要となり、この発電設備さえあれば、不規則な出力変動をする再エネが送配電系統を不安定化させるのを抑制できることになる。また、燃料電池自動車などへの水素供給も可能だろう。さらには、燃料電池が発電する直流を、電気自動車への充電設備にも応用できる。
FuelCell Energy社の燃料電池が気候変動対応に貢献する可能性について述べたが、これが遠からず実現するのを期待している。