バイデン・サンダース協同タスクフォースの政策提言(その1)
	有馬 純
	国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
5月21日付の「左傾化するバイデン候補のエネルギー環境政策」という記事注1) の中で、バイデン候補が最後まで大統領選候補の座を争ったサンダース上院議員との間で協同タスクフォース(Biden Sanders Unity Task Force)を設置したことを報告した。タスクフォースでは経済、教育、医療保険、刑事司法、移民、気候変動の6つの分野についてバイデン派、サンダース派双方が参加する形で政策提言を議論してきた。気候変動分野のタスクフォースメンバーは以下の通りである。
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 - ジョン・ケリー上院議員(オバマ政権2期目の国務長官、共同議長)【バイデン派】
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 - アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員(NY州、共同議長)【サンダース派】
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 - キャシー・カスター下院議員(フロリダ州、気候危機特別委員長)【バイデン派】
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 - ケリー・ダッガン(バイデン副大統領の政策スタッフ、環境専門)【バイデン派】
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 - キャサリン・フラワーズ(地域産業・環境正義センターの創設者)【サンダース派】
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 - コナー・ラム下院議員(ペンシルベニア州)【バイデン派】
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 - ジーナ・マッカーシー(オバマ政権2期目のEPA長官)【バイデン派】
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 - ドナルド・マキーチュン下院議員(バージニア州)【バイデン派】
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 - バルシニ・プラカーシュ(サンライズ運動の代表)【サンダース派】
 
サンダース派は少数派であるが、左派色の強いグリーン・ニューディール決議案を唱道したオカシオ・コルテスやサンライズ運動の創始者であるプラカーシュが参加していることが注目される。
そのタスクフォースの政策提言が7月9日に発表された注2) 。全体で100ページを超える提言の中で気候変動関連は13ページを占め、遅くとも2050年にはネットゼロエミッションを目指すべきとの専門家の見方に賛成するとした上で、以下の基本姿勢を掲げた。
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 - 気候変動は緊急事態
 - ②
 - 科学の示す真実を重視
 - ③
 - 階級、年齢、人種等にかかわらず、全ての人に平等な権利と保護を
 - ④
 - 気候危機は生活条件を改善する機会
 - ⑤
 - 黒人、移民、低所得層にクリーンで安全な環境、基礎インフラへの公正で衡平なアクセスを
 - ⑥
 - 利益よりも労働者を優先
 
これを受けて、以下の章立てで政策提言が並べられる(政策提言は主要なもののみ列挙)。
雇用/労働力
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 - クリーンエネルギー社会構築に当たっての労働基準の強化、組合労働の推進
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 - クリーンで多様的で包含的な労働力を重視(EPAの環境労働訓練の強化等)
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 - クリーンインフラに米国製の鉄鋼、アルミ等を使用 等
 
エネルギーコミュニティ
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 - エネルギー転換におけるコミュニティベースの解決を支援
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 - 石炭・発電コミュニティに関するタスクフォースを設立 等
 
環境正義(Environmental Justice)
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 - 汚染企業の責任を明確化(情報秘匿、歪曲等)
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 - 環境正義基金を設立 等
 
環境正義コミュニティの資本アクセス確保
クリーンで安全で手頃な値段の水を全ての人に
電力部門
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 - 技術中立的なクリーンエネルギー基準、省エネにより2035年までに発電所のCO2排出をゼロに
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 - 5億の国産ソーラーパネル、6万の国産陸上・洋上風力を設置
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 - バッテリー、クリーンエネルギー送電線のムーンショット 等
 
エネルギー効率、家庭部門
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 - 2030年までに新築建築物をネットゼロエミッションに
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 - 400万の建物を改修
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 - 200万の家屋を改修
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 - エネルギー貧困の撲滅 等
 
運輸部門
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 - 乗用車・トラックの環境基準強化
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 - 50万台のスクールバスを5年以内にゼロエミッション車に
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 - ゼロエミッション乗用車の導入加速(老朽・低燃費車からの乗り換えに補助金)
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 - 電気自動車製造に対する補助金
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 - 高速鉄道網への投資
 
製造業とR&D
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 - アメリカ製資材を用いたクリーンエネルギーインフラ
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 - 低炭素製造業戦略
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 - ネットネガティブエミッションに向けたムーンショット。クリーンエネルギー大臣会合、ミッションイノベーション等を通じて中国、EU、イスラエル、スウェーデン、カナダ、英国その他と連携
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 - R&D投資の拡大(CCS、先進原子力、炭素中立セメント製造、高効率自動車等)
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 - ARPA-C(Advanced Research Projects Agency focused on Climate)の設立 等
 
先住民居住地でのクリーンエネルギーインフラ、クリーンな水の供給
化石燃料
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 - 石油ガスに関する環境規制の復活・見直し
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 - 連邦の認可や連邦資金を使う国内・国際プロジェクトについて気候変動への影響に関するテストを導入
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 - 海外の石炭関連融資を終了
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 - 化石燃料補助金を廃止
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 - 規制・支援を通じたメタン排出の削減
 
農業、土地におけるCO2固定化
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 - 米国の農業を世界初のネットゼロエミッションに
 
適応とレジリエンス
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 - 国家レジリエンス計画を設定
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 - 強靱なインフラの整備 等
 
公有地、湖沼、海洋の保護
国際面
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 - パリ協定に再加入
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 - より野心的な2030年NDCを発表
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 - 気候外交をプライオリティに
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 - GCFに出資
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 - ミッションイノベーションに再コミット
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 - 米国のクリーンエネルギー輸出、クリーンエネルギー投資を推進するためのイニシアチブを創設
 
政府組織の再編
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 - CEQ(Council on Environmental Quality)をCCA(Council on Climate Action)に強化拡充
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 - ホワイトハウスにOffice of Climate Mobilization を新設
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 - 司法省にOffice of Environmental Justiceを新設
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 - 最初の100日以内にEnvironmental Justice Summitを開催 等
 
これらのタスクフォース提言は大統領選におけるバイデン候補及び民主党のプラットフォームに反映されることになる。バイデン候補は7月14日には運輸、電力、建物部門におけるクリーンエネルギー推進のため、4年間に2兆ドルを支出するとの方針を発表した注3) 。
その2では今回の提言を読んで感じた点をいくつか述べてみたい。
  











