エネ産業 明るい未来へ貢献を
書評:安宅 和人 著『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2020年2月21日付)
エネルギー・気候変動対策の世界でも最近、シナリオ・プランニングの手法が積極的に取り入れられている。多くの企業が「起こりうる未来」を複数描き、未来の社会でも必要とされる存在であるための検討を重ねている。もちろん一寸先は闇。シナリオは不確実性を前提としたものであるが、相場観を共有して議論しなければ、変数の多いこの時代を乗り越えることはできない。手探りしながらでも多くの企業がこうした取り組みを始めている中で、わが国は未来をどう描くのか。本書は書籍としてのカテゴリーに悩むほど広範な領域における課題を取り上げ、日本が良い未来を手にするにはどうしたらよいかを提案する、いわば「日本のシナリオ」だ。
日本社会の課題を指摘する論は多いが、重要なのは課題を認識してその後どうするかだ。急速な人口減少は確かに社会のあり方を変えるが、人口減少の是非を論じても仕方ない。そこに生きる国民の幸福度や生産性確保に向けた打ち手が今求められているのだ。2017年に3人の方との共著で上梓した「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」でも、冒頭で50年の良い未来と悪い未来の両方を描いたが、我々は今、良い未来をのこす可能性も十分に持っている。
本書はデータとAIによって創出された非連続な変化を描き、日本が生き残るために必要な打ち手を提示する。多くの頁が人づくりに割かれており、日本の持つ唯一の資源とも言われた人材が危機に瀕していることが感じられる。
様々な施策について筆者は、「ここは明るくやり直すべきときだ」と言う。筆者の朗らかな語り口が浮かぶ一言で、思わずうなずいてしまう。軽く聞こえるかもしれないが「状況が変わったんだから仕方ないよね」と議論を始めてみれば、案外解決策は出てくるのではないか。どこに正解があるかはわからないが、本書のような日本のシナリオが複数出てきて、未来を変えようとする動きが活発になることがまず必要だ。
最後に読み方のコツを。各ページの下部に書かれている脚注には、様々な補足情報だけでなく筆者のつぶやきのようなものも含まれ、本文と併せて読むとさらに深く味わうことができる。ぜひ余すところなく読み、味わい、筆者の投げかけに対する自分なりのアクションを取っていただきたい。日本のより良い未来にエネルギー産業がすべき貢献は大きいはずだ。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『シン・ニホンAI×データ時代における日本の再生と人材育成』
著:安宅 和人(出版社:NewsPicksパブリッシング)
ISBN-13: 978-4910063041