災害復旧に貢献するセメント産業


一般社団法人 セメント協会 生産・環境部門リーダー

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 昨今、地震災害をはじめとした自然災害が全国で多発し、激甚化の傾向にあるように思われる。被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げるとともに、被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げる。
 災害は起こらないことが望ましいが、発災時には災害廃棄物の処理を含めて迅速な復旧・復興が求められる。セメント産業は、2011年に発生した東日本大震災において、東北地方の工場を中心に約110万トンの震災廃棄物を受入れ、セメントの製造に活用し、災害廃棄物の処理のみならず復旧復興に向けた資材の供給も行うという両面で貢献した。そのことが高く評価され、2015年に環境省が設置した災害廃棄物ネットワーク(D-waste Net)には設置当初から参画し、災害が発生する度に行政からの要請に対応してきた。主なものでは、2016年に発生した熊本地震において、全体の約1割に相当する約21万5千トンを全国の工場で受入れて、セメントの製造に活用し、また直近では昨年の台風19号においても発生した災害廃棄物をセメントの製造用熱エネルギー源として受け入れている。
 また、激甚災害に指定されていない災害で発生した廃棄物についても、発生自治体等から関連省庁を通して依頼が来ることがあり、適宜対応している。


図-1 熊本地震での受け入れの一例

図-1 熊本地震での受け入れの一例
※セメント協会HPの資料より抜粋

図-2 台風19号で発生した災害廃棄物の一例(左は廃畳の仮置き場)
図-2 台風19号で発生した災害廃棄物の一例(土砂交じりの廃棄物の仮置き場)

図-2 台風19号で発生した災害廃棄物の一例
(左は廃畳の仮置き場、右は土砂交じりの廃棄物の仮置き場)
*住友大阪セメント(株)のPress Releaseより

 セメント産業における災害廃棄物の処理は、1980年頃から始まったセメント工場における廃棄物処理技術の流用である。よって、災害廃棄物の処理については、2011年が最初ではなく、もっと古い時期から受け入れており、2000年以降で協会が把握しているだけも以下のものがある。


表-1 セメント産業における災害廃棄物受入れ状況(協会で実績を把握しているもの)

表-1 セメント産業における災害廃棄物受入れ状況(協会で実績を把握しているもの)
※セメント協会HPの資料より抜粋

 また、平時からの備えとして、会員会社である太平洋セメントや住友大阪セメントにおいては、工場が設置してある市や県と、今後の大規模災害を想定して発生する災害廃棄物の処理を連携して対応することについての協定を結んでおり、今後はこのような取組みが各所で進んでいくものと思われる。

 セメント産業では、前述の通り多くの産業廃棄物・副産物をセメントの製造に活用してきた歴史がある。1980年頃からセメント会社の技術開発により受け入れを始め、現在では1トンのセメントを製造するのに471キログラムの廃棄物・副産物を活用している(図-3及び表-2参照)。


図-3 セメント産業で受け入れている主な廃棄物(数字は2018年度実績)

図-3 セメント産業で受け入れている主な廃棄物(数字は2018年度実績)
※セメント協会HPの資料より


表-2 セメント業界における廃棄物・副産物の使用量推移

表-2 セメント業界における廃棄物・副産物の使用量推移
※セメント協会HPの資料より

 なぜ、これ程の多種多様な廃棄物を受け入れることが出来るかというと、セメントは、表-3に示すような原料を必要とするが、天然の粘土と各種廃棄物については、表-4に示すように構成比率は異なるが似たような成分で構成されているため、主に天然原料の代替としての使用が可能となっている。


表-3 セメント1tをつくるのに必要な原料原単位(2018年度)

表-3 セメント1tをつくるのに必要な原料原単位(2018年度)


表-4 天然粘土と廃棄物の成分の比較

表-4 天然粘土と廃棄物の成分の比較
※セメント協会HPの資料より

 そのため、近年ではセメントの原料であるけい石や粘土については、廃棄物による代替が進んでおり、天然粘土についてはほとんど使用しなくなってきている(図-4参照)。


図-4天然原料の使用原単位推移

図-4天然原料の使用原単位推移
※セメント協会HPに掲載されている「セメント産業のLCIデータ」より作成

 これらの取り組みにより、結果として全国で発生している廃棄物の約13%をセメント工場で受け入れていることになる。このことは、最終処分場の延命にも寄与していると言える。
 最終処分場の新規許可件数は、環境白書によれば大きな伸びは示しておらず、仮にセメント産業が受入れを止めた場合、2016年時点において17.0年の最終処分場残余年数が、5.5年になるとの試算が示されている(図-5参照)。


図-5 最終処分場の延命化(試算)

図-5 最終処分場の延命化(試算)
出所:令和元年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 p.187

 また、セメント焼成工程における回転窯(キルン)では約1450℃という高温でセメントの中間製品であるクリンカを焼成している。そのため、ダイオキシン類などの有害物質の発生も抑えることができ、可燃性の廃棄物を燃焼させた後に生じる灰は、キルンの中でクリンカの成分として取り込まれる。セメント工場では二次廃棄物が発生することがないことから、究極のゼロエミッション工場となっている。

 このように、セメント工場での廃棄物・副産物の活用は、熱エネルギーの代替としての利用と共に、原料の代替とすることにより天然原料の削減にも繋がるといった2つの利点あり、これは他産業にはない強みである。しかしながら、これら廃棄物・副産物をセメント工場で受け入れる場合は、工場での前処理や水分の蒸発に使用するためのエネルギーが別途必要になり、結果的には増エネとなることが多い。
 また、どのような廃棄物でも受入れが可能というわけでなく、塩素や水銀等の重金属などを含むものは、セメント工場では受入れについて厳しく制限している。

 一方CO2排出については、セメント産業は、熱エネルギー由来と共にプロセスからも発生するという特徴を有している。プロセス由来とは石灰石の脱炭酸からのCO2の排出となっているが、廃棄物には表-4からも分かるように脱炭酸が完了しているCaOが含まれており、これらを活用することは石灰石の使用削減につながる。それは結果として石灰石からの脱炭酸によるCO2排出の削減にもつながる。
 当方の試算によれば、2018年度は、石灰石からの脱炭酸分によるCO2約82万トンが削減できたと試算している。
 この計算手法は、UNFCCCに国別報告書にも適用されており、非エネルギー由来として計上されているセメント製造業からの非エネのCO2排出については、この分を考慮した計算で計上・報告されている。

 最後に、当協会においては、2019年に「セメント業界の事業継続計画(BCP)」を策定し、1. 災害対応初動と、2. 平時の活動と2つ分けて記載している。今後はこのBCPに沿って関係省庁を含めたステークホルダーと連携しながら、対応してゆく所存である。
 災害は起こらないことが望ましいが、人の力で止めることは出来ない。しかしながら、備えることは可能であり、これからも引き続き取り組んでゆきたいと考えている。