独エーオンに見る電力事業の難しさ


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2019年10月11日付)

 ドイツ最大のエネルギー企業「エーオン」が化石燃料、原子力、火力、水力、電力取引部門を「ユニバー」として分離し上場したのは3年前だった。エーオンには送配電、小売り、再生可能エネルギ一部門が残った。当時、再エネの将来性を見据えたエーオンが既存の発電部門を見限ったとの報道もあったが、分割の狙いは企業価値の向上にあったのだろう。

 電力市場が自由化され、さらに変動費がほとんど不要な再エネ電源の増加が卸価格を下落させたため当時エーオンの採算は悪化。株価は2008年のピークから4分の1にまで下落していた。この状況を改善するための方策が企業分割だった。その結果、皮肉なことに分離されたユニパーの株価は大きく上昇したものの、再エネを成長の柱に据えたエーオンの株価、企業価値はほとんど上昇しなかった。

 16年9月の上場初日、10.30ユーロで取引が始まったユニバーの株価は、今は約30ユーロと3倍近くになっている。一方、分離直後には6ユーロ割れ寸前まで下落したエーオンの株価は今年8月には約8ユーロだったが、9月下旬には9ユーロまで上昇した。しかし、08年に株価が40ユーロを超えていたことを考えると低迷は続いている。

 この1カ月でエーオンの株価が上昇したのは、「RWE」と合意していた400億ユーロを超える資産交換が欧州委員会により9月中旬に認められたためだろう。簡単に言うと、エーオンの再エネ資産とRWEの小売り事業を交換する合意だ。この結果、エーオンは送配電と小売りが主体の企業になるが、市場は評価しているようだ。

 安全保障、温暖化問題、政策変更、燃料価格など不確定な要素が多い電力事業においては、多様な資産を保有しリスクを分散する企業の価値が維持される可能性が高いように思う。企業をある部門に特化させた場合には、リスクに対する許容度が小さくなり、企業価値の変動幅が大きくなる。リスクとリターンの考えからは当たり前だが、経営者がどちらの道を取るのか、電力業界での意思決定の難しさをエーオンの企業分割が示したといえる。