ニュートリノ発電
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
太陽光発電は英文の略称でPVが通常使われるが、これは、Photovoltaicの略。Pは光粒子であるフォトン(Photon)で、目に見える太陽光だけでなく、目に見えない赤外線、紫外線も含めた太陽光を構成する電磁波のことだ。この太陽光が照射されると発電する半導体があり、それを平面上に高密度で集めたものが太陽電池パネルだ。ただ、この光粒子は太陽から送られてくるために、太陽が沈んだ夜には発電しないし、雲がかかって太陽光が弱くなると光粒子の量も減るために、発電量も落ちることになる。また、発電半導体は温度が高いときに発電量が増える特性があるため、北半球の冬の発電量は夏のそれに比べると低下する。また、太陽光発電パネルが太陽に正対している時に発電量が最大となるために、太陽を追尾する装置を使えば最大発電量を確保できるが、実用的にこれが可能となるケースは殆どない。再生可能エネルギーとして重視される太陽光発電の弱点である出力変動の不規則性は避けられないのが現状だ。
だが、この8月に知ったことだが、素粒子であるニュートリノ(Neutrino)を利用して、この太陽光発電の弱点を克服する技術の開発が商品化の段階に近づいているらしい。このニュートリノは、太陽からだけでなく宇宙空間から地球に絶えず降り注いでいるため、24時間途絶えることがない。この素粒子の物理特性については不明なことが多く、世界的に研究が進められてきたが、長く確定出来なかった。しかし、日本の小柴昌俊博士がカミオカンデを使って初めてこれを観測できたことで2002年にノーベル物理学賞を受賞し、2015年には、ニュートリノ振動について日本の梶田隆章博士が、カナダのアーサー・B・ マクドナルド博士と共にノーベル物理学賞を得ている。
ニュートリノは身の回りを高速で飛び交っており、人間の身体を一秒間に数百兆も突き抜けるほどだが、他の物質とほとんど反応しないために、地球も突き抜けてしまう。僅かの質量を持つこの素粒子が突き抜けると、そのエネルギーで振動する六角格子構造の薄膜炭素(グラフェン)があり(右が模式図)、その振動で電気が発生する。この薄膜炭素とシリコンでできた素子を金属ベースに貼り付けると発電素子ができ、これを多数集積すると、利用可能な電力が得られる。太陽光発電の場合には、光粒子が発電素子にぶつかるとエネルギーを失うため、集積するには横に配列する方法しかなく、発電規模を大きくしようとするとそれに応じた面積が必要になる。だが、ニュートリノの場合には、ぶつかっても僅かにエネルギーを失うだけで突き抜けるため、ニュートリノの進む方向に沿って発電素子を集積しておけば、全ての素子で発電してくれる。太陽からの光粒子は一方向からしか来ないが、ニュートリノは太陽だけでなく宇宙空間の四方八方から飛来するため、この素子を立方体に集積させれば、全ての素子で発電することになり、太陽光発電のように面積を大きくする必要がない。また、地球の表面地殻も突き抜けるため、ニュートリノ発電素子の集積体を地下に設置することも出来る。
このニュートリノをエネルギー源とするNeutrinovoltaic発電システムを実用化しようと世界の技術者の知恵を集めているのがニュートリノ・エネルギーグループ(Neutrino Energy Group)だ。現在研究所レベルで実証試験をしようとしているのは、スマートフォン、パソコン、ペースメーカーといった小型の機器向け電源への利用。これまで使われて来た蓄電池のように充電する必要がなくなる。これが商品化されるに至れば、素子の集積数を増やすことによって発電容量を大きくすることができるから、設置場所と面積の制約を受けない24時間フラットな発電をする安定電源を開発することができる。
発電規模を大きくした電源の実現にどれほどの年数が必要か分からないが、特殊な素材も使われていないから、量産実現の可能性はあるだろう。将来の電力供給構造を大きく変えるものとなるかもしれない。商品化の時期が遠くないことを期待している。