乗用車の新たな燃費基準


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 2019年6月3日の乗用車燃費基準に関する経済産業省と国土交通省の合同審議会で、2030年度を目標とする燃費基準が定まり、今年度を目途に必要な法令改正が行われる予定と発表された。
 乗用車の燃費基準は省エネ法のトップランナー制度に基づき、2010年度から5年毎に引き上げられ、今回は2020年度で終了する基準の見直しに当たる。現行の基準はガソリン車、ディーゼル車、LPG車が対象で、企業別平均燃費(CAFE※1)を2020年度までに20.3km/L以上達成する必要があったが、低燃費車やハイブリッド車(HEV)の普及が予測以上に進み、すでに基準値を上回る状況にある。
 新たな燃費基準は2030年度を目標とするもので、平均燃費で25.4km/L※2と、2016年度実績に対して32.4%、2020年基準に対して44.3%の燃費改善となるものになった。

主なポイント

・目標年度
・燃費基準対象車の拡大
・燃費測定法の変更
・燃費の算定法の変更
・燃費基準値
・達成基準の判定法

目標年度

 目標年度は従来の5年毎から変えて10年後の2030年度となった。これは燃費改善に向けた開発期間やモデルチェンジのリードタイムを確保する観点から決められた。

燃費基準対象車

 対象車種は現行のガソリン車、ディーゼル車、LPG車に加えて、今後の普及を見込んで電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含めている。

燃費測定法の変更

 燃費の測定は国の定めた排出ガス・燃費試験法に基づくが、これまでの国内の走行を代表するJC08モードから、国連の国際基準調和により2016年に国内導入が始まったWLTP※3モードを用いることとなった。尚、同一車両での燃費測定値はJC08よりもWLTPの値がより小さく、厳しくなる傾向にある。

燃費(エネルギー消費効率)の算定法の変更

 ガソリンやディーゼル車などの内燃機関車の燃料消費率(燃費:km/L)と、発電所からの電気を蓄えて利用するBEVとPHEVの電力量消費率(電費:Wh/km)をともに評価するために、燃料採掘からタイヤ駆動迄を意味するWell to Wheel※4(WtW)の考え方が採用された。尚、WtWのうち上流側をWell to Tank (WtT)、タンク内燃料からタイヤ駆動迄はTank to Wheel(TtW)として、従来の燃費はTtWのエネルギー消費効率に当たる。
 本算定法ではWtWを国内分のみとして、内燃機関車は燃料精製効率からタイヤ駆動効率まで、BEVにおいては発電効率からタイヤ駆動効率までを測定し、ガソリン車のエネルギー消費効率※5に換算した値を評価に用いることになった。(図1)また、PHEVは燃費と電費及び一充電走行距離の複合式をもとに換算した値となる。尚、電力の発電効率に用いる電源構成は政府の「長期エネルギー需給見通し」に基づいている。


図1 Well to Wheelのイメージ(合同会議取りまとめ(案)資料より引用)

燃費基準値

 燃費基準値はトップランナー制度に則り、最新のトップランナー車(2016年度)の燃費に対して2030年度に予測される燃費向上技術の改善率と普及率を積み上げた改善度合いと、HEVやBEVなどの次世代車の普及予測を考慮して設定された。尚、これまでJC08では車両重量区分毎に段階的に定められていた燃費基準は、WLTPでは車両重量に応じたものとなる。(図2)


図2 燃費基準値(合同会議取りまとめ(案)資料を参考に筆者作成)
(注)JC08とWLTPの燃費換算は係数の幅が大きいためグラフはイメージレベル

達成基準の判定

 燃費基準の達成判定は引き続きCAFE方式が採用され、各社は車両重量に応じた燃費基準を出荷台数で加重平均した値に対して、実際の燃費値で同様に算出した値の大きさで達成か未達成かを判定する。目標年度に達成が出来ない場合は必要に応じて勧告、公表、命令の対象となり、命令に従わない場合は罰金が科せられる場合がある。

全体を通して

 現在、欧州(EU)や米国、中国など世界の主な地域で、温暖化対策やエネルギー安全保障、或いは産業政策などの理由から段階的に自動車の燃費基準が設定されてきている。EUは今年の春に、2030年までに新車からのCO2排出量を2021年目標に対しEU加盟国全体で平均37.5%の向上を目標とすると決定した。
 日本は、燃費基準とグリーン化税制などの政策をパッケージとして、メーカーの技術開発投資と消費者の意識変化を促したことで、低燃費車やHEVが広く普及し、燃費平均値が予測を上回り向上している。運輸部門では、それに加えてモーダルシフトやエコドライブなどの使用者の効率的な運用による交通量の削減や運行燃費の向上もあり、CO2排出量は2001年にピークアウトし減少している。
 今回の取りまとめは、これまでの実績を踏まえて、さらに高い燃費基準の達成を促すとともに、BEVとPHEVを基準に組み入れることで普及を促進しようとする狙いがある。達成に向けて、政府による政策的支援と啓発や電源構成比率の実現、メーカーの技術開発の推進など、政府と製造事業者の取り組みについての提言も付記されており、その確実な実行が大きなカギとなると思われる。

※1)
CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency)メーカー毎に出荷した対象車両の燃費値を出荷台数で加重調和平均したもの。
※2)
2016年度の販売実績に基づき、基準値を加重平均した値。
※3)
WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)。乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法。日本は2016年10月31日から導入。
※4)
Well to Wheel:一般的には燃料採掘から輸送~精製~輸送~給油所~燃料タンク~エンジン~トランスミッション~タイヤ駆動までの全てを指す。
※5)
現行の燃費基準との連続性を確保するために、ガソリン車のエネルギー消費効率が現行基準(TtW)と同じになるように、WtWのエネルギー消費効率を上流側(Well to Tank)の効率で割り、その値を新基準のエネルギー消費効率(km/L)とした。
<参考資料>
 
 
総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会自動車判断基準ワーキンググループ・交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費基準小委員会 合同会議 取りまとめ(乗用車燃費基準等)