火力発電の水素利用が本格化する?

2018年が水素社会への分水嶺に


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 今年の1月19日に三菱日立パワーシステム(MHPS)が出したプレスレリース「大型高効率ガスタービンで水素30%混焼試験に成功」を見て、今年は水素の大量利用が具体的に進む年となるのかもしれないという印象を持った。

 発表によると、このプロジェクトは水素燃焼用に新たに開発した燃焼器(バーナー)などにより、天然ガスに水素を混ぜた場合でも安定的に燃焼できることを確認したもので、水素30%混焼により従来の天然ガス火力発電と比べて発電時のCO2排出量を10%低減することが可能となるというものだ。NEDOが助成する「水素社会構築技術開発事業」の一環として行われたが、63%以上の発電効率を持つ天然ガス焚きJ形ガスタービンの予混合燃焼器により、70万kWの出力に相当するタービン入口温度1,600℃の条件で実施。水素混合割合30%で、NOx(窒素酸化物)排出量、燃焼振動等について運用可能な条件を満たしつつ、安定燃焼ができることを検証出来たという。

 この実証結果を実用化させるには、水素の大量輸送方式が開発されなければならないと思ったが、昨年6月20日の「駒場キャンパスDiary」で松本真由美氏が紹介しておられる、千代田化工建設が開発したトルエンに吸着させてシクロヘキサンを合成し、輸送先で触媒を使って水素を取り出す方式なども利用できるだろう。同社は、水素の分離速度を3倍に高め、水素の純度を99.8%から99.99に上げる膜を開発し、実用化を目指すことも発表している。また、日本とオーストラリアが共同で推進するプロジェクトとして、オーストラリアのビクトリア州に大量に賦存する褐炭からCO2フリーの水素を製造し、液化した状態で日本までタンカーで輸送する構想がある。2020年の東京オリンピック・パラリンピックで豪州産のCO2フリー水素を利用可能にするというものだ。

 だが、実用規模の火力発電所で水素が燃料として使われるのは少し先になると考えていた。ところが、この3月に入って、三菱日立パワーシステム(MHPS)が、オランダの天然ガス焚きGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)発電所を水素焚きに転換するプロジェクトの初期フィージビリティスタディー(FS:実現可能性調査)の結果、水素燃焼への転換が可能であることを確認したと発表したのには驚かされた。

 水素専焼への転換を計画しているのは、オランダのエネルギー企業であるヌオン社が運営する、2013年に商業運転を開始した出力132万kW級(3系列合計)のヌオン・マグナム発電所(グローニンゲン州)。このプロジェクトは、MHPSが納入したM701F形ガスタービンを中核とする発電設備3系列のうち1系列を、2023年までに100%水素専焼の発電所へと切り替えようとするものだ。水素は天然ガスの改質によって製造し、分解プロセスで発生するCO2は回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)設備を利用することで除去し、純水素を発電燃料とするカーボンフリーの発電システムとする計画である。この水素焚き転換プロジェクトには、ヌオンの親会社でスウェーデン国営の総合エネルギー会社であるバッテンフォール、ノルウェーの石油・ガス会社であるスタトイル、ならびにオランダのガス会社であるガスニーが参画し、ヌオンとバッテンフォールは水素発電所の運営、スタトイルは天然ガスからの水素製造、ガスニーは製造された水素の貯蔵・輸送、そして、MHPSは発電所の水素焚き転換に向けた技術検討を担当することになっている。

 このプロジェクトが実用化できたとしても、欧州ではCCSが社会的受容性も含めて定着は難しいとされているため、全水素発電所が、その後も建設されるかどうかは分からない。しかし、水素ガスタービンの技術を完成させることができれば、その応用分野はこれから大きくなると想定できる。2023年の稼働開始が順調に進めば、水素社会に向かう世界へ貢献する日本の技術として育つ可能性もあると考えられる。このプロジェクトが順調に進展することを期待したい。