実証開始! 大崎クールジェンプロジェクト
究極の高効率火力発電技術の開発めざす
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年11月号からの転載)
瀬戸内海の離島、大崎上島(広島県)を訪ね、Jパワー(電源開発)と中国電力が、経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として行っている「大崎クールジェン」プロジェクトを見てきました。2014年6月に続き、2度目の訪問です。
大崎クールジェンプロジェクト
このプロジェクトは、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)と二酸化炭素(CO2)の分離・回収技術を組み合わせた、革新的な低炭素石炭火力発電を実現することが目的です。
IGFCは、燃料電池、ガスタービン、蒸気タービンのトリプル複合発電を行う究極の高効率火力発電技術(図)です。世界ではまだ実現してなく、Jパワーと中国電力が共同出資する「大崎クールジェン」が実証試験を行っています。同社の木田淳志副社長に案内していただきました。
――プロジェクトの現状は?
「今年3月28日に、IGFCの基盤技術となる酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC、出力16万6000kW)の実証試験を開始しました。1300℃級ガスタービンで発電しながら、5000時間運転の長期耐久試験を行い、信頼性・運用性や経済性などIGCCの基本性能の確認を行う予定です。発電した電気は日本卸電力取引所(JEPX)に売電し、その利益はプロジェクト費用と助成金の圧縮に充てています」
IGCCは、炉内で粉末状の石炭を蒸し焼きにし、一酸化炭素や水素を主成分とする可燃性ガスを生成。そのガスを燃やしてガスタービンを回し発電するとともに、排熱などを回収して蒸気を発生させ、蒸気タービンでも発電します。
可燃性ガスを生成する際、炉内に酸素を吹き込みながら石炭を蒸し焼きにする「酸素吹」と、空気を吹き込む「空気吹」の2つの方式があります。「大崎クールジェン」では酸素吹を採用しています。
「酸素吹の石炭ガス化技術は1990年代に米国、オランダ、スペインで実証試験後、商用運転が行われましたが、連続運転時間は最長で約3000時間と短めで、設備信頼性の改善が必要です。酸素吹は、空気から酸素を製造する設備が必要になりますが、ガス化炉設備やガス精製設備が小さくてすむメリットがあります。また、酸素吹は発熱量が高いガスを得られるため、将来的に高温高圧のガスタービンを採用し、さらなる高効率化が期待できます」
空気吹IGCCの商用機としては、勿来発電所(福島県いわき市、約25万kW)が2013年4月から運転を開始しています。同県内では空気吹IGCC(54万kW)2基が20年9月と21年9月に運転を始める予定です。
実証は3段階で実施
実証試験は3段階で行われます。現在行われている第1段階(12~18年度)では、IGCCの実証試験を実施。第2段階(16~20年度)では、石炭ガス化炉で生成したガスから効率的にCO2を分離・回収する実証試験を行います。第3段階(18~21年度)では、IGCC、CO2分離・回収設備に燃料電池を組み合わせたIGFCの小型実証試験を行う計画となっています。再び木田副社長にうかがいました。
――IGCCのCO2分離・回収はどのように行うのですか?
「可燃性ガスでガスタービンを回す前の『燃焼前回収法』を採用します。処理するガスが高圧で、ガス量が少なく、CO2濃度を高くできることから、エネルギーロスが少なく、効率的にCO2を分離・回収できます」
――最終的な目標は?
「IGCCでは、商用化段階での発電コストを微粉炭火力と同等かそれ以下にすることが目標の1つです。最終的には、IGFCとCO2分離・回収を組み合わせた究極の高効率発電技術を実現したい。瀬戸内海の離島である大崎上島から日本の最先端のクリーンコール技術を発信するとともに、アジアを中心に世界にインフラを輸出し、地球環境に貢献したいと考えています」
石炭火力の評価を変えるか
石炭は天然ガスや石油に比べて埋蔵量が多く、可採年数は100年以上とされます。石油のように埋蔵エリアが政情不安定な中東に集中しているわけではなく、価格も比較的安定しています。一方で、石炭は他の化石燃料と比べて燃焼時のCO2排出量が多く、地球温暖化への影響が大きいとされます。そのため、欧州の大手金融機関を中心に近年、新規石炭火力発電所への融資停止の動きが出ています。しかし、新興国を中心に経済性のある石炭火力の導入は進むとみられ、世界のCO2排出量は増加する見通しです。
世界の総発電量の4割強は石炭火力で、日本でも約3割が石炭火力となっています。日本の石炭火力発電は現在、微粉炭を燃やして566℃以上の蒸気を発生させ、蒸気タービンのみで発電する超々臨界圧(USC)が主流です。しかし、USCでは発電効率の飛躍的な向上は難しいとされます。その点、IGCCは1500℃級ガスタービンで発電した場合、従来型のUSCと比べて、発電効率が約7ポイント向上し、CO2排出量を15%削減できます。IGFCになると、発電効率は同14ポイント以上向上し、CO2排出量も同約30%削減できます。
石炭ガス化発電は、低品位な石炭(亜瀝青炭や褐炭)を使用できることもメリットです。安価な低品位炭は可採埋蔵量の約半分を占めますが、水分量が多いため利用が進んでいません。それを有効活用できれば、経済的なメリットが出てきます。
日本のエネルギー自給率はわずか6%。エネルギー安全保障の観点から、石炭の活用は中長期的に必要です。石炭ガス化技術は、石炭火力のCO2排出削減のカギとなる技術で、CO2分離・回収設備を付設したIGFCが実現すれば、大幅なCO2排出削減が可能になります。大崎クールジェンプロジェクトに期待しています!