業務用規模の燃料電池


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 日本における燃料電池市場について、今年度は一つの大きな転換点になると考えられる。これまで、国産の燃料電池としては、出力700ワット~759ワット規模の家庭用燃料電池である「エネファーム」と、リン酸型100キロワットのものしか商品化されていなかった。だが、2017年度に入って、数社が業務用規模で、作動温度が高くて発電効率が高い固体酸化物電解質燃料電池(SOFC)の商品化を発表し、その発電規模も3キロワットから1,000キロワットと多方面の事業に利用できる品揃えになった。この商品化はまだ緒に就いたばかりではあるが、将来に向けて分散型電源の重要な位置を占めることが期待されている。この業務用規模のものについては、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援によってここ数年実証試験が続けられていたものだが、信頼性、効率などについて一定の目途がついたことから、商品化に踏み切ったものだ。

 エネファームには、作動温度が低い固体高分子電解質型(PEFC)と作動温度が高い固体酸化物電解質型(SOFC)(タイプS)がある。発電効率は40~50%と高く、排熱をフルに利用すると総合効率は80~90%になる。しかも、エンジンやタービンによる発電と異なり、NOXなどの大気汚染物質もほとんど出さない。このような特性を生かすために、政府も強力な支援策を準備し、2020年に140万台、2030年に530万台普及させる目標も示している。エネファームパートナーズの発表によれば、2017年5月末時点での累積販売台数は20万台になっているのだが、その総発電規模は15万キロワット程度にしかならない。日本の電力供給に貢献するレベルにはほど遠いものだ。

 だが、業務用規模の燃料電池が一般に広く受け入れられるようになれば、燃料電池の総発電規模は急上昇することになる。これは一種のコージェネレーション(熱電併給)だから、エンジン・タービンによるものと競合することになるが、政府が促進策を上手に設定して、両方がそれぞれの特徴を生かして市場に参入することが出来るようにすれば、新しく登場した業務用規模の燃料電池がエネルギー市場にもたらすメリットは非常に大きくなるだろう。今年度新設された補助金は、一定の制約条件の下に補助対象経費の3分の一となっている。

 エンジン、タービンによるコージェネレーションにも言えることだが、特に新しく登場する業務用燃料電池については、90%近いエネルギー総合効率の高さを確保するために、熱需要に対応した設備を設置することが重要となる。その場合、発電量が設置場所の電力需要を上回る場合も出るだろうが、その時には、その余剰分を若干でもユーザーに利益が生まれるような形で系統を通じて外部に売ることができる制度設計をすることができれば、利用者にもメリットのある発電設備として受け入れられるだろう。最近某新電力会社が、自社の電気を利用している建物にエネファーム・タイプSの新商品を設置した場合には、常時定格発電をさせて、取付先の電力需要を上回る余剰電力を買い取る方式を開始したが、それと同様な販促方式を規模の大きいものにも適用できれば、設置の促進策となるだろう。欧州で採用されているように、送配電事業者に固定価格買取制度のような買取義務を設定することも検討に値する。

 政府もいずれ設置規模目標を示すことになるだろうが、その実現に向けた適切な促進優遇策が準備されることを期待している。