福島第一原発訪問記(5)
原発構内を回る(2)/廃炉のロードマップとコスト
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
筆者らを乗せたバスはゆっくりと約1時間かけて構内を回った。線量のモニタリングは構内86か所で行われていて、車窓からでもその数値を見ることができる。また、バスに同乗して下さるスタッフの方が手元の線量計で図って、随時知らせて下さる。しかし線量計を見るまでもなく、毎日多くの視察者を案内し構内を巡っておられるスタッフの方たちは頭の中に線量マップが入っているようで、「ここで右に曲がるとちょっと高くなります」、「ここら辺が今回のルートで最も線量が高いところです」とアナウンスして下さる。線量を的確に把握すれば、被曝は一定程度避けることができるということがわかる。構内のダスト濃度が低下したため、作業員の方の全面マスク着用が必要とされるエリアも相当縮減していることは、訪問記3で触れた通りだが、普通の工事現場のような装備の作業員の方が構内を行き交うのを目にすると、震災直後からの年月を実感する。
多核種除去設備や林立するタンクの間を抜け、バスは海側に並ぶ原子炉に近づいていく。4号機は白いカバーをかぶっている。2号機は水素爆発を免れたため原子炉建屋の青い壁が残っており、「2」の数字が読める。その隣の1号機は鉄骨が露わになっており、瓦礫の山が垣間見える。バスを止め、一つ一つの号機を間近に見上げると、改めて事故の凄まじさが伝わってくる。
廃炉に関する中長期ロードマップ
福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた行程は、2011年12月に中長期のロードマップが描かれ、その後継続的に進捗管理およびリバイスがなされている。現在は、2015年6月に開催された「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」で改正された中長期ロードマップに則り、作業が進められている注1)。
廃炉が困難な作業であることは論を俟たない。しかし現在、各原子炉格納容器内にカメラを入れて、今後の取り出しの工法や方針の検討を始めつつある段階までは進んできている。こうした調査結果は報道ではいつでも「失敗」「成果不十分」という見出しと共に伝えられるが、一定程度の成果も得ており、トライ&エラーを繰り返し少しずつでも前進していくことが重要だ。調査結果などは東京電力のHP注2)などで動画も交えて紹介されているので、ぜひ一度ご覧になっていただきたい。
実はいま、福島はロボット技術の研究開発の一大拠点となっている。下記の動画は、筆者が国立研究開発法人の評価委員を務めている関係で、昨年6月に楢葉町の遠隔技術開発センターを訪問した際に見せていただいた調査ロボットである。福島には今こうした研究開発拠点が設置されているほか、全国の高等専門学校の学生の参加する「廃炉創造ロボコン」というロボットコンテストも開催されている注3)。
数十年後、「福島」の名が先端技術の代名詞になっているかもしれない。遠隔技術開発センターで日々実験を繰り返してロボット開発を進めている技術者の方とお話しした際に感じたことを、この日の現場でも思い出した。
- 注2)
- 東京電力ホールディングス株式会社「福島への責任」
http://www.tepco.co.jp/fukushima/index-j.html