福島第一原発訪問記(4)
原発構内を回る(1)/水との闘い
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
「汚染源を取り除く」対策の一つが、この多核種除去設備を含む浄化装置である。セシウムを吸着する米国KURION社製のキュリオンや東芝のSARRY注4) などが導入されたのに続いて、62核種を取り除く機能を持つALPSが稼働している。こうした浄化装置はどれも導入初期にはトラブルが多く、2013年には安倍首相からの強い指示により14年度中に浄化を完了することを目指していたものの、目標達成は延期せざるを得なかった。しかし改良や設備の増強を進め、高濃度汚染水については2015年5月までに全量の浄化が終了している。
しかしトリチウムについては水と分離することが難しい。トリチウムは、エネルギーが小さく、体内に取り込んでも10日程度で体外へ排出されるため注6) 危険性は非常に低いとされ。(セシウムなどに比べると、同じベクレル数でも危険性は数百分の1以下)、運転中の原子力発電所からも一定の濃度(1リットル当たり6万ベクレル未満)の排出量注7)であれば放出が許されているものではある。しかし、福島第一原子力の現場ではトリチウム以外は除去された水も「処理水」としてタンクに貯留している。これは、安全とは異なる安心の問題として、丁寧な対処が求められる。政府は「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」を組織して、その対策を協議しているが、地元の漁業関係者の方々などはトリチウムの特性などについては的確に把握されており、より気にされているのは安全性そのものというより風評被害であるというのが筆者の印象だ。こうした風評被害を最小限に抑える環境づくりがまずは必要で、トリチウム水タスクフォースを含めて政府からの情報発信が重要ではあるが、メディアの方々にも現場や実態を正確に伝えていただけけることを願う。
凍土壁
福島における水との闘いの象徴として有名なのは「凍土壁」であろう。Googleで「凍土壁」と入力すると、検索候補として「凍土壁 凍らない」「凍土壁 失敗」と出てくる。それほどに悪名高い(?)対策であるが、しかし、実は海側については2016年10月に完全凍結し、山側については約97%が凍結済み、残り3%は全て凍結させてしまうことで地下水と建屋内の水のバランスが崩れることがないよう規制委員会が慎重に判断することとしており、まだ凍結させていない箇所が残っているが、「凍らなくて失敗した」という状況ではない。課題や失敗は大きく報じられるものの、前進や成功は報道されないので現状が見えづらくなっているが、少しずつではあるが現場は着実に進展しているそうだ。
そもそも凍土壁の目的は、汚染水を漏らさないよう遮蔽することではなく、汚染水を増やさないために地下水の流入を減らすことにある。先ほど述べた3つの対策の②汚染源に水を「近づけない」にあたる。従前は約400㎥/日の地下水が建屋内に流入していたが、地下水バイパス、サブドレン、フェーシング等の対策を重層的に実施することにより現在は約120㎥/日程度にまでは減少している
もちろんそれでも、根本的な対処として十分であるとはいいがたい。汚染水を貯めるタンクは敷地一杯に広がっているが、流入する地下水の量を減らすという点では前進はしており、報道されているように全く「ダメ」という訳でもないのだ。今後、建屋周辺からの地下水くみ上げ(サブドレン)と併せて汚染水対策が進むことが期待されている。
なお、汚染水が生まれる仕組みや凍土壁の役割などについて、一般社団法人AFW代表理事であり、「福島第一原発廃炉図鑑(太田出版)」の著者の一人でもある吉川彰浩氏が詳しく解説されている注8)ので、ぜひ参照していただきたい。
- 注6)
- トリチウムの生物学的な半減期は10日程度とされる。
- 注7)
- 年間でBWRの場合は3.7兆ベクレル/基、PWRの場合は74兆ベクレル/基
- 注8)
- 「福島第一原発」凍土壁失敗は何を生む 誤解の先にある次世代への責任
https://news.yahoo.co.jp/byline/yoshikawaakihiro/20160819-00061292/
次回:「福島第一原発訪問記(5)」へ続く