クルマと環境技術が拓く未来

「とよたエコフルタウン」の魅力


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年4月号からの転載)

 愛知県豊田市の「とよたエコフルタウン」を見学する機会に恵まれました。この街では、次世代の環境技術が集約され、クルマと人が快適に共存できる魅力ある低炭素な街づくりが行われています。

映像などで最新技術を体感できる「とよたエコフルタウン」のパビリオン=愛知県豊田市

豊田市低炭素社会システム実証プロジェクト

 名古屋駅から燃料電池自動車(FCV)「MIRAI(ミライ)」に乗って約40分。エコフルタウンの入り口付近で降り、真っ先に目に飛び込んできたのは、大型の水素ステーションでした。トヨタ自動車の本社と7つの工場があり、日本一の自動車生産拠点である豊田市だけに、クルマを活かしたタウン構想には見学前から期待が高まります。案内をしてくださったのは、同市企画政策部環境モデル都市推進課の柴田徹哉課長です。
 「豊田市は“ものづくりの都市”として知られていますが、森林が市の面積の約7割を占めています。市として交通、森林、産業、生活のあらゆる面でチャレンジを続け、2009年に『環境モデル都市』に選定されました。人と環境と技術が融合する『ハイブリッド・シティ』をキーワードに、快適で無駄のない低炭素社会の実現に向けて取り組んでいます」(柴田氏)

ITS(高度道路交通システム)設備

 経済産業省は10年4月、「次世代エネルギー・社会システム実証」の対象として豊田市、横浜市、北九州市、けいはんな学研都市の4地域を採択。国の「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」に基づいた日本型スマートグリッド構築を目指し、10~14年度の5 カ年プロジェクトを実施しました。豊田市は、トヨタなど50団体・企業とともに10年8 月に豊田市低炭素社会システム実証推進協議会を設立し、「豊田市低炭素社会システム実証プロジェクト」を推進しています。
 エコフルタウンは、この実証プロジェクトの一環で12年5月にオープンし、都市部エリア、中山間地エリア、山間地エリアの3つに分かれています。現在までに100の国・地域から約20万人の見学者が訪れています。
 「きょうは都市部エリアを中心に、未来の交通システムであるITS(高度道路交通システム)やパーソナルモビリティの社会実験、家庭内エネルギー利用の最適化(HEMS)を体験していただきます」(柴田氏)

全国初、燃料電池の路線バス

 エコフルタウン内の水素ステーションは、水素製造装置を備えたオンサイト型で、MIRAI約30台分の水素を製造・貯蔵することができる国内最大級の充填能力を持っています。運営は東邦ガスと岩谷産業が共同で行っています。ちなみに、MIRAIへの水素フル充塡は約3分で完了し、1回の満充填で650㎞の走行が可能です。
 お昼時、燃料電池(FC)バス「ミラノス」がステーション内に入ってきました。2015 年1月から路線バスとして豊田市内を実証運行しており、1日に1回水素を充塡しているそうです。耐圧70MPaの水素タンク8本を使用し、容積は計480ℓ。7、8分間で水素を充塡でき、1回の充填で約200㎞走行できます。
 全長1 万525㎜×全幅2490㎜×全高3340㎜。車内を見せていただくと、カラフルな乗客席が印象的で、定員は77人(うち座席26人)です。

低炭素交通システム

 ITSは、最先端のIT技術を活用して人、道路、車両の情報をネットワーク化し、交通の効率や利便性を向上させる新しいシステムです。使用する電力は、太陽光発電でつくられます。
 ITSの1つである「バス車両進入管理システム」は、バスが近づくと自動で車止めが下がり、LEDライトが車道を照らし安全に誘導してくれます。「障害者駐車管理システム」は、事前に登録した車を自動で感知し、LEDライトで迎えてくれ、「交差点確認システム」は見通しの悪い交差点に人や車が近づくとドライバーに情報を知らせてくれます。ITS 設備は、安全運転とエコを両立してくれます。
 多様な移動手段として電動モビリティ「COMS」の試乗体験もできます。電動モビリティ用の充電ステーション「スマートモビリティパーク」では、COMSを利用した短距離シェアリングサービスを行っています。
 「スマホアプリ『Ha:mo(ハーモ)』を利用すれば、公共交通からラクにCOMSに乗り換え、狭い車道もスイスイ移動することができます。市内の主要な駅や企業、商業・公共施設などにCOMSのステーションが約50カ所設置され、会員登録すれば誰でもスマホなどから予約して利用できます」(柴田氏)
 12年10月のサービス開始以降、100台のCOMS が導入され、会員数は約3200人に増えました。30 ~40代男性の利用が多いそうです(16年10月末現在)。普段はクルマで行く目的地までの移動を、公共交通やCOMS といったエコな移動手段にシフトする人が増えると、低炭素化が進むことになります。Ha:moを利用した実証実験は、仏グルノーブル市や東京都、沖縄市、岡山市などでも行われています。
 エコフルタウン内では10年後の家庭の姿をイメージし、4軒のスマートハウス(太陽光発電、HEMS、蓄電地などを備えた家)で、家庭内エネルギー利用の最適化を図る暮らしが提案されています。HEMS で家とクルマ、先端技術をつなぎ、エネルギーを無駄なく賢く利用することができます。
 「実証で得られた知見や課題などをフィードバックしながら、官民連携で新しい産業創出やビジネス展開を図っていくつもりです。実証後も地方都市型の低炭素社会システムの構築を進め、豊田市をショーケース化しながら他都市に横展開していく計画です」(柴田氏)
 クルマと人を主役にした発想で、こんな快適でエコな街づくりができることに感嘆しました。豊田市が取り組むユニークなエコタウン構想は訴求力があり、国内外に波及していくと思われます。