家庭用燃料電池普及の決め手?
―新電力会社が始めた余剰電力買い取り制度―
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
2009年に販売が開始された家庭用燃料電池エネファームの設置数が、ここ数年伸びてきた。メーカーの努力で価格が下がり、耐久性が大きく改善したことと、政府や地方自治体からの補助金が、都市ガスやLPG事業者の販売努力を支えてきたことに加えて、エネファームを一つの目玉仕様に加えた新築住宅が増えてきたことも貢献しているだろう。さらに、東日本大震災の後、停電しても発電を継続できる機種が加えられたことも、電気の安定供給を求めるユーザーに訴求力があったようだし、マンションの各住戸に設置できるまでにサイズを小さくできたことも有効に働き始めているようだ。コージェネ財団が示した過去の年度別メーカー出荷数を見ると、2009年度に4,997基であったものが2015年度には40,447基となっている。しかし、エネファームの総設置数を2020年に140万台、2030年に530万台とする政府のエネファーム普及目標が達成できるかはまだ見えにくい段階にある。
(エネファーム出荷数推移 https://www.ace.or.jp/web/works/works_0090.html)
この達成に向けた新しい推進力になるのが、エネファームの発電能力よりユーザーの電力消費が下回る場合、フル稼働させた時の余剰電力を系統に流し込む(逆潮)ことできるようになったという変化ではないだろうか。新しく電力事業を始めたガス事業などが、エネファームから余剰電力を買い取ることによって、エネファームのユーザーに更なるメリットを享受して貰う、というビジネスモデルが可能になった。最初に出てきた事例では、13円/kWhを買取の基準価格とし、エネファームに使われるガス価格などの変動によって上下するようになっているが、エネファームと太陽光発電や蓄電池などとの組み合わせもあるから、様々な価格設定が出てくるだろう。エネファームの定格発電能力は700ワットないし750ワット。一般の家庭の場合、この能力をフルに使う時間帯はあまり多くはない。これまでは、ユーザー宅の消費電力が定格以下の場合、エネファームは電気の消費量に合わせて出力を絞り、配電線に電気が流れ出すことがないように制御せざるを得なかった。電力会社が、エネファームの余剰電力の買取りをしなかったからだ。
上述の通り、新しいエネファーム販促策として、新電力事業を始めたガス事業者が余剰電力の買取りを始めたが、さらに、興味あるエネファームの利用方法が具体化され始めている。全戸にエネファームが取り付けられたマンションへ電力を一括供給する新電力事業者が、エネファームからの電力を各戸間で相互融通できるように制御することによって、エネルギー消費を効率化し、コストを引き下げるメリットを実現しようとするものも始まった。マンション内における融通電力の割り振りと精算は新電力事業者が行い、マンション全体として余剰電力が出る場合にはこの新電力が買い取る形となる。この方式は、エネファームが設置された戸建住宅の団地が新規開発される場合にも応用が可能だろう。各戸を自営線で結び、エネファームからの電力を相互融通させるのだが、自営線は一カ所に取りまとめられて送配電系統に接続され、新電力事業者がそこから電気の供給、あるいは買取をする形となる。
マンションや住宅団地に設置されたものに限らず、地域で個別に設置されたエネファームも、情報通信ネットワークを使って一体的な発電制御をすることができる。この一体化されたエネファーム群は、系統の下流にある小規模な発電所として機能することになる。燃料電池の発電出力制御に対する応答性は高いために、系統からの指示に応じてエネファーム群全体の出力を迅速に上下させることも難しいことではない。ただ、系統の指示に応じた発電制御を送配電系統安定化に貢献するものとして、その価値を売買ができるようなシステムが開発されることが前提となる。そして、このようなビジネスモデルを実現普及させるためには、精緻な情報通信システムが開発される必要があるのは言うまでもない。
予測の難しい変動をする再生可能エネルギーによる発電が増える中で、エネファームの出力制御による系統安定化が今後新しいビジネスとして広く推進され、エネファームの設置数増加に貢献すると予想しているのだが、動向をしばらく見守ることにしたい。