「カーボン・オフセット制度」と「CFPカーボン・オフセット制度」


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 カーボン・ニュートラル認証は、削減について基準年を設定し、定量的な評価を行うことが求められます。また、取り組み全体について検証を受けなければならないため、カーボン・オフセット認証よりも厳格な基準の設定がされています。カーボン・ニュートラル認証に関する基準は、ISO14061規格群に準拠しており、国際基準を満たすものとして国内外にアピールすることができることがメリットです。認証された案件はカーボン・ニュートラル認証ラベルを用いることができます。(図6)2016年1月末で21社が認証を取得しています。
◎カーボン・ニュートラル認証取得企業一覧:https://jcs.go.jp/cn/companylist_window2.html

図6(図6)カーボン・ニュートラル認証 出典:環境省

(2)オフセット・プロバイダープログラム
 「オフセット・プロバイダー」とは、市民・企業等がカーボン・オフセットを実施する際に必要なクレジットの提供およびカーボン・オフセットの取り組みを支援やコーディネート、または取り組みの一部を実施するサービスを行う事業者のことを言います。事業者や消費者がオフセット・プロバイダーの信頼性と透明性を確認できるように、プロバイダーの過去から一定期間の排出量クレジットの取り扱い方法などを定期的に確認し、「オフセット・プロバイダープログラム」のウェブサイトで情報が公開されています。
◎オフセット・プロバイダー一覧:http://www.jcs.go.jp/offsetprovider.html

経産省主導の「CFPを活用したカーボン・オフセット制度」

 「CFP(カーボン・フットプリント)を活用したカーボン・オフセット制度(以下、CFPオフセット制度)」は、経済産業省により2013年から運営を開始された制度です。事業者が製品等のライフサイクル全体で排出された温室効果ガス排出量(CFP:カーボンフットプリント)を算定し、主体的に排出量の削減努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量をクレジットによりオフセットを行い、CFPオフセットの認証を受けた製品・サービスに認証マークを貼付する事業です。(図7)認証マークは、「どんぐりマーク」と呼ばれています。(※カーボン・フットプリントについては「カーボン・フットプリント制度とエコリーフ制度」をご参照ください。)

図7(図7)出典:経済産業省[拡大画像表示]

 平成25年度まではライフサイクルでの排出量の全て100%をオフセットすることを求めていましたが、事業者の負担を軽減し、消費者のCO2排出量の削減行動を喚起する観点から、平成26年度より事業者の責任が及ぶ範囲に限定した形でCO2排出量をオフセットする「部分オフセット」の認証も実施しています。また、平成26年度より、オフセットに使用可能なクレジットとして「グリーン電力・熱証書」をベースとした「グリーンエネルギーCO2削減相当量」を加えました。これは、経産省と環境省が共同で運営する「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」に基づくもので、現在民間で取引されているグリーン電力・熱証書について、証書のCO2排出削減価値を国が認証しています。認証を受けた場合、地球温暖化対策推進法に基づく算定・報告・公表制度における国内認証排出削減量として活用できます。

 CFPカーボン・オフセット制度により「無効化」等を行ったクレジットは、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度や、その他の温室効果ガス排出量に係る報告制度の報告に利用できます。温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度は、排出量の多い企業に毎年排出量の報告義務を課すものです。「無効化」とは、カーボン・オフセットに用いたクレジットが再販売・再使用されることを防ぐために、クレジットを無効にすることです。
【例】製品メーカーがカーボン・オフセットを行う場合
例えば、製品メーカーA社が本制度への申請を行い、B社が製品の購入を行う場合は、図8に示す通りです。

図8(図8)出典:経済産業省[拡大画像表示]

 現在、印刷業界の事業者によるCFPカーボン・オフセット制度の利用が比較的多い傾向にありますが、経済産業省は今後、飲料や日用品などの消費者に身近な製品における取り組みの拡大を目指し、一般の消費者への認知度の向上につなげたいとしています。
◎CFPカーボン・オフセット認定取得一覧:
http://www.cfp-offset.jp/products/companies.html

カーボン・オフセットの今後

 近年の地球温暖化対策の重要性の高まりから、日本政府もカーボン・オフセットに積極的に取り組んでいます。最近注目された取り組みとしては、2016年5月26日、27日に三重県で開催された伊勢志摩サミットでのカーボン・オフセットがあります。伊勢志摩サミットはCOP21後初めて開催されたG7サミットですが、日本の気候変動対策への姿勢を国際的に示し、国内の地球温暖化対策に対する理解と協力への機運の高めていくことを目的にオフセットが実施されました。G7の首脳や関係者の会場までの移動や宿泊、会場運営などに伴うCO2排出量、約2万トンを法人または自治体から提供されたクレジットでオフセットするため、2016年4月26日から5月27日までの間に協力法人・自治体を募集しました。

 実際にクレジットを提供してくれた自治体や企業は112者(法人:85者、自治体27者)で、提供されたクレジットは合計1万3180トンになりました。これに政府のクレジットを加味して、サミットのカーボン・オフセットを実現しました。協力法人・自治体へのメリットとしては、G7伊勢志摩サミットのロゴや写真の使用も含め、カーボン・オフセットに協力していることを対外的にアピールできることです。また関係省庁のウェブサイトに、協力法人・自治体として名称が掲載されます。
◎G7伊勢志摩サミットのカーボン・オフセットへの協力法人・自治体一覧:
https://japancredit.go.jp/summit/list.html

 市場メカニズムを利用したカーボン・オフセットの取り組みは世界各国で行われており、欧州では、カーボン・ニュートラルを目指す企業等の動きも活発化しています。日本においては、地域におけるクレジットを活用したオフセット商品の開発やグリーン購入などの公共調達と連動したカーボン・オフセットの取り組みの普及拡大が期待されており、ニュートラル化を目指す企業などの動きも見られます。

 課題としては、カーボン・オフセットやカーボン・ニュートラルの取り組みがどのようなものなのか、人々にまだ十分認知されているとは言えないことがあります。カーボン・オフセットの利用を活発化させるためには、さらなる国民の認知度の向上は不可欠です。企業などのカーボン・オフセットの取り組みの支援とともに、政府や自治体など公的な組織が率先して、大きな会議やスポーツ大会などでのクレジットを使う場面(機会)をつくり、クレジット活用の拡大を図っていくことも重要と思われます。

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