電源のパフォーマンスを評価するアンシラリーサービス制度

米カリフォルニア州の取り組み


Policy study group for electric power industry reform

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1.はじめに

 我が国では、政府が進めている一連の電力システム改革の中で、2020年度に発送電分離(送配電部門の法的分離)が予定されている。発送電分離に伴い、従来は垂直統合体制の一般電気事業者が担っていた、電力系統の周波数を維持する義務は、一義的に送配電会社(一般送配電事業者)の義務になる。しかし、一般送配電事業者はそのために必要な電源を持っていないため、周波数調整用の電源を契約や市場を通じて調達することになる。我が国では、この調達をオープンな公募により行うこととしており、現在その具体的な仕組みが議論されている。
 このような調整力のことをアンシラリーサービス(Ancillary Services、以下AS)注1)と呼び、それを調達するための市場をAS市場と呼ぶ。発送電分離を先行して実施してきた、欧米諸国では、当然にAS市場は存在しているが、近年、自然変動電源の導入進展を背景に、調整力の応答速度別に市場を創設するなど、能力の高いASがより多くの報酬を得られるような仕組みの改善が志向されている。これにより、能力の高いASを市場に提供するインセンティブを高めることが狙いである。
 米国では、2011年10月に連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission、以下FERC)が、ISO/RTOの卸電力市場に周波数調整を提供する調整電源への対価が公正かつ妥当となるように、①周波数調整として提供する容量への支払い、②パフォーマンスに応じた支払い、という2段階式支払制度の導入を義務付けた最終規程(FERC Order 755)を公表した。これを受け、各市場はパフォーマンスに応じた評価を行う仕組みを創設している。その中でも、 California ISO(以下CAISO)では、電源種別によらず、公平にパフォーマンスに応じた評価を行う仕組みを採用している。
 そこで、本稿では、CAISOにおける電源のパフォーマンスに応じたASの調達と対価支払方法について解説する。

2.パフォーマンスに応じた対価とは

 ここで言うパフォーマンスとは、系統運用者の指令に基づき、電源が周波数調整をいかに迅速に行ったかである。自然変動電源の増大に伴い、パフォーマンスに優れたAS供給源としての電源のニーズが高まることが今後想定されるため、パフォーマンスに優れた電源が、より多くの収入を得られるしくみの構築が重要である。迅速な出力変化は、電源設備への負担も大きい。パフォーマンスに優れた電源がより多くの報酬を得られる仕組みは、この点でも合理的である。
 図1に電源1、電源2が指令に基づいて周波数調整を行ったイメージを示す。30分間における各電源の発電電力量をQn、出力変化量(マイレージ)をLnとする。Q1=Q2のとき、30分間の発電電力量〔MWh〕のみを評価した場合、各電源の得られる収入(=MWh市場価格×発電電力量)は同額となる。しかし、電源1の方がより変化する指令に追従しており、系統への貢献度は大きい。この価値を電源のパフォーマンスと位置づけると、その指標はマイレージ(Ln)で評価することができる。すなわち、各電源に対してマイレージに応じた収入を付加することで、系統への貢献により即した対価の支払ができる。図1では、L1>L2となるため、電源1の方がより多くの収入を得ることができる。

図1
図1:各電源の周波数調整イメージ
(出所)筆者作成
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3.CAISOによる周波数調整力の調達の流れ(入札から精算まで)

 CAISOにおけるASには、以下の5種類がある。

①周波数調整(Regulation Up and Regulation Down)
②瞬動予備力(Spinning Reserve)
③非瞬動予備力(Non-Spinning Reserve)
④電圧調整(Voltage Support)
⑤ブラックスタート(Black Start)

 このうち、パフォーマンスに応じた支払の対象は、①周波数調整である。
 CAISOでは、周波数調整のための電力容量を、前日に調達する『周波数調整市場(前日)』ならびに当日の不足分を調達する『周波数調整市場(当日)』から15分単位で調達する。この章では入札から精算までの流れを紹介する。
 なお、CAISOは、周波数調整のための容量を上げ側、下げ側で別々に調達する。つまり、上げ側、下げ側それぞれで、入札から精算までのプロセスを踏むことになる。3.1以下の記述は上げ側を想定している。

3.1 入札

 周波数調整市場に参加を希望する事業者は、容量〔MW〕、容量入札額〔$/MW〕、機会費用〔$/MW〕、マイレージ入札額〔$/ΔMW〕を入札する。

(1) 容量、容量入札額

電源の出力余力など周波数調整力の供出容量〔MW〕を容量として入札し、さらにこの単価を容量単価として入札する。

(2) 機会費用

周波数調整力に供出する電源がエネルギー市場で落札できた場合に得られたであろう利益を機会損失(費用)という。
FERC Order 755に基づき、入札者は、機会費用を提示できる。現状、CAISOは機会費用の算出方法をルール化していないので、入札額は市場参加者の判断に委ねられる。CAISOでは、機会費用の算出を支援する理論とモデルを作成しており、今後、実際のデータを用いた改良を始めるところである。

(3) マイレージ入札額

詳しくは後述する。出力指令に対する電源の4秒単位の出力変化量の絶対値の合計をマイレージ〔ΔMW〕として、この単価〔$/ΔMW〕を入札する。

3.2 予想コストの算出

 CAISOは、応札した個々の電源について、当該電源が落札した場合に想定される支払額(予想コスト)を次式により算出する。これらの情報から各電源を落札した場合の最終の支払額を想定して、次式により予想コストを算出する。CAISOでは、周波数調整のための容量を上げ側、下げ側で個別に調達しており、それぞれに対して決済価格が決まる。

201204060_2

 なお、算定に用いられる、系統マイレージ乗数(System mileage multiplier)の定義は以下の通りである。
 系統マイレージ乗数は、過去1週間の実績から、周波数調整容量1MW当たりのマイレージ調達量で表される。24時間帯別に、1時間単位で、次式により計算される。

系統マイレージ乗数=対象時間帯の全電源のマイレージの過去1週間合計〔ΔMW〕
〔ΔMW/MW〕    ÷対象時間帯の周波数調整落札全容量の過去1週間合計〔MW〕

 例を用いて、系統マイレージ乗数の計算方法について解説する。表1に午前7時~8時までの1時間における系統全体の電源による上げマイレージの前週実績が示されている。表1から系統マイレージ乗数は3.61(=9300÷2575)と算出される。この系統マイレージ乗数は、翌週の日曜日から土曜日における同時間帯(午前7時~8時までの1時間)に適用される。

表1 午前7時~8時までの1時間のマイレージ乗数計算例
(出所)文献2

表1
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 系統マイレージ乗数は、確保する電源の容量から、必要なマイレージ量を計算するために使用される。表1において、次の月曜日午前7時~8時までの1時間に確保したい周波数調整上げ容量が350MWであった場合、必要な上げマイレージ量は1263〔ΔMW〕(=350×3.61)となる。
 調達容量と必要マイレージ量の関係を、図2を用いて説明する。先行制御の指令値(青実線)から上側の緑点線までの距離が周波数上げ容量(350MWに相当)、先行制御の指令値から下の緑点線までの距離が周波数下げ容量である。周波数上げマイレージは、赤実線のうち、緑塗り部分に含まれる部分の長さの合計(1263ΔMWに相当)である。

図2
図2:需要曲線と周波数調整イメージ
(出所)筆者作成
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注1)
ASの供給者は主に電源であるが、理論上はデマンドレスポンスや蓄電池等も供給者になり得る。本論の電源は、理論上ASになり得るデマンドレスポンスや蓄電池等も含んだ概念と理解されたい。

3.3 調整済コストの算出

 CAISOは、入札額の評価を、予想コストに電源毎の実績から算出した確度を加味した調整済コストから行う。入札した電源の評価はこの調整済コストに基づいて行われ、調整済コストの低い電源から落札していく。ただし、決済価格は予想コストに基づいて決まる(詳しくは後述)。つまり、予想コストが同じ電源であれば、確度の高い電源が調整済コストを低く抑えられるので、落札に有利となる。

調整済コスト=予想コスト÷確度

 確度(Accuracy)の定義は、以下の通りである。
 CAISOは、各周波数調整電源に対し、4秒インターバルで負荷周波数制御(automated generation control、以下AGC)設定点〔MW〕の信号を送信している。確度は、AGC設定点に対してどれだけ正確に応答したかを表す指標であり、AGC設定点と実際の電源出力のテレメーター値を比較して算出する。実際の計算は次式で表され、15分間毎に計算される。

確度=(AGC設定点の15分間合計-偏差の絶対値の15分間合計)
÷AGC設定点の15分間合計

 上記の計算式は、15分間におけるAGC設定点に対応した電源の確度を反映し、0~100%の範囲となる。表3に確度の計算例を示す。表2において、確度は次のように計算される。(本例は1分間の確度の計算例である)

確度=( 200 - 21 )÷ 200 = 0.895 = 89.5%

表2 周波数上げ調整範囲における確度計算
(出所)文献2を元に筆者加工

表2
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3.4 落札電源の決定

 例題を使って、落札までの流れを解説する。表3は、周波数上げ調整の必要量100MWに対して、7台の電源が周波数上げ調整に入札した例である。入札情報に基づきCAISOは予想コストを算出、さらに確度を加味した調整済コストを計算し、調整済コストの低い順に落札順位を決定する。
 表3では、落札順位に基づいて電源G・A・C・F・Bの5台が落札している。電源Bについては、図3に示すように、入札した容量全てではなく、必要量100MWに到達するまでの残りの容量(20MW)が約定容量となっている。

表3 7台の電源による周波数上げ調整電源の落札プロセス
(出所)文献2を元に筆者加工

表3
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図3
図3 落札順位決定のイメージ
(出所)筆者作成
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 さらに、CAISOでは、落札電源の決定に際して、電源固有マイレージ乗数という電源毎に過去の運転実績から算出される乗数を用いて、各電源が供給可能なマイレージを計算し、系統におけるマイレージ必要量を満たしているかどうかのチェックを行う。
 電源固有マイレージ乗数は、当該電源が、過去の確度と認証を受けた際に登録した変化速度(分単位)を元に、次式により算出される。(表4参照)

電源固有マイレージ乗数(A6)=
系統マイレージ乗数(A1)×(10/認証された容量に到達するまでの時間(A3))×(電源の実績確度(A4)/前週の系統確度(A2))
表4 電源固有マイレージ乗数の計算例
(出所)文献3

表4
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3.5 決済価格の決定

 マイレージの決済価格は、落札された電源のうちマイレージ入札額の最高値が全電源に一律に適用される(Pay as Clear方式)。予想コストの決済価格も同様にPay as Clear方式で決まる。容量決済価格については、マイレージ決済価格と予想コストの決済価格から次式で算出する。

容量決済価格 = 予想コストの決済価格 - マイレージ決済価格×系統マイレージ乗数

 表3の例では、マイレージ決済価格は$1.00、予想コストの決済価格は$13.00、容量決済価格は$8.00(=$13.00-$1.00×5)となる。この容量決済価格は機会費用を含んだ金額となる。

 次に、周波数調整容量やマイレージ決済価格が、『周波数調整市場(前日)』と『周波数調整市場(当日)』で異なる場合、当該時刻の15分間のマイレージ決済価格は、『周波数調整市場(前日)』および『周波数調整市場(当日)』の両方のマイレージ決済価格の加重平均価格となる。
 例えば、ある電源が、『周波数調整市場(前日)』においてマイレージ決済価格$1.00で80MW、『周波数調整市場(当日)』においてマイレージ決済価格$2.00で20MWの周波数調整容量としてそれぞれ落札された場合、この15分間でのマイレージ価格は$1.20(=$1.00×80/(80+20)+$2.00×20/(80+20))となる。『周波数調整市場(前日)』で落札され、『周波数調整市場(当日)』で落札されなかった場合、決済価格は$1.00のままである。『周波数調整市場(前日)』で落札されず、『周波数調整市場(当日)』のみで落札された場合、マイレージ決済価格は$2.00となる。このようにして、マイレージ決済価格は電源毎に1つに決められる。

注2)
系統確度は、系統マイレージ乗数と同様、24時間帯別に1時間単位で計算される。対象時間帯の系統確度は、系統における電源の確度の過去1週間分の単純平均である。
注3)
認証を受けた際に登録した変化速度を用い、1~10の整数値が入る。数値が小さいほど、認証された容量に到達するのが早いことを表す。周波数調整力となるための条件として、各電源は10分以内に認証された容量に到達することが要求されている。
次のページ:マイレージの精算

3.6 精算

 マイレージの精算は、給電指令に応じた実績マイレージに対して支払いが行われ、次式で計算される。

マイレージ精算額=マイレージ決済価格(単価)×実績マイレージ×確度

 また、容量の精算は次式で計算され、先に述べたとおり、機会費用を含んだものになっている。

容量精算額=容量決済価格(単価)×落札容量

図4

図4 AGC設定点とマイレージの関係
(出所)筆者作成

 実績マイレージの算出方法は、以下の通りである。
 CAISOでは、AGC設定点の変化量の絶対値を「マイレージ」と表現している。図4の例で、時刻t0~t5におけるAGC設定点の変化量(緑矢印で示される長さ)の合計がマイレージとなる。
 実績マイレージはこのAGC設定点の変化量を15分間合計して算出する。「マイレージ×確度」は、各電源が有効に働いたマイレージの指標となっており、精算に用いられている。

4.おわりに

 CAISOでは、2012年に電源種別によらずパフォーマンスに応じて評価する仕組みを創設した。直近の2013~2015年の調整力調達実績を見ると、周波数調整力の容量ではガス火力のウェイトが大きいが(図5)、マイレージについては、貯水式水力発電が半分近くを供給している。現状、CAISOのマイレージ調達費用は非常に少ない(図6)が、貯水式水力発電が安価なマイレージ供給源となっているようである(図7)。また、周波数調整市場の決済価格はエネルギー市場価格と比べて非常に安価となっている(図8~10)。これは、機会費用が適正に反映されておらず、容量決済価格も低く抑えられているためと考えられる。

 以上、CAISOにおける周波数調整市場の仕組みについて説明した。まだ発展途上の仕組みであるが、「パフォーマンスに優れた電源がより多くの収入を得られる仕組み」に先駆的に取り組んでいる興味深い事例である。今後、自然変動電源の導入が一層進むことが想定される我が国にも示唆に富むものであり、今後も動向を注視していきたい。

図5
図5 調整力の調達量(電源種別)
(出所)文献8
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図6
図6 AS費用(種類別)
(出所)文献8
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図7
図7 CAISOの電源構成
(2015年夏季の電力の供給力(NDC):65,288MW)
(出所)文献9
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図8
図8 エネルギー価格(オフピーク時間帯)
(出所)文献8
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図9
図9 AS価格(前日)
(出所)文献8
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図10
図10 AS価格(当日)
(出所)文献8
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<参考文献>

1)
FERC Order 755
https://www.ferc.gov/whats-new/comm-meet/2011/102011/E-28.pdf
2)
CAISO;Pay for Performance Regulation Revised Straw Proposal(2012.1)
https://www.caiso.com/Documents/PayPerformanceRegulationRevisedStrawProposal.pdf
3)
CAISO Business Practice Manual for Market Operations V44 Attachment J(2016.6)
https://bpmcm.caiso.com/Pages/BPMDetails.aspx?BPM=Market Operations
4)
CAISO;Business Requirements Specification Pay for Performance Regulation (2013.5)
http://www.caiso.com/Documents/BusinessRequirementsSpecification-Pay-Performance.pdf
5)
CAISO;Pay for Performance Regulation (FERC Order 755) Updated with Year One Design Changes(2013.2作成、2015.2.17更新)
https://www.caiso.com/Documents/Pay-PerformanceRegulationFERC_Order755Presentation.pdf
6)
CAISO;Fifth Replacement Electric Tariff(2015.1)
http://www.caiso.com/Documents/Section8_AncillaryServices_Jan1_2015.pdf
7)
CAISO;2014 Annual Report(2015.6)
http://www.caiso.com/Documents/2014AnnualReport_MarketIssues_Performance.pdf
8)
CAISO;2015 Annual Report(2016.5)
http://www.caiso.com/Documents/2015AnnualReportonMarketIssuesandPerformance.pdf
9)
CAISO;2015 SUMMER LOAD & RESOURCES ASSESSMENT(2015.5)
https://www.caiso.com/Documents/2015SummerAssessment.pdf

執筆者:東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室
杉山 ゆり子、大木 功、戸田 直樹

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