再エネ普及政策はどうあるべきか
── FIT法見直しの経緯と概要
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(1)国民負担の増大
買取費用総額は1年ごとにほぼ倍々で増加した。平成28年度の買取総額(予想)は約2.3兆円、賦課金単価は1kWh当たり2.25円、標準家庭(1か月の電力使用量が300kWh)の負担は月額675円にまで膨らんでいる注1)。事前の検討で描かれていた、制度導入10年後の負担(買取費用総額で4,600~6,300億円/年、標準家庭の負担額150~200¥/月(0.5~0.7¥/kWh))をはるかに上回る。
このような状況をもたらしたのは、FITという制度が本質的に抱える課題と、わが国の制度設計のまずさの「相乗効果」であったといえるだろう。本質的な課題としては、FITは「査定なき総括原価方式」であり、事業者から提供される資料によって公的組織が買取価格を決定するため、買取価格の決定に競争原理は働かず、価格抑制効果が弱い。FIT先進国であるドイツやスペインにおいても国民負担の抑制には失敗した。わが国はドイツ等で顕在化していた課題を認識しながら制度設計に活かすことはできなかった。特に制度導入当初の買取価格が国際的にみても相当高く設定されてしまった上に、「施行から3年間は特に利潤に配慮(附則第7条)」との規定まで盛り込まれた結果、消費者の負担が爆発的に拡大してしまった。
しかも、⑵で述べるように大量に導入された太陽光発電においても価格下落効果が十分にはみられていない。制度導入(2012年Q3)以降、太陽電池の価格下落率はむしろ鈍化したことが指摘されている注2)。学習効果が働き、より効率的な生産方法が可能となって再生可能エネルギーのコスト低減につながる、というFIT制度に対する本来の期待は満たされなかったといえる。わが国の太陽光発電累積導入量は世界第3位であるにもかかわらず、価格低減効果が十分ではなく、いまだに太陽光の発電コストが諸外国の倍近くに留まっている状態は今後の施策を考えるうえで、重く受け止められるべきだろう。
(2)電源間でのアンバランス(太陽光偏重)
これもFITを導入した諸外国で認識されていた問題点であるが、わが国でもFITで認定された量の9割以上が事業用太陽光となった。太陽光発電は稼働に至るまでの期間が短く、事業リスクが他の電源よりも低い。再エネを種類・規模別に区分し、それぞれに原価+利潤で買取価格を決めると、リードタイムの短い太陽光に投資が集中することとなる。環境アセスメントの制約を受ける風力や、地元合意等も含めて開発に長期間を地熱等他電源の導入量がほとんど伸びなかったのに対して、太陽光は制度導入から約3年でほぼ3倍にまで増加している。
太陽光の急増は、地域の自然環境との調和においても問題を引き起こしている。電気事業法によって風荷重等に対する強度の基準が定められているが、各地で台風や突風による被害が発生したほか、土砂災害との関連が指摘される事態も起きている。発電事業が適切に行われるよう他法令の順守を担保する枠組みを構築するとともに、設置される地方自治体への情報提供が確実になされる必要性が指摘された。
(3)未稼働案件の累積
従来のFIT制度においては、買取価格の決定には行政による「設備認定」が必要であり、「設置場所の決定」と「設備仕様の決定」が要件とされた。高い買取価格を確保しようと、年度末には申請が殺到し、地権者の了解を得ていない事案や農地法や河川法に抵触する場所での案件なども通ってしまうなどの問題が多数発生した。その結果、特に太陽光での未稼働案件が多く累積することとなった。ネットワークの有効利用に支障をきたすこと、また、買取価格が高い時期に認定を受け、太陽光パネルなど設備費が下落してから施工・稼働すればより儲け幅が大きくなることを狙った事業者の存在も指摘された。
これまでもこうした課題は放置されてきたわけではなく、例えば認定済みの設備について聴聞等による認定取消、設備変更に対する再認定手続き要求、出力抑制ルールの変更等が為されたが、もちろん抜本的な解決には至らず、また、電力システム改革による全面自由化導入という条件変更がなされたこともあり、今次の法改正に至ったものである。
FIT法改正の内容
こうした課題への指摘やシステム改革の進展を受け、FIT法は2012年の施行以来初めて見直されることとなった。見直しのポイントは次の通りである。
- (1)
- 未稼働案件の発生を踏まえた新認定制度の創設
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- 発電事業の実施可能性(接続契約)を確認したうえで認定
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- 既存の認定案件は、原則として新制度での認定取得を求める(経過措置あり)。
- (2)
- 適切な事業実施を確保する仕組みの導入
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- 事業開始前の審査に加え、事業実施中の点検・補修や、事業終了後の設備撤去等の順守を求め、違反時の改善命令・認定取り消しを可能とする
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- 事業者の認定情報を公表する仕組みを設ける
- (3)
- コスト効率的な導入
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- 大規模事業用太陽光を対象とした入札制度の導入
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- 中長期的な買取価格の目標設定(住宅用太陽光や風力は価格低減のスケジュール提示)
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- 国際競争力強化の制度趣旨に照らして減免対象を絞り込むとともに、省エネの取り組み状況等に応じた減免率の設定を行う
- 注1)
- 「再生可能エネルギーの平成28年度の買取価格・賦課金単価を決定しました」(http://www.meti.go.jp/press/2015/03/20160318003/20160318003.html)
- 注2)
- 総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会
第4回会合野村委員提出資料(http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/004/pdf/004_11.pdf)