再エネ普及政策はどうあるべきか

── FIT法見直しの経緯と概要


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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地熱等のリードタイムの長い電源の導入拡大
数年先の認定案件の買取価格まであらかじめ提示することにより、地熱、風力、中小水力、バイオマスなどリードタイムの長い電源の導入を促す

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電力システム改革対応
買取義務者を小売りから送配電事業者に変更、広域での運用を可能にする

それでも残る課題は何か

 今次のFIT法改正は、直面する課題への対処として一定の評価ができる。しかしながら、それでも多くの課題が残っている。FIT法改正後も残る課題は何か、わが国の再エネ普及政策を今後考える上で必要な視点とあわせて整理する。

(1)国民負担の抑制はどこまで実効性があるか?
 2030年のエネルギーミックスの前提となる政策目標の一つが「電力コストの引き下げ」であり、買取総額は3.7~4.0兆円(うち、太陽光は2.3兆円)、系統安定化費用は0.1兆円程度に抑制することとされている。しかし、先述した通り、既に今年度の買取総額が2.3兆円に達しており、実際にこの枠内に収めるられるかどうかは不透明である。
 またエネルギーミックス達成に向け、地熱・水力・バイオマスといった原子力を代替し得る安定した再エネは最大限導入を促進し、太陽光・風力といった自然変動電源についてはコストの枠内で可能な限り導入するとされている。しかし、必要な設備容量としては2030年で太陽光は事業用・住宅用をあわせて約6,400万kWとされているなかで、2015年末時点での既認定容量は約8,500万kWにもなっている。新認定制度という「ふるい」にかけることで、認定済みの未稼働案件がどれだけが退出するかは不透明である。今次の改正により、今後の「太陽光バブル」は抑制できたとしても、既に起きてしまったバブルがどこまで抑制できるかには疑問が残る。

(2)電力システム改革との整合性ある普及
 先述した通り、FITは究極の総括原価方式である。再エネはFITで安定的な投資環境を確保され、加えて、出力抑制はできる限り避けるよう設計されている。「稼ぐ機会」についても優先されるのである。既存の電源は再エネの「調整役」となり、稼ぐチャンスを失う。自由化された市場において、稼働率の低下した設備を維持するモチベーションを事業者が持つことはない。こうして火力発電への投資インセンティブは低下し、全体として適正な発電容量を維持することが難しくなるのである。容量市場の創設や容量メカニズムの導入など調整力確保策を講じることが必要となる。
 例えば、現在の日本の石炭火力の稼働時間は年間平均7,500時間程度とされる。しかしFITにより再エネを拡大し今や発電電力量の3割が再エネとなったドイツにおいては、3,000~4,000時間程度しか稼働していない。起動停止回数の増加で設備トラブルも増加しているとされる。最新鋭のIrsching天然ガス火力4、5号(最新鋭GTCC)については、事業者(E.ON)が廃止を申し出たものの、いざというときのためにこの電源を維持しておく必要があるとして、ドイツ政府はこの5号機を維持する対価を事業者(E.ON)に年間1億ユーロ(約150億円)支払ったと報道されている注3)
 その制度趣旨からしても、FITは卒業を前提とした制度である。供給過剰であっても一定の価格での買い取りが保証されるFITはいずれ終了し、卸市場価格にプレミアムを付与するFIPや、最終的には他の電源と同等に市場で選択されるようになることが望ましい注4)。電力システム改革の進展と整合する形でFITの補助政策をどう卒業していくかの戦略を描く必要がある。

今後の再エネ政策を検討するにあたり必要な視点注5)

 最後に、今後の再エネ普及を考える上で、必要な視点を提示しておきたい。我が国は人口減少し、温暖化対策のためにも省エネをさらに加速させていく。都市と地方では想定されるシナリオが大きく異なるが、系統電力の需要は特に地方においては減少することが予想される。ネットワーク料金の収入が減少し、固定費の回収が難しくなれば、料金を値上げせざるを得ず、そうなるとより系統電力が分散型電源に対して割高感を持つこととなり、さらに系統電力需要の減少を加速させることとなる。いわゆるデス・スパイラルである。土地の価格が安い地方においては多くの再エネが導入されるため、それを受け入れながらネットワークを増強していかねばならない。ネットワーク部門は規制の下にあるため、その投資回収確保策については現在ほとんど議論されていないが、需要停滞、再エネ大量導入のなかでスマートグリッド化などを含めた設備更新をどう行うか、公平性ある費用負担について、早急に議論を始める必要があるだろう。

注3)
ロイター通信2013.5.18(http://www.reuters.com/article/2013/04/18/germany-eon-regulator-idUSL5N0D52F320130418
注4)
電力中央研究所社会経済研究所「欧州における再生可能エネルギー普及政策と電力市場統合に関する動向と課題」は自然変動電源の完全な市場統合が可能かどうかを検証しているが、PVの持つ経済的価値という観点からすればそれが非常に難しいことを示唆している。
注5)
服部徹(2015)「自由化後の再生可能エネルギーの大量導入と電力経営」『エネルギー・資源』Vol.36,No.5,pp.18-22に詳しい。なお、2016年6月に行われた公益事業学会総会は「公益事業の持続可能性」をテーマとしており、電力事業のみならず幅広い公益事業の人口減少社会における持続可能性について検討した。本年秋発行予定の学会誌「公益事業研究」を参照いただきたい。

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