第2回 化学産業は温暖化対策のソリューションプロバイダー〈前編〉
日本化学工業協会 技術委員会委員長/三井化学株式会社常務執行役員、生産・技術本部長 松尾 英喜氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
「cLCA」のコンセプトで、全体の排出削減を考える
――自動車業界のGHG削減に貢献されているわけですね。
松尾:主体間連携は自動車業界だけにとどまりません。照明や住宅など、あらゆる分野が対象になります。「cLCA」というコンセプトがありますが、日化協はもとより、世界の化学業界が一体となってこの「cLCA」のコンセプトの普及に努めており、世界全体のCO2排出削減に貢献しようとしています。
――どのようなコンセプトですか?
松尾:「cLCA」とは、他の産業や消費者が、ある完成品を使用するときに排出されるCO2を、完成品の一部または全部を化学製品に置き換えることによって削減する事です。それも、使用の段階だけでなく、ライフサイクル全体の中で削減できるCO2を定量的に評価しようというものです。原料から製品がつくられ、それが完成品の一部として使用されて、最終的に廃棄されるまでの、全ライフサイクルの中で発生するCO2の量に着目します。
例えば、自動車の部品に、金属の代わりに樹脂を使うことによって車を軽量化できます。その樹脂を製造する際に発生するCO2の量は若干増え、樹脂を廃棄することによるCO2も増えます。しかし、一部を金属から樹脂に置き換えた完成品の車は軽くなるわけです。軽くなるので、車の使用によって排出されるCO2の量は大幅に削減されます。これは樹脂という化学製品が、原料から廃棄までを通じてどれだけCO2削減に貢献するか、いわば、「ゆりかごから墓場まで」に排出されるCO2の量を定量的に算定して削減量を評価するのが「cLCA」のコンセプトです。(図2)
松尾:もう一つの例として、LED電球があります。LEDは電気製品だと思われがちですが、基本的には多くの化学製品が使われています。LEDのチップ、基盤にしてもほとんどが化学製品です(図3)。LEDは、2010年前後は、白熱電球に対して、全体の数%のシェアしかありませんでした。LEDを使用すれば、白熱電球に比べて20~30倍と、大きく寿命が延びます。また基本的に電力量は5分の1以下になると言われています。
LEDを例えば約3000万個使うことによって、700万t~800万tのCO2を削減できると言われています。しかし、このようなことが一般には十分に理解されていません。LEDの他にも、住宅の断熱材、タイヤや配管材料など、いろんなものがライフサイクルの中でGHGの削減に大きく貢献しています。化学製品を使用することにより、既存の製品と比べてどのくらい削減になるかを、数字でわかりやすく説明をしていくのが、「cLCA」のコンセプトです。
――化学製品を使うことによる「cLCA」の評価が現実の削減量と言えるわけですね。
松尾:そうです。「cLCA」の考え方で実現できるGHG削減は極めて大きい。日本の約束草案を見ると、一番大きな課題はやはり家庭部門、業務部門の削減で、目標値として2030年に現状より4割削減と言われています。これを達成する為には、LEDの普及促進など、やはり国民運動として、「cLCA」の考え方でGHG削減していくということをしっかり推進していかなければなりません。「cLCA」の考え方でこれだけ削減できるということの理解を、国民の皆さん、他産業の方々、また官庁・政府関係・自治体関係の皆さん方に広げていくことも我々の役割だと思っています。
(後編に続く)