トランプ大統領と環境政策
民主党サンダース氏とクリントン氏の気候変動対策は?
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
クリントン氏の気候変動対策は?
民主党の最有力候補であるクリントン氏が掲げる気候変動対策のポイントは、細かな数字の積み上げはされていないが、オバマ政権の対策を引き継いだものになっている。
- ■年間700億ドル超のエネルギーコスト削減
- 昨年10月オバマ政権が施行した「クリーン・パワー・プラン(クリーン電力計画)」を含め、効果的な温室効果ガス排出削減策を実施し、家庭および業務部門におけるエネルギーコストを年間700億ドル超削減する(一世帯あたり年間600ドルの削減)。エネルギーコストの削減により、米国の産業の国際競争力をさらに強化する。
- ■600億ドルを投資した「クリーンエネルギー・チャレンジ」立ち上げ
- 600億ドルを投資し、全米の州や市、地方のコミュニティと連携し、「クリーンエネルギー・チャレンジ」プロジェクトを立ち上げる。カナダとメキシコと協定を結び、大陸を縦断し、よりクリーンで安全なエネルギーの普及拡大と温室効果ガス排出削減を図る。
- ■エネルギー効率向上による早死リスクの低減と節税
- 自動車やトラックなど車両のエネルギー効率の向上により、米国民3600人の早死のリスクを防ぎ、年間9万人のぜんそく発作を防ぐ。また、病院や大学など公共設備のエネルギー効率向上によるエネルギーコストの削減により年間80億ドル超の税の節約を図る。節税分は、国民の医療費や教育費の負担軽減に充てる。
- ■給与条件の良い雇用の創出
- エネルギー分野の設計、エンジニアリング、製造、建設工事における給与条件の良い雇用を増やす。
- ■石油消費量を年間3億バレル超減らして排出削減
- 家庭および業務部門における石油消費量を年間3億バレル超減らし、温室効果ガス排出削減を行う。クリーンエネルギー経済への移行を進める一方、化石燃料(石油や天然ガス、石炭)については、安全を確保し、環境に配慮した責任ある生産を行っていく。
この他、「クリーンエネルギー・チャレンジ」プロジェクト関連では、クリントン氏が大統領に就任した際には、就任から4年以内の2020年までに米国内に太陽電池モジュールを5億枚設置することや、2020年までに米国の太陽光発電の累積導入量を140GWまで拡大する方針を打ち出している。太陽光の大量導入の目標達成に向けて、2016年12月31日付けで控除率が30%から10%に縮小される予定の法人向け投資税額控除(ITC:)の期間延長を求めている。
これらの対策を行うことにより、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)での米国草案における目標 - 温室効果ガス排出量を2025年までに 2005年水準比26%~28%削減を上回る水準の実現をめざすとしている。なおクリントン氏は、予備選の段階では、気候変動対策としての原子力発電については言及していない。