いま再び、水素エネルギーの重要性について
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター
【再エネの大量導入を図るために必要なこと】
再エネの導入のために国内に賦存する再エネ資源を可能な限り活用していくことは重要です。しかし日本は、その地理的環境(日射量、日射強度、風況等)から、国内の資源は質的にも量的にも恵まれていません。再エネの中で賦存量の大きな太陽エネルギー、風力エネルギーの賦存状況を見ると、この事実は明白です(図1及び2)。実際、このことはこれらのエネルギーのコストにも表れています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、日本の太陽光発電のコストは世界の約2倍、陸上風力発電は約3倍のコストです注5)。中東地域の太陽光発電コストの約6倍という情報もあります注6)。
国内の再エネ資源の活用を図ることは重要ですが、経済や国民生活に大きな負担を強いることなく導入できる量は限られています。先に見たように、日本が再エネの大量導入を図ることが必要な状況におかれていることを考えると、資源に恵まれた海外の再エネ資源の利用を図る手立てを持たなければなりません。
ところで、海外へのエネルギー依存を高めると日本のエネルギーセキュリティが損なわれるのではないかと懸念する見方があります。しかし、太陽,風力エネルギーの資源量はほぼ無尽蔵に存在しており、また(図1及び図2)から分かるように、これらのエネルギー資源は政情の安定している地域にも広範囲に賦存していますから、海外に再エネ資源を依存しても、日本のエネルギーセキュリティを現在よりも高めることはあっても損なう懸念は小さいと考えられます。
(図1)世界の年間日射量マップ
(図2)世界の風資源マップ
【水素エネルギー導入の意義】
海外の再エネの大量導入が不可欠という認識に立つならば、それを運んでくる方策を考えなければなりません。太陽,風力エネルギー等の再エネは、ふつう電気や熱エネルギーに変換されて利用されますが、海外から大量の電気や熱を長い時間をかけて長距離輸送することは困難です注7)。さまざまなエネルギー形態の中で輸送、貯蔵に優れているのは化学エネルギーです。よく、電気を貯める手段として蓄電池が挙げられることがありますが、電力を蓄積できる量、時間の長さともに、蓄電池は化学エネルギーに大きく及びません(図3)。
(図3)各種エネルギー貯蔵媒体の比較
水素は、その化学エネルギーとして重要なのです。水素は、地球上に豊富に存在する水と再エネから作ることができます。水素はエネルギーとして利用可能であり、燃焼時にCO2を排出しません。再エネから作られた水素の利用によって、再エネを大量に導入することが可能となり、日本は、今後厳しさを増すことが確実なエネルギー・環境制約を克服する手段を手に入れることができる可能性があります。そして、水素エネルギーの導入は、他の手段と比較しても経済的にも安価で有力な手段になり得ると分析されています注8)。
- 注5)
- “NEDO再生可能エネルギー技術白書(第2版)”(2014年3月)によるとメガソーラー、陸上風力による発電コストの最低値は、日本: 太陽光 37.6¢/kWh、風力 12.4¢/kWh; 世界: 太陽光18.7¢/kWh、風力 4¢/kWh。
- 注6)
- ドバイのDubai Electricity & Water Authorityの太陽光発電による電力価格は6¢/kWh。(出典: MENA Solar Outlook 2015, Middle East Solar Industry Association, January 2015)
- 注7)
- 一定の距離までは、電気を送電線により送電するという方法がありますが、送電線の建設コスト、送電中のロス、テロ等のリスクを考えると、日本では送電線による再エネの輸送可能範囲は限られます。
- 注8)
- 先の(注3)に引用した(財)日本エネルギー経済研究所の研究レポートを参照。