BIPV
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
2ヶ月ほど前、長年の友人であるエネルギー関連の米国人リサーチャーからEメールが入った。彼はいまEPRI(米国電力研究所)からの依頼で、BIPV(Building Integrated Photovoltaics:建物一体型太陽電池)について調査をしているのだが、日本の現状について調べるのを助けてくれないかという内容だった。独立した太陽光発電設備を住宅やビルの屋上にとりつけるという馴染みの形式のものは、BAPV(Building Applied Photovoltaics:建物取付型太陽電池)だが、いわゆるメガソーラーといわれる数百~数千キロワットの設備で空き地や工場・ゴルフ場の跡地、あるいは溜池に浮かせるものなども、この範疇に入ると考えて良いだろう。
屋根瓦やタイル、窓ガラスや壁といった建物の素材そのものが太陽のエネルギーで発電するものが商品としても出始めていることは知っていたが、その規模や価格、普及の現状や将来見通しなどについては不案内だったので、彼の知りたい内容を取りまとめて、NEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)の太陽電池担当部門にまず問い合わせてみた。NEDOがその実証プロジェクトを建物メーカーと行っていることは知っていたからである。だが、NEDOではそのような形式での分類で取りまとめはしていないので、提供できる形の情報がないという返事だった。そこで、太陽光発電協会(JPEA)に同じ問い合わせをしたが、NEDOと同様、太陽光発電設備の全体規模の動向しか分からなかった。
EPRIがこのリサーチをするきっかけになったのは、スイスとオランダの研究機関が発表したレポート(BIPV Status Report 2015, SUPSI-SEAC)だ。そこから得た理解では、フランスが都市部に建てる建築物には太陽光発電を設置することを義務づけたように、欧州諸国の太陽光発電促進に向けた制度の動向が、大規模のものから建物単位に普及をシフトさせようとしており、今後BIPVが現在の1%程度から大きくシェアを伸ばす可能性があるということだ。とは言え、その市場動向は日本や米国とそれほどかけ離れたものではない。日本での実証試験内容や、商品化されているものの具体例などを個別に見ていると、日本でも同じような形式のものの比重が高まるだろうという実感がある。
日本の例を見ると、住宅メーカーが販売しているゼロエネルギーを目指した建物の屋根の素材そのものが太陽電池になっているものもある。公共施設のアトリウムの広い天井全体が半透明の太陽光パネルでできていたり、窓や、建物の顔とも言えるファサードの素材が太陽光発電素材と一体化している事例がある。最近の技術開発で、ペイントのように塗布できるものも実用化されたようだ。そこでは、単なる発電コスト比較ではなく、建物全体のデザイン、快適性、効率性などを考慮する時の一要素として検討されているために、コストよりも建物のデザイナーの考え方に支配されるケースが多いらしい。いわば、建物そのものが太陽光発電設備としてデザインされるということだから、建築素材としての規格も新たに検討され、建築業界に大きなインパクトを与える可能性もある。そして、太陽光発電そのものについても、キロワットあたりの発電コストという数字の意味が希薄になっていくだろう。
将来的には、BIPVがある所には当然のように蓄電池や燃料電池が設置され、さらには建物同士の電力制御が一体化し、配電系統から独立もできるし、系統品質の向上に貢献するようにもなるだろう。まだよちよち歩きの段階だが、将来逞しい分散型電源として育つことを期待したい。