新たな環境技術で、太陽光パネル廃棄物問題の解決なるか


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 太陽電池パネルを酸化クロムの半導体上に置き、約500℃で約20分間熱すると、パネル内の樹脂から電子が半導体に引き抜かれます。樹脂全体が不安定化し、樹脂は細かい分子へと分解します。分子は空気中の酸素と反応して完全燃焼し、樹脂が全て除去されます。熱処理の後に太陽電池パネルを叩くだけで、ガラスが粉々になり、太陽電池セルを簡単に分けることができます。また、銅とすずの合金製導線なども簡単に取り出すことが可能です。


図4 TASC処理により太陽電池パネルから回収された有価物       シリコン太陽電池セル、ガラス・カレット、インターコネクター 出典:ジンテク

図4 TASC処理により太陽電池パネルから回収された有価物
シリコン太陽電池セル、ガラス・カレット、インターコネクター 出典:ジンテク


 TASC技術により、太陽電池パネル内の有機化合物のポリマー成分をクリーンな形で完全分解し、パネルの解体、そして有価物(ガラス、シリコン・ウェファー、銀をはじめとする電極材料)の回収に成功しました。(図4)TASC技術は100%乾式法で、処理工程もシンプルなため、太陽電池パネルのリサイクルにかかるコストは現在の10分の1程度になると言います。

TASC技術の応用

 TASC技術のメリットは、有機化合物(炭素を含む化合物)を完全に分解する力を持つ一方、無機化合物(炭素を含まない化合物)には何も影響を与えないことです。有機化合物と無機化合物が混ざり合った物質から、有機化合物を完全に取り除き、無機化合物を原形のまま取り出すことが可能です。

 また、ポリマーのような巨大分子が一瞬にして完全分解されるため、太陽電池パネルの解体と有価物の回収のみならず、他にも応用が可能です。「繊維強化プラスチック(FRP)のリサイクル」においてポリマー・マトリックスのみを分解し、強化繊維を回収することや、ボンド磁石等から「レアアースやレアメタル等の金属の回収」、「VOC(揮発性有機化合物)汚臭等の完全浄化」、「焼成炉から発生するタールの除去」などへの応用が期待されています。

 現在、TASC法は特許出願中で、5年以内の実用化を目指しているそうです。TASC法は、将来起きるだろう太陽電池パネルの廃棄物問題に対して、安価で簡便なリサイクル技術を提供するとともに、環境分野のさまざまな課題を解決する画期的な技術としての可能性を秘めていることに期待が大きく膨らみます。

※TASC技術の詳細や問い合わせは、「ジンテク」のウェブサイトをご参照ください。
http://jintech.org/?page_id=57