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自然に学ぶ地層処分


名古屋大学博物館 館長・教授 (応用地質学)


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 地球環境・地球科学・社会科学の境界問題の1つとして、原子力発電によって生じる高レベル放射性廃棄物の地下処分(地層処分)が挙げられる。これは、近年の人間活動に伴うエネルギー消費の代償とも言えるかもしれない。この課題に対して、これまでのOECD/NEAなどでの数十年来の議論を通して、現世代で生じたものは現世代で対応する(将来の世代に先送りしない)というのが国際的なコンセンサスとなっている。

 地層処分の特徴は、その廃棄物の長寿命という性質から、地下数百メートルよりも深い地質環境に数千年〜数万年以上に渡って隔離し、最終的には自然環境に委ねるというところにある。要は、放射性廃棄物の放射能が半減期によって減衰するまでの期間、地球表層での生態系に影響を与える物質循環システムから隔離するというものである。では、そのような考えはどこからもたらされたのか。

 地層処分というアイデアは、実は、アフリカ・ガボン共和国の地下約400mのウラン鉱床中から発見された、約20億年前のオクロ天然原子炉(自然現象:ナチュラルアナログ)という自然現象に由来する。それはどういう現象だったのか。天然ウラン鉱石中の核分裂反応(臨界反応)を生じさせるウラン235の含有量は、その半減期(約7億年)から、約20億年前のウラン鉱石中には自然の状態で約5%含まれた状態にあった。これは、現在の原子力発電に使用する核燃料中のウラン235の濃度に匹敵する。そこに自然由来の中性子が衝突することで地下のウラン鉱床中で臨界に達し、「天然原子炉反応」が生じた。この事実を知ったIAEAや各国の大学・研究機関は、地下岩盤中で臨界に達したウラン濃集部分を詳細に調査し、原子炉反応によって生じた核分裂生成核種が20億年間保持されてきたことを明らかにしてきた。そしてこの現象が、放射性廃棄物「地層処分」の類似現象「ナチュラルアナログ(Natural Analogue)」だとして、今日の地層処分という手法が具体的に考えられるようになった。

 「オクロ天然原子炉」の示すところは、自然界における自発的核分裂現象の地球化学的な発見というだけでなく、地下岩盤(環境)は、天然のウランや核分裂反応で生じた放射性物質を長期に渡って保持する働きを潜在的に有している、ということである。こうした自然現象から、地層処分というアイデアが有力視されるようになった。その後、天然原子炉現象のみならず、なぜウラン鉱床が形成され長期に岩盤中に保存されるのかなど、地下環境の隔離(保存)機能に関する地球科学的研究が世界中で実施され、地層処分の有効性が広く受け入れられてきた。そして現在、原子力発電を実施しているほとんどの国で地層処分が採用されるに至っている。

 地層処分において、地下環境に放射性廃棄物を隔離するためには、地下に廃棄物を搬入・埋設し、その後にアクセスした孔(立坑やボーリング孔)のより確実な長期的シーリングが不可欠となる。コンクリートがその人工的シーリング材の1つとして検討されているものの、現時点では数千年以上もの耐久性を保障するには至っていない。一方で、自然界には数千万年〜数億年以上に渡って物質の状態を隔離・保持しているものがある。球状コンクリーションである(写真1)。球状コンクリーションは、炭酸カルシウム(カルサイト:CaCO3)を主成分とする球状体の岩塊であり、そのサイズは数センチ〜数メートルと様々である。これらは世界中の数億年〜現在までの堆積岩中から発見され、保存良好の化石を内包する。その存在は、約一世紀も前から地球科学の分野では知られていたものの成因は不明であった。しかし、近年の我々の研究から、内包される生物の有機炭素成分と、海水由来のカルシウムイオンとの急速な沈殿反応で形成されるということがわかってきた。海に棲む生物が、海底で堆積物に埋もれて腐っていくにつれ有機質部分が分解し、放出される有機炭素と海水中のカルシウムイオンが反応し、まるでカプセルのように自分を包み込見ながら丸く成長するという仕組みである。その速度は非常に速く、直径1メートルサイズでも数年で形成される。


写真1:ニュージーランドのモエラキ海岸で見ることのできる球状コンクリーション。
約4500万年前の地層から産出し、内部には保存良好なクジラ頭部の化石が内包される。

 従来、コンクリーションは内包される化石殻の炭酸カルシウム成分の再沈殿によるものと考えられていた。しかしそうであるなら、内包される化石は溶けているべきで保存良好なはずがない。コンクリーション中の化石が数千万年以上もの長期間を経てもなお保存良好なのは、急速に沈殿したカルサイトが堆積物の細かい隙間を充填・シーリングし、外部との化学反応を遮断するためである。コンクリーションに着目した理由もそこにある。非常に短期間で生じ、かつコンクリートよりも長期に渡って物質を隔離できる自然のプロセスを「地層処分」に応用することができれば、数千年〜数万年という時間スケールでのシーリングも不可能ではない。

 地層処分は、地下数百メートルよりも深い地下環境に放射性廃棄物を数万年以上、隔離しなければならない。数万年以上もの間、放射性廃棄物を安全に隔離するためには、自然の仕組みに委ねるしかない。自然に委ねるのであれば、自然に学んだ技術である方がより確実である。その考え方のもと、コンクリーション化を応用したシーリング素材を民間の化学工業会社と共同開発し、実用化するに至っている。このコンクリーション化によるシーリングプロセスは、地層処分のみならず、地下トンネルなどのコンクリート構造物修復や、石油掘削、二酸化炭素貯留(CCS)及びLPG備蓄等地下空間利用に伴うボーリング孔の長期シーリングといったさまざまな地球環境・経済活動に関わる工学技術にも応用可能である。

 地層処分に限らず、二酸化炭素地下貯留など、地球環境に関わる今後数百年〜数千年を超える課題や技術を克服するためには、自然界で生じてきた自然の仕組みに学び、自然と調和する技術が不可欠である。放射性廃棄物の地層処分は、今日の不可避的課題である。如何にその長期的隔離技術を確保するのか。コンクリーション化はその一例に過ぎないが、地層処分のみならずさまざまな長期的地球環境課題に対して、安全性を高めるための技術を自然に学びつつ構築することが、今後、地球環境及び経済活動においても益々重要になることは間違いないであろう。