地域で奮闘する若者たちの人物像

書評:田久保 善彦 著「東北発10人の新リーダー 復興にかける志」


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2015年5月15日付)

 千年に一度と言われた東日本大震災から丸4年。津波と地震、そして原子力事故が何もかもを根こそぎ奪っていったかと思われた東北の地に、新たな芽が確かに育っている。この本は、東北復興に携わる10人の若きリーダーについて、丹念な取材を重ねその人物像を明らかにしている。

 最初に登場するのは、宮城県山元町で日本を代表するブランドイチゴを生産する農業法人を立ち上げた岩佐大輝氏。彼は震災当時、東京でIT企業を経営する立場にあったが、故郷の山元町の被災を知り、支援に駆けつける。泥かきや片付けといった典型的な災害ボランティアに携わる中で、地域の人の「ここに仕事もってきてくれや」という言葉に衝撃を受けたという。生業が戻らなければ、震災後という非日常から抜け出すことは出来ない。この地で盛んだったイチゴ生産を復活させ町を再興することを決意したという。

 しかし従来型の地面に直接苗を植える家族経営方式ではいずれ行き詰まる。東北復興は、被災からの復旧という観点の上に、日本の地方があまねく抱える過疎化や高齢化といった問題を重ねて考えなければならないのだ。彼は生産スタイルも販売ルートも、全く新たに開拓した。

 その結果、この農業法人が生産するイチゴは「ミガキイチゴ」の名で呼ばれ、1粒千円の値がつくブランド品に成長した。経済的に自立し得る農業を徹底するその取り組みは、多くの第一次産業関係者にとって参考となるだろう。

 第8章に登場する鎌田千瑛美氏は全く違うタイプのリーダーだ。南相馬市で生まれ育った彼女は今、福島の女性たちが本音で語り合える、つながり合える場を提供している。放射性物質の健康影響に対する不安は特に女性たちの心に澱のようたまっている。その不安を吐き出しあい、そして広島のいわゆる被爆2世と言われる方々の話を聞く。大らかでおせっかいな彼女による「人繋ぎ」が、多様性を認め合う新たな福島を作りあげつつある。その様は、これからの地域コミュニティーのあり方へのヒントともなる。

 東北に息づく新たな芽に、今後の日本の活性化を学びたい。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

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「東北発10人の新リーダー 復興にかける志」 
著者:田久保 善彦(出版社: 河北新報出版センター)
ISBN-10: 4873413206
ISBN-13: 978-4873413204

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