2030年度電源構成のなかの再生可能エネルギー(再エネ)比率の意味を考える(その2)

当面、石炭火力を利用すれば、再エネ電力の利用は不要である


東京工業大学名誉教授

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電源構成のなかの再エネ比率が、故意に原発電力比率と結びつけられている?

 4月28日(2015年)に発表された経産省の2030年度の電源構成案を3.11の事故の起こる前(2010年度)の電源構成の値と対比して表2-1に示した。ただし、ここに示した2010年度の値は、朝日新聞(2015/4/29)に掲載された値で、エネルギー経済統計エータ(以下、エネ研データ、文献2-1)による値とは一致しない。例えば、原発発電量と火力発電の合計の総発電量に対する比率が、それぞれ、29%と61%となっているが、エネ研データ(文献2-1)から、電力事業者と自家発合計での比率は、24.9%と66.7%と計算される。
 3.11の原発事故以来、脱原発を訴える人々は、再エネ電力を利用すれば、原発は不要としている。表2-1に示す経産省の2030年度再エネ比率22~24%から、2030年度の総発電量が2010年度と変わらないとし、かつ、2010年度の化石燃料(石油、天然ガス、石炭)火力の発電量比率の値61%を保つとすれば、2030年度の原子力比率は15~17%で済むことになる。それが、表2-1に見られるように、化石燃料火力の合計を56%として2010年度より5%減らすとしているので、原子力比率は20~22%必要になるとして辻褄合わせをしている。ここで、辻褄合わせと記したのは、経産省による2010年度の原子力発電比率の値が、エネ研データ(文献2-1)からの計算値24.9%を29%としているからである。この4.1%の違いは、エネ研データ(文献2-1)の2010年度の火力発電の比率66.7%と2030年度の61%の差5.7%の差で、ほぼ埋め合わせされていることを指す。国のエネルギー政策を決めるための2010年度の電源構成の数値に、実際(エネ研データ(文献2-1)からの計算値)と異なる数値が用いられていることが先ず問題にされなければならない。

表2-1 経産省による2030年度の電源構成案(朝日新聞2015/4/29から)

表2-1

注:

*1;
エネ研データ(文献2-1)の水力発電の比率7.8% が主体となっており、その差2.2%が再エネ(中小水力)となっている。
*2;
エネ研データ(文献2-1)からは、24.9%

当面、石炭火力発電を増強すれば原発も再エネも不要である

 より重要な問題は、もし、2030年度の火力発電の比率を表2-1の56%に、再エネ比率の値22~24%を加えた78~80%にまで上げることができれば、原理的には、原発電力をゼロにできることになる。いま、それができないのは、地球温暖化防止のCO2の排出量を削減するために、化石燃料消費を削減しなければならないとされているからである。
 しかし、日本だけが、化石燃料を削減しても、地球温暖化を避けることはできないことは明らかである。地球の温暖化は地球の問題であるから、もし、地球温暖化防止のために化石燃料消費量を削減しなければならないとしたら、下記(本稿(その3))するように、世界各国が協力して化石燃料消費を削減する以外に方法がない。
 いま(2015年)、日本では、原発ゼロでも、電力の需要を何とか賄うことができているが、その代償として、火力発電用の化石燃料の輸入代金が貿易赤字増加の要因になっている。もちろん、国産の再エネを利用すればよいのだが、本稿(その1)で述べたように、現状では、国民に経済的な負担をかけるFIT制度を用いても、原発電力分の再エネ電力を賄うことができるとの保証は得られない。
 したがって、原発分の電力を確保しようと考えるのであれば、現状の電力需要の節減と同時に、原発電力代替の化石燃料の種類を、私が主張してきたように(文献2-2)、現状で最も発電コストの安価な石炭火力発電の使用量を増やす以外にない。
 化石燃料のなかで、確認可採埋蔵量(現状で経済的に採掘可能な量)Rを生産量Pで割った可採年数R/Pの値が113年(BP社による推定値、2013年末の値(文献2-1))と大きく、その生産地が分散していて供給が安定している石炭を用いた火力発電では、図2-1にその発電コスト(燃料費)の計算値を示すように、現状で、最も安価な電力が供給できる。実際の石炭火力の発電コストは、この燃料費に2~3割程度をインフラ整備コストとして加算しなければならないが、それでも、その発電コストは、石油やLNGを用いた場合の半分以下で済む。また、図2-1に示すその年次変化に見られるように、この状況は当分大きく変化しないと見てよいであろう。


注; (化石燃料種類別発電コスト(燃料費))=(燃料種類別消費量)×(燃料種類別輸入CIF価格)/ (燃料種類別発電量)として計算した 図2-1 化石燃料の種類別の発電コスト(燃料費)の計算値の年次変化  (エネ研データ(文献2-1)の一般電気事業者(電力会社)のデータをもとに計算した)

注; (化石燃料種類別発電コスト(燃料費))=(燃料種類別消費量)×(燃料種類別輸入CIF価格)/ (燃料種類別発電量)として計算した
図2-1 化石燃料の種類別の発電コスト(燃料費)の計算値の年次変化 
(エネ研データ(文献2-1)の一般電気事業者(電力会社)のデータをもとに計算した)

地球温暖化対策とバッテイングしない石炭火力の利用を求められている

 ところで、いま、この石炭火力の利用を阻んでいるのが、上記した地球温暖化の問題である。すなわち、同じ火力発電のなかで、CO2の排出量が最も多いとして、環境省による規制で、2005年度以降、この石炭火力の新増設が認められなかった。今でも、3.11の原発事故後の規制の緩和を利用した電力会社による石炭火力発電所の新増設計画を支援する経産省と、温暖化対策にこだわる環境省との間で、その利用の可否を巡ってせめぎ合いが続いているようである。
 しかし、本稿(その3)で述べるように、地球の問題としての温暖化を促すとされるCO2の排出の増加を抑制できる方策を世界に向って提示できれば、日本は、当分は、石炭火力を使うことで、化石燃料の輸出金額を低減することが許されるべきである。

引用文献

2-1.
日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMエネルギー経済統計要覧、2015年版、省エネセンター、2015年
2-2.
久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012 年

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