続・欧州のエネルギー環境政策を巡る風景感

-エネルギー連合(その2)-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 前回、エネルギー連合パッケージ案の5つの柱を紹介したが、それぞれに盛り込まれた主な政策は以下のとおりである。

エネルギー安全保障、団結、信頼

エネルギー供給の多様化(エネルギー源、供給ソース、供給ルート)
中央アジアからのガス供給のためのサザン・コリドーの促進
包括的なLNG戦略の策定
原子力燃料、関連サービスの供給源多角化
国産エネルギー(再生可能エネルギー、在来型・非在来型化石燃料)は欧州の輸入依存度低下に貢献。シェールガス等の非在来型化石燃料はパブリックアクセプタンスと環境面のインパクトに適切に対応すれば一つのオプション。
供給安全保障に向けた協力
地域、EUレベルでの予防・危機管理計画の策定
危機が起こった場合であって加盟国が単一の供給者に依存している場合のガス共同購入のための自主的な需要集約メカニズムのオプションを検討。WTO、EU競争法との整合性に留意。
各国の状況を踏まえたEUワイドの電力供給セキュリティの評価。キャパシティメカニズムは地域レベルで必要があるときのみ導入。
グローバルなエネルギー市場におけるEUの役割強化
重要な生産国、通貨国と戦略的パートナーシップ(アルジェリア、トルコ、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、中東、アフリカ、ノルウェー、米国、カナダ)
条件が整えばロシアとのエネルギー関係を再構築
ウクライナとの戦略的パートナーシップの強化
ガス供給の透明性強化
政府間協定(IGA)及びそれに伴う商業契約は一度締結されると再交渉が困難なので、締結前の早期段階から欧州委員会に通報し、域内市場ルール、供給安全保障の観点から評価。
EUのエネルギー安全保障にインパクトがあるものについては、商業契約であっても透明性を確保

完全に統合された域内エネルギー市場

域内市場接続のためのハードウェア
欧州接続ファシリティ(CEF)、欧州構造投資基金(ESIF)、今後設立される欧州戦略投資基金(EFSI)を通じて域内市場接続のための大規模投資、特に共通利害プロジェクト(PCI)を支援
図1 電力分野のPCI

図1 電力分野のPCI

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図2 天然ガス分野のPCI

図2 天然ガス分野のPCI

大規模インフラ投資の進捗状況をモニターするため、2015年からエネルギーインフラフォーラムを開催
域内市場接続のためのソフトウェア強化
2016年に電力供給安全保障に関する指令を提案
2016年に新たな欧州電力市場のデザインに関する指令を提案
欧州電力ガスTSOネットワーク(ENTSO-E/G)の機能を強化
エネルギー規制当局協力庁(ACER)の権限を現在の勧告・意見から抜本的に強化
キャパシティメカニズムや再生可能エネルギー支援策が既存のルールに準拠したものであり、域内エネルギー市場を歪曲しないよう確保
エネルギーコスト、エネルギー価格に関する報告書を2年に1度作成し、税、課金、補助金を分析、コストを下回る規制価格をフェーズアウト

エネルギー効率

2015/2016年に省エネ関連の指令をレビューし、2030年目標達成のために必要があれば改正
ビルのエネルギー効率改善
既存建築物のエネルギー効率改善のための「スマートビルディングのためのスマートファイナンス」を開発
運輸部門のエネルギー効率改善、脱炭素化
道路輸送部門のエネルギー効率改善のためのパッケージの提案
代替燃料導入のための市場条件の整備

経済の脱炭素化

野心的な気候変動政策
EU-ETS、EU-ETS対象外のセクターに関し、関連指令を整備
再生可能エネルギーで世界一に
2016/2017年に新たな再生可能エネルギーパッケージを提案
国境を超えた市場開放が行われるよう、関連ガイドライン、環境エネルギー補助ガイドラインに基づき、各国レベルの再生可能エネルギー支援制度の協力、収斂を図る。

研究、イノベーション、競争力

2015/2016年に戦略的エネルギー技術計画、戦略的運輸部門研究イノベーションアジェンダから成る欧州エネルギー研究イノベーションアプローチを提案

 エネルギー連合パッケージの主な項目は以上のとおりである。通読してみると5つの柱を掲げているものの、その重点はエネルギー安全保障(特にガス)、域内エネルギー市場統合に置かれているものと看取される。もともとポーランドのトウスク首相の提案もウクライナ情勢に触発されたエネルギー安全保障色の強いものだった。他方、省エネや脱炭素化、再生可能エネルギーについては昨年10月に合意した2030年のエネルギー気候変動パッケージの中で取り上げられているため、ほとんど新味がない。

 これはあくまで欧州委員会の提案であり、今後はエネルギー大臣会合、欧州理事会で議論されることになるが、エネルギー連合実現への道筋は必ずしも容易なものではない。次回はその事情について論じてみたい。

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